第69話「うわ、自意識過剰」
夢っていいところで目覚ましが鳴って結果が分からないよね。
セットしていたアラームが起きろと言ってくる。
不愉快だ。凄く不愉快。久しぶりに目覚ましをうるさいと思った。
毛布を半分に折り上体を起こす。
ドアを閉めていても階下から朝食を思わせる臭いが届いてきて腹がやけるような症状。
さて、ベットから下りますかね。あ、ちょっとやっぱりダルい。5月病かしら。
制服に着替え一階へ向かうと、作業服姿の父親に遭遇した。
「おはよう」
「グッドモーニング」
「日本語で返せよ」
「知らないのか? 最近流行してるんだぞ」
「初耳だわ、そんなのっ」
ていうか、ここ数年で一回もそんな話耳にも目にも入ってきていない。
それともまだ波が来てなかったりするんだろうか。
「今日は元気だな」
「誰のせいだよ」
「いや、下のおま……」
「セクハラで訴えますよ?」
「え、親子でもそれ成立するのか?」
「冗談だよ」
下ネタは朝からはキツイって。それに付き合う俺も同罪だけど。
「あ、おはよう。二人で来るなんてゲリラ豪雨ヤバいんじゃない?」
「ヤバくない。親子だし、同じ家にいるんだから普通だろ」
「いかにも」
キショい。なにが腕組んで頷いて“いかにも”だよ。
そんなタイプじゃないでしょ、あなたは。
「ささ、早く食べよ。冷めたら意味ないし」
「そうだな」
ラブラブかよ。互いに目を合わせてニコッとしている。
何この置いてきぼり感。
「あ、ケチャップ? ソース? それともからし?」
「ウインナーにつけないだろ。からし」
「え、つけるよ。フランクフルトつけてるじゃん」
「あれはな。つか、種類が違うだろ」
「まぁまぁ、つけてみんしゃいよ」
「あー!? バカッ」
なにをしてくれちゃってんの、このジジイー。
ご丁寧にまんべんなくかけやがった。
「食べてね?」
「それはないってお母さん」
「もったいないでしょ」
「うぐ、分かったよ」
「ケチャップかけていいか?」
自分のやられたらキレるくせによ。
ケチャップを寄こしてくる母を気づかれないように睨みそれを受け取る。
マスタードとカラシってまったく別物だよな?
「あ、あれ、中々美味いかも」
「でしょ? やってもいないうちから食べないのは今後無しね」
「場合による」
「じゃあ、そういうわけだから俺は行くぞ」
「いつの間に完食してたっ」
言うが早いか父は目にも止まらぬ早さでリビングを出ていった。
片づけはしていけよ。仕方ないかたしてやるか。
「凪そのままにしておいて」
「お、おう」
怒ってる。瞳の奥が怒でいっぱいだ!
触らぬ神に祟りなし。食べ終わったし出発しよう。
もちろん食器は流しに置いて。
「行ってらっしゃい。美沙ちゃんによろしく言っておいて」
「なにを言うの?」
「適当に」
「はいはい、行ってきます」
めんどくさいから真面目に聞かないようにしよ。
外へ出る。
片足を地面につけ、スマホをイジる自転車に乗った美沙がドアを開けてすぐ目に止まった。
制服の色も相まってか美脚に見える。
「おはよう凪」
「おはよう」
「なんか最近暑くない?」
「まぁ、GMも終わったし」
「梅雨に入っていくにしたってじゃん」
「ていうか、梅雨を抜かして夏っしょ」
「だよね。まだ冬のほうがいいかも」
「まだな。冬は冬でデメリットだらけだろ」
「にしても、暑いっ」
「風をきれば少しは涼しくなるんじゃないか?」
「そうだね」
スマホを前かごのカバンにしまい加速を始める。
やっと出発できる。
一回話し過ぎて遅刻しそうになったことがあるからひやひやした。
学校に向かうまでの間他愛のない会話を繰り返し正門。
自転車を駐めていると、「おはようございます」「おはよう」と二人の声が耳に入った。
新川兄妹か。
「おはよう」
「おはよう。新川二名」
「ちょっと小堀先輩雑ですっ」
「そんなことないと思うけど」
「そんなことあります」
「ほら、早く行くぞ」
こんなところで足止めされていてはせっかく早く来た意味がない。
世間話は校舎の中に入ってからにしてほしいもんだ。
強引にみんなを引き連れ校舎内に入る。
「じゃあ、またお昼に」
「お、おう」
また話をしてくるかと思ったら紗衣氏は背中を見せた。
ちょっと変な気分になりつつ二階。
「じゃあ、そゆことで」
「おう」
「またお昼ね」
「じゃあな」
朝のHR前に駄弁りに行くとは一言も言ってないから分かれるのはいいんだけど、さっぱりしすぎというかなんというか。
「あ、おはよう。花咲君」
少しは名残惜しそうにしてほしいな。
若干すねながら教室に入ると、美野里さんが声をかけてきた。
挨拶を返し席につく。
「この間はごめんなさいでした」
「この間?」
「ほら正門前で待ち合わせしたときのこと」
「あ〜、気にしないで。美野里さんは全然悪くないから」
というのは嘘で、正直少しは憎んでいる。
美野里さんが正門を待ち合わせにしなければ厄介なことにはならなかったわけだし。
「それでさ、めっちゃ可愛かったあの子ってどういう関係なの?」
「親友の妹だよ」
「え、もしかしてスーパーで一緒にいた子?」
「うん、俺と美野里さんの記憶があってれば」
スーパーで一緒にいたのって実は二人いるんだよね。
言わないけど。あと目キラキラしてるから聞かれまくるんだろうな……。
「なんかめちゃくちゃ怒ってたよね」
「美野里さんとは遊ぶのになんで私とは遊んでくれないのパターン」
「遊んであげればいいじゃん」
「いやいや、あの子は俺の事好きだから」
「うわ、自意識過剰」
「……とにかく油断したらヤバいんだって」
手錠か結束バンド手にしだしたらいよいよお巡りさん出動ですよ。
そうならないための緩急。
「そうなんだ。あ、残念先生来ちゃった」
「ホントだ」
助かった……。担任が入ってくるなり、板書しだした。
可愛らしい字をお書きなことで。
「早いよね、席替え」
「まぁ、大体2ヶ月は超える気がする」
「うんうん」
そう先生が書いたのは席替え。しかも、またも男女別の仕様のようだ。
教壇には箱が置かれている。
くじ引き。公平である。
「じゃあ、端の人から順に引いていってください」
「近くに来てほしいな〜」
「こればっかりは運だからな」
「……うん」
多分俺と美野里さんの願いは相反するものだから離れた席になる。
ウソだ〜と思うかもしれないが、ウソになるかもしれない。
なにせこういったものは運だから。
全員が引き終わり、先生が一から三十までの数字をランダムに書き上げた。
これでまた隣だったらなにかを感じてしまうものだけど。
「……なん番?」
「俺十番」
「あ〜、あたし三番。離れちゃったね」
「いやでも、同じクラスだし」
「だよね。ありがとっ」
荷物を持って離れていく美野里さん。
これで、穏やかな生活を送れる。
ちなみに、俺の席は窓際の一番後ろの席。美野里さんは対局のドア寄りの一番前。
まるで心の距離を表してるかのようだ。
俺が美野里さんに抱いている気持ちはこのくらい離れている。
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