第28話「既読スルー<未読スルー」
これはこれは一大事っ。
さっきウエイトレス姿の美沙を写メったが、それがどうも本人にバレていたらしい。
完全に後ろ向いたときを狙ったはずなのだが、どうして分かったのかしら。
[凪:どうして分かった?]
[美沙:他のバイトもいるってこと思い出そうか]
[凪:……あ]
どうしましょ、この子そんなコミュ力あったっけ?
まさか通告してくれる知人ができるなんて。
[美沙:なんか失礼なこと考えてない?]
[凪:まったく考えてない]
[美沙:まったくは嫌かも]
[凪:わがままかよ]
[美沙:とにかく撮った写真は消して]
[凪:りょ]
残念消しません。中々こんなのゲットできない。
幼なじみのそれと思わなければ。
事実美沙の身体つきは理想的なものであるし。
[美沙:消した?]
[凪:えぇ、消しました]
[美沙:いやいや、ふざけないで]
[凪:消したよ]
[美沙:じゃあ、本当に消したかチェックするから]
[凪:どうやