第70話「男女の友情あると思います?」
――バイトの帰り道でスマホが鳴っていたので帰宅して見てみたら美野里さんだった。
なんの用だろう。
[美野里:今度いつお休み?]
[花咲:今のところ日曜日が休み]
[美野里:予定とかある?]
遊びの誘いだった。
特段断る理由もないし、受けちゃおうかな。
[花咲:特にないよ]
[美野里:じゃあ、遊んでくれる?]
[花咲:オッケー]
[美野里:この間みたいに知り合いに見られたら花咲君大変そうだから]
[美野里:私の家の近くで集合しよ?]
[花咲:家どの変なんだ?]
[美野里:土手の近くにあるコンビニ分かる?]
[花咲:分かる]
[美野里:じゃあ、そこで]
[花咲:了解]
[美野里:大丈夫そう?]
美沙と紗衣氏の行動範囲からは多分出ていると思う。
ただ言っても町だからなんかの理由で土手に来る可能性がゼロでもない。
だがまぁ、かと言って他に場所もないし了承しておこう。
[花咲:大丈夫]
[美野里:それじゃ楽しみにしてるね]
さて、そろそろ飯の時間だ。スマホをスリープにしてリビングへ向かった。
☆☆☆
約束の日。毎度のことながら美沙以外の女子と出かけることにシビアな母をスルーして待ち合わせ場所に急いだ。
先に着いてるのはあったとしても遅れてくるのは避けたい。
なんでと言われても答えに困ってしまうけど。
プライドと答えるのが妥当かも分からない。
「……早いよ、美野里さん。前日からここにいるでしょ」
「私補導されてるよっ」
「あ、そっか。でも、早い。何時間前にいた?」
「いや、ほんの数分前」
「……にわかに信じがたい」
「レシート見てみる?」
「その手があったっ」
証拠になり得るのを発見し、少し興奮してしまう。
そんな俺を見て笑みを浮かべて美野里さんがレシートを渡してくる。
「今なん時?」
「今十時三十分だよ」
「五分前か……」
「ね? 来たばっかりでしょ」
「ごめんなさい」
「花咲君の気持ち凄く良く分かるから安心して」
「それは知ってる」
考えが合うのはいいけど、俺よりも上をいかれるとちょっとね……。
「はい、花咲君の分」
「……お、俺を罪悪感で潰す気?」
「考え過ぎだって。私が言うのもなんだけど」
「受け取っておく」
「そうしてくれると嬉しい」
なんかお姉ちゃんのような微笑み。いたことないから完全に想像だけど。
ほっこりしてジュースをもらう。
それで一息つき、デパートへ向かった。
――到着し、駐輪場にチャリをとめると、美野里さんが口を開いた。
「席変わっちゃったからさ。なんとなくこの先花咲君とどこか行くのあんまりないような気がするから約束したの」
「そうなのか」
まるで心中を見透かしていたかのような美野里さんの言葉に口では冷静を装いながらも少し動揺してしまう。
一瞬あたふたしてしまいそうになったよ。
「あと私もバイト忙しくなってきたし。シフトが多くなってきたの」
「なるほど。そういうことか」
「じゃあ、早速行こうか」
「あぁ。どこ行くんだ?」
「まずはアクセサリーショップかな」
「オッケー」
そんなわけで現地。日曜日ともなると賑わうのな。
前来たときは平日だった記憶だけど人がまばらだった。
「今日はウィンドウショッピング。今日は買わないから」
「いやなにも言ってないぞ」
「うん、念のため」
なんの念の為なの?
返答に困っている俺をよそにスタスタと歩く美野里さんは満足したようでショップを出てしまった。
「は、早くね?」
「時間は有限だからね。それにスイーツが無くなったら大変だもん」
「それは確かに」
有名なスイーツ店ともなると、人気なスイーツは開店してすぐに売り切れてしまう。
タダだったら始めからスイーツ店に来てればよかったんじゃないかと思ってしまうのは俺だけ?
