第67話「なんかバカにしてます?」

 あとから後悔するより今恥をかいておいた方がいい的なことをどこかで聞いたことがある。

 作業再開した高林さんのオーラがなんとなく明るくなった気がした。



 ☆☆☆



 GWも終盤。俺のことが好き(自称ではない)な明の妹紗衣氏と一番近いショッピングモールに来ている。

 なんでもウィンドウショッピングをしたいらしい。


「せっかくの休みなのにウィンドウショッピングでいいのか?」


「花咲君と一緒にどこか行けるだけで全然オッケーです」


「あと俺を誘惑しても意味ないぞ」


「ちぇ……」


「他の男の人もいるんだから気をつけて。そういうのは俺といる空間だけにしたほうがいい」


「……ぇ……。分かりました」


 少し驚いた顔を見せた。


 こんなは数多の視線を受けるところで肩とデコルテが出てる上に短パンとかやりすぎである。


「まずアクセサリーショップ行きましょう」


「りょーかい」


 紗衣ちゃんが指差すそこはちょっと高そうな場所。


 なんだこの子その年からお金のかかる子なの。


「今失礼なこと考えてますよね。顔に出てますよ」


「考えてないぞ」


「えー、急に表情が無になってましたよ」


「……ちょっと緊張してんだよ」


「それは、分かります」


 なんとか誤魔化せた。観察眼素晴らしいね。


 その才能あるならスーパーのバイト出来るんじゃないだろうか。


 美野里さんのスーパーバイト募集してないかな。


 そうすればこうして遊ぶのも減るだろ。


「紗衣ちゃんは、将来ピアスの穴は開けるのか?」


「いや、開けないですね。イヤリングで止めておきます」


「その方がいいよ。手入れとか大変らしいから。あと穴開けるとき痛そうじゃん」


「らしいですね。あたしもバイトしようかな」


 次は服屋にしようかな。


 男共の視線がさっきから紗衣ちゃんを舐めている。


「次は服屋行こう」


「なんか欲しいのあるんですか?」


「いや、特に俺はない」


「……」


「や、止めてっ。やっぱりそうですよねって感じの微笑み!」


「ごめんなさい。つい」


「ほら、そろそろ行こうぜ」


 ナンパ師が声をかけてくる前に羽織るものを買わないと。


 ていうか、つい微笑むってどういうこと紗衣ちゃん。


 彼女の手を掴み、アクセサリーショップから離れた洋服屋へ足を運んだ。


「とりあえずさ、俺が買うから上になにか着てくれ」


「おしゃれですよこれ。花咲君に見せてるんであって他の人には見せてないんですけど」


「勘違い野郎もいるんだよ。誘ってるとか思うやつもいるから」


「……はぁ。仕方ないですね」


 ちょっと思うところがある納得のされ具合だがまぁいいでしょうよ。


 対処できなくなるよりマシだ。


「じゃあ、これで」


 と言って、紗衣が指差したそれは、最近流行りの抜け感ありまくりのカーディガン? だった。


「透けてるじゃんかっ」


 意味ねぇ! むしろエロくなったまである。


「これでも善処しました」

「マジか。……分かった」


 最悪彼氏づらしてやり切るか。すまんな、明よ。


 俺は、妹の一時彼氏になるぞ。


 いざというときはの条件付だが。しかも、本人には未伝達で。


「やったぁ。まさか花咲君からプレゼントもらえるなんて」


「一緒についてきてくれ」


「……え、お金ないとか?」


「違うから。一人にすると声かけられそうで」


 心配性ですね。


 と、嬉しそうな顔でいう紗衣ちゃんを引き連れレジで選んだ商品を買い、その場で着てもらった。


 さよなら、俺の野口さん。


「どうですか?」


「良いと思う」


「なんか投げやりじゃないですか?」


「きのせいきのせい」


「むぅ……。そろそろお昼にしませんか?」


「急だね」


 俺の返しが気に入らなくて気分を害したような感じだったのに。


 コロッと変わってお昼の誘いですよ。


「だって時計見たらお昼だったので」


「時間で動いてるの?」


「まぁ割と」


「へぇ意外」


「なんかバカにしてます?」


「してない。感心してる」


「……フードコート行きましょう」


 意外というのが良くなかったらしい。表情が豊かすぎて面白いな。


 毎日は疲れそうだけど。ちょっと機嫌が斜めの紗衣氏と共にフードコート。


 満席じゃないですかやだ。


「花咲君どうにかしてください」


「ロケランぶっ放す?」


「仮にできたとしても食べるとこなくなりますっ」


「はははっ。突っ込み良いね」


「もう地元の公園で食べましょう」


「オッケー」


 移動して地元の公園。まるでデパートとは違う時間が流れてるようだ。


 そよ風が心地よい。


「誰もいないはいないでなんか違いますね」


「贅沢ってもんだぞ、それは」


「ですかね。さぁ、ランチランチ。今日はあたしの自信作を食べてもらいたくて」


「おおー、自信作」


「あ、待ってください。ハードル高くしましたっ」


 胸を押さえて目をつむってしまう紗衣氏。


 なにをしてる。エサをお預け食らってる犬みたいな心境よ今。


 まぁ犬の心境は分からんのだけども。


「大丈夫大丈夫。どんなものでも食べるし」


「え、ゲテモノでもですか? 花咲君凄い」


「紗衣ちゃん怒るよ?」


「冗談ですよ。分かりました。開けます」


 ふぅ……。やっと食べられる。


 お預け食らったのだからさぞや美味く感じることだろう。


 決心のついた紗衣が弁当箱のフタを開ける。……お、オムライスじゃん! ハードルもクソもなくね?


「ハートだ」


「これが自分の首を絞めてました」


「だんだん緊張してきたのか」


「あー、冷静に言わないでくださいっ」


 紗衣が耳をふさぐ。ちょっとイジメたくなってしまうのは俺だけ? 


「じゃあ、真ん中から食べよう」


「だぁ!! 端から端からっ」


「……なにも半べそかかなくても」


 今初めて紗衣氏を可愛いと思ったかもしれない。異性としてね。


 だって好きが伝わってくる。


 でも、紗衣ちゃんにはもっと相応しい人がいるはず。


 俺への恋心は気の迷い。高校で絶対出逢うから。


「……グス……。あーんしてください」


「嫌だ。ていうか、なんで一つしかないの?」


「ご飯がこれしかなくて」


「じゃあ、ちょっと明に聞いてみ――」


「んにゃー! スプーンは別なんですから譲歩してくださいっ」


「あーんはなしね」


「つれないですね」


 なんとでも言えばいいさ。

 こういうカップルみたいなことはできるだけ好きな人とやりたい。


「美味いぞ」


「愛を限界まで入れました」


「重いって……」


「誰かと結婚するまであたしは諦めません」


「それもはや口癖ぽくなってるからな? 高校進学していい人少なからず見つかっただろ?」


「てんでダメです」


 可哀想にな……。紗衣氏の周りの男子は気苦労が多いことだろう。


 ――いつものように美沙と登校し、徐々になれつつある教室に入る。


「あ、おはよー」


「いつも美野里さん早いね」


「遅れるのが嫌なの。遅刻して入ると目線くるでしょ?」


「あれは、心がズタズタになるね」


 なんであんなに冷たい目線作れるんだろうって思う。


 いやまぁ、遅れてくるのが悪いんだけどさ。


 そんなふうに君達から見られる筋合いはない。


「だよね〜。そういえばさ、メッセのIDって交換したっけ?」


「したようなしてないような?」


「じゃあ、とりあえず振ってみようか」


「そうだな。その方が早いな」


 振ってみる。新規友人のところに赤丸。


 本当はやったかなと思ったんだけど、してなかったらしい。


「ありがとう! 早速だけどスイーツとか甘いものは好き?」


「割と好きかな」


「じゃあじゃあ、今度の休み一緒に行かない?」


「別に構わないぞ」


「ホントにっ。集合は学校の正門ね」


「りょーかい」


 断っても良かったが、今回はスイーツを食べに行くという誘惑に負けたよね。

 誰にも目撃されませんように!


「おはようございます。そろそろホームルー厶始めますので席についといてください」


 いつの間にか予鈴がなりそうな時間になっていた。



 ☆☆☆



 曇天。約束の日が曇りの派生系。雲の色が真っ黒である。


 これでスイーツを食べに行くのか。


「あら、美沙ちゃんと出かけるの?」


「違う」


「他の人とデートじゃないよね?」








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