第29話「明しか狙えないとかどんなクソゲー!?」

[凪:次の月曜が休みだって]

[美沙:オッケー合わせる。次の月曜。約束したから]

[凪:そんな勝手に決めて大丈夫なのか?]

[凪:シフト制って代わり入れないとなんだろ?]

[美沙:いっぱいバイト生いるから平気]

[凪:ならいいけど]

[凪:放課後俺の部屋でいいか?]

[美沙:了解。キャンセルは認めないから]

[凪:バイト入ったら無理だからな?]

[美沙:それに見合ったことはしてもらう]

[凪:さいですか]

[美沙:じゃあ、楽しみにしてるから]


 高林さんに月曜は急にバイト入っても無理って言っておこう。

 キャンセルしたときの代償がなんなのか分からない以上それは避けておきたい。



 ☆☆☆



 天気予報士が梅雨明けを宣言して一週間が経った頃から雨が続いている。

 しかも、それは雨ということでプールは中止。

 今日の体育はフリスビーとなった。

 というか、自由に動いていいってことで俺らはたまたま倉庫にあったフリスビーでひと汗かくことにした。


「普通にフリスビーするんじゃつまらないじゃん」

「いや、いいだろ。普通で」

「ノンノン。やっぱりせっかくやるんだったらちょっとアクセントをつけないと」

「あ、アクセント?」

「言わば変わったことだよ」

「なるほど」

「……なにをするの? ……」

「花咲君が真ん中で走り回ってもらう」

「鳥かごやんのか」

「あれ嫌がらないね?」

「そりゃまぁうん」

「……無理はしない……」

「ありがと高林さん」


 なぐさめるなら鳥かごやる気まんまんなポジションとらないで。

 さて、なんで異議を申し立てなかったかと言えば、真ん中はむしろなにもしなくていいからだ。

 いや、多少は動くよ? でも、せっせとは移動しない。


「ちょっとサボろうとしてるだろ」

「なんのことやら」

「自由時間と言っても今の時間は体育だから」

「そうそう」

「じゃあ、お前らが真ん中やるか?」

「ヤだ」

「遠慮しとく」

「……っ……」

「なんだお前ら」


 揃いも揃って薄情だな。自分がやるのはお断りとか。


「要は取ればいいんだよ」

「簡単に言いやがって。なかなか取れないんだぞ」

「今日耳日曜」

「このやろう……」

「じゃあ、投げます。それっ」

「ちょっ。勝手に始めるなよっ」


 突如始めた阿賀野さん。

 フリスビーは放物線をえがき、高林さんの元へ。

 高林さんを狙えば地獄を味わなくて済むが、それをしたら批判は免れないだろう。

 ……明しか狙えないとかどんなクソゲー!?


「だって話ばっかり長いんだもん」

「それは、すまん」

「高林さん。パスッ」

「……コク……」

「ナイス高林さんっ」

「……」

「おわっ。なんだよっ」

「俺には明しかいない」

「え!?」

「お、おい。なんか誤解してるぞ」

「構わない」

「いや、構えよ。ったく」

「クソっ」


 俊敏な動きをする明ではフリスビーを取ることは難しいが、阿賀野さんも狙おう。

 最近話したばっかりだし。罪悪感は低い。

 誰かに渡る前にそれを奪えば真ん中を交換できるっ。

 ――昼前の体育は止める方向で考えてほしい。

 エネルギー切れでバテました。

 普段使ってない筋肉が悲鳴を上げている。


「あー、痛い」

「どうしたの凪」


 いつものベンチに腰かけ直した俺の変化に気づいた美沙が気にかけてきた。

 優しさが身にしみる。弁当箱のフタを開け、美沙に答える。


「ちょっと体育で無理に動いちゃった」

「筋肉痛か」

「運動不足も相まってな」

「そんなあなたに梅干しを贈呈しましょう」

「いらないだけだろ」

「疲労回復にいいんだよ? いらないなら別にいいけど」

「いや、もらう」

「はい、どうぞ」

「サンキュ」

「羨ましいっ」

「「……っ……」」


 いつもならいない声に一斉に俺達が振り向いたため明がそれに驚いた。

 どのタイミングでここに来たのだろうか。

 足音は一つもしていない。ていうか、羨ましいってどういう意味だ。


「いつから明いた?」

「だいぶ前からいたけど」

「もう少し音出して来てくれ。びっくりする」

「いつもならいないよね? 今日に限ってどうしたのハブられた?」

「違うから。たまにはと思って来たんだよ」

「ていうか、羨ましいってどういう意味だ」

「そのままの意味だよ。幼なじみっていう響きもそうだけど。ほぼカップルみたいなこともできるじゃん」

「か、カップル。仲の良い幼なじみだったらの話だから。世の大半の幼なじみを持つ人は疎遠になってるぞ」


 そう考えると俺と美沙の中はすこぶる良いってことになるのか。

 でも、恋愛対象としてではないのですよ。

 自分の使った箸で物をあげるなんてこと意識してるならできないからな。


「いや、だからカップルみたいな幼なじみの方のこと言ってんだよ」

「そ、そうか」


 羨ましいって聞かなきゃよかった。

 まさかこんな恥ずかしくなることを言い出すと誰が思ったか。



 ☆☆☆



 美沙と気まずくなるかと思ったら意外となんとなく約束した日を迎えた。

 変化が無いは無いで複雑なんですけど。

 俺の家へやってきた美沙を部屋に招き、なんの変化もなさそうにしているのにちょっと腹が立っている。

 服装も体育着だし。


「やっぱり落ち着くわ」

「それはどうも」


 床に腰を下ろし、足を伸ばす美沙に花咲がため息混じりに相づちを打った。

 ……あー、もう。こいつの足光の反射かつやつやしてる。

 目がそれに行ってしまう。


「凪ー?」

「あ、ごめん。ボーとしてた」

「お昼寝タイム?」

「時間的にそうかもだけど違う」

「いや、仮にそうだとしても寝させないけどね」

「せっかくの二人揃っての休日だし。おし、プラグを差してくれ」

「はーい。今日はいっぱい時間あるから対戦ゲームやりたい」

「オッケー」

「ただやるだけだとつまらないから。勝ったほうがなんでも言うことを聞くってどうかな?」

「りょ」


 自信あるからってなめられたものだ。

 明とこっそり練習した成果を見せるときが来た。

 勝った暁には膝枕をしてもらおう。

 しかも、半ズボンをめくって生足のところに……。

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