スイーツ店に行くと、それはもう選択肢が狭くなっていた。
「やっぱり最初に来ないと日曜日は無理だな」
「次から気をつけよう」
「そうだね……」
「イチゴショート二つで」
「ありがとうございます」
「ここは俺が出すよ」
「自分のは自分で出すよ」
「ここは甘えてください」
「……分かった」
「空きっ腹に甘いもの入れるのもなんかあれだしフードコートで主食系食べようぜ」
「うん。あ、じゃあ、それを私が持てば貸しはチャラだよね?」
「貸しとか借りとか考えてないけど」
「私は考えるの。よし、行こう」
腕を掴まれた。この瞬間をみられたらアウトだな。
美野里さんに引き連れられフードコート。
いっぱいいるじゃん。みんな考えてることは同じ。
いつの間にか腕から美野里さんの手が離れていた。
「中は空いてないね」
「ん? てことは、外もあるのか?」
「ベランダみたいなところがある。ほら」
そう言って美野里さんはそこを指差して示してくる。
ホントだ。どこぞのお金持ちの家のベランダみたいなそれである。
白を基調としたテーブルに椅子。さすがデパートと言ったほうがいいのかな?
「……」
「美沙はさ、なににしたの?」
「あ、え、私は和風バーガー」
少し離れたところを美沙が歩いていった。
新クラスでできた友人だろうか。
見たことない人とつるんでいる。
女子で良かった。男の子だったら魂抜けてたところだ。
「どうしたの? 知り合いでも見つけた?」
「あぁ。幼なじみ」
「男?」
「いや、女」
「……そうなんだ。アメリカンバーガーで良かったんだよね」
「大丈夫」
「じゃあ、ホイップが溶ける前に公園行こう」
「だな」
――空いてる席が結局無くて最近行ってる頻度の高い公園で昼食を摂り、そのまま美野里さんを自宅近く前まで送って帰宅してもなお美沙からの連絡が来なかった。
そればかりか明くる日においても美沙はそのことに触れてこず。
ここまでくると恐怖なんですけどっ。
自分の教室に着くと、ほぼ毎日来た明るい声は席が両極端なところに離れてしまったため聞こえない。
日課になってしまうって凄いね。
とか思ったらカバンの中でスマホが震えた。
[美野里:なんか調子狂うね]
[花咲:ちょうど今そう思ってた]
[美野里:HRまで付き合って]
[花咲:いいぞ]
[美野里:とか言いつつ話すことないや]
[花咲:えー]
[美野里:めんごめんご]
離れたら終わらない関係っていいかも。
そう思いながらスマホをしまった。
――それは、快晴で太陽光が目一杯降り注がれる中投下。
爆弾ではない。
この間の美野里さんとの外出について美沙がいつものメンツに突然くっちゃべりやがった。
なんの動きがなかったのはこのためか……。
紗衣氏の耳に入れちゃだめでしょ。
「話聞かせてもらいますよ」
「美沙が言ったことまんまだけど」
「デートっすよ……」
「いや、お出かけだから」
「男女の友情あると思います?」
「あるから。無いなんて断言はさせない」
「先回りしないでくださいよ……」
「……美味っ」
ていうか、明さんはなんでどこ吹く風で飯食ってんだよっ。
美沙は美沙でしてやったりな表情してるし。
中立の立ち位置の高林さんに目を向けると、さきにこっちを高林さんが見ていた。
しかも、なんか無ながらわずかに怒りが混じってる。
どうやら俺が間違っているらしい。
「百歩譲ってそのお出かけとやらは今回は大目に見ます。けど、その先輩は凪君のこと好きですよ」
「いやいや、それはないべ」
「あります」
アウェー。限りなくアウェー。
明から冷たい視線が来た。
――完全敗北ときした昼から時間が経過した今もなお高林さんの機嫌は治っていない。
どこか解せないことがあったようだ。恐らく俺の言動の中に。
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