第68話「急に素はやめてください」

 なにか悪いことをしてないかと言わんばかりの目つきでこちらを見てくる母。


 今から嫁姑問題が起きることが心配だ。


「だとしてもお母さんには関係ないだろ」


「……あるし」


「いや、ないからっ。恋愛は自由!」


「早くいけよ」


「引き止めてるのはお母さんだからな?」


 ゴニョゴニョまだなにか言ってるが知らんぷりをして外へ出る。


 風が冷たい。これは、一雨降るかもしれない。


 一応折りたたみ傘と雨がっぱ用意しておこう。


 準備を万全にし、花咲は集合場所の高校正門前に到着した。


「あれ、早いね。まだ十分も前だよ」


「遅れたくない主義だから」


 美野里さんの笑顔が雲を切り裂いてくれそう。


 そのくらい威力があった。


 ドキドキと胸がうるさい。


「あれ?」


「どうして止まるんだよ!」キィッ。


 笑顔にときめいていたら自転車のブレーキ音。


 振り向くと、そこには新川兄妹。なに!? 


 やばいな。これは、めんどくさい奴らに見つかったまであるぞ!


「どうしたの、花咲君。驚いた顔をして」


「ちょっとな」


「凪君! どういうことですか!」


 自転車を半ば捨てるように降りて、紗衣が花咲の元へ詰め寄った。

 突然のことに美野里が動揺している。


「どういうことと言われても」


「なんであたしはやっと遊びに行けたのに、会った期間が浅い人と遊ぶんですかっ」


「それは、俺の自由じゃない?」


「ぐっ……。そうですけど。ていうか、誰ですか!」


「クラスメイトの美野里さん」


「あ、そうなんですね。はじめまして」


「はじめまして」


「そろそろ行かないと間に合わないぞ」


「え、マジで。……凪君。また後で」


 季節外れの台風みたいだった。過ぎ去ったことによって雲は吹き飛ばされ、青空が見えている。

 よくアニメとかでこう表現されるけど、実際に起きることあるんだな。


「聞いてもいい……のかな?」


「問題ないよ。あの子はただの親友の妹」


「なるほど。可愛かった」


「それは、たしかにそうだけど……って、早く行こう。スイーツほしいのなくなるかもしれない」


「う、うん。そうだね」


 強引に出発を促し、カフェも併設されたスイーツ店。

 休日ともあって、そこそこの賑わい。


「食べ放題だって」


「今日はやめておこうぜ」


「……うん」


 間がある肯定であったが、まぁ良しとしよう。


 なに食べようかな。


 モンブラン・タルト・チーズケーキ……。うーん、ショートケーキは外せないし。


 迷う!


「迷ってるね」


「飯には俺うるさいタイプだから」


「あ、そうなの? もしかして料理作れない?」


「いや、むしろ得意だけど」


「うるさいタイプの人って作れない人多いから」


 身近にそういう人いるのかな。なんか言葉にリアリティーがあったんだけど。

 美野里の表情に花咲は苦笑し、依然として悩む。


「迷ってるなら半分こすればいいんじゃない?」


「あ、そっか。ナイス美野里さん」


「じゃあ、そういうことで」


 注文を済ませ、程なくして品物がテーブルに並んだ。

 美味そう! 一回いっぱい食べてみたかったんだよね。


「花咲君てさ顔に出るね」

「前に知り合いに言われたことある」

「やっぱり? あ、悪い意味じゃないから」


 後から付け足すと、逆効果って美野里さん知らないのかな。

 気をつけないと。ポーカーフェイスなんてできないけど、意識すればある程度は改善できるだろう。


「じゃあ、食べようか」

「フォークでいい?」

「ありがとう」


 まだ咥えていないフォークで運ばれてきたケーキを半分にしていく美野里。

 手際がいいこと。やっぱりレジをやってるだけあるのかもしれない。


「サンキュー美野里さん」

「……クリーム美味っ」


 いや、聞いてくれよ。ありがとうに対する答えがクリームの感想って。

 もしかして美野里さんってマイペース?


「どのクリームか分からないんじゃないか?」

「あ、そっか。でも、美味しいのなんの」

「マズかったら逆に凄くね?」

「確かに。美味しいプラス美味しいは美味しいもんね」

「いやいや、凄くをつけないと」


 波長が合うかもしれないとなにかを掴んだ花咲は、ケーキの魔法は凄いものがあると再認識していた。


 ――夜。昼間去り際自分は納得していないと予告していた紗衣ちゃんからメッセが来た。


 誰かと集合するのに今後は近場を避けないとな。紗衣ちゃんの対応がめんどくさい。


[紗衣:こんばんは]


[凪:おやすみ]


[紗衣:いやいやいや! 終わらせないでください]


 知らないの? おやすみってきたらおやすみって返さないとっていうルール。

 もしかしてそんなのない?


[凪:はいはい]


[紗衣:流されたっ]


[凪:もう眠いから手短に頼む]


[紗衣:急に素はやめてください]


[紗衣:昼間の人は彼女ですか?]


[凪:確かクラスメイトって説明した気がするんだけど]


[紗衣:ウソじゃなくて?]


[凪:ウソつくメリットがあのときないけど]


[紗衣:そうですか。分かりました。おやすみなさい]


[凪:おやすみ]


 また急に終わったよ。こういうところがマイナスって分からないかな。

 花咲は、心中でボヤきながらスマホをスリープにしてベットに寝転んだ。


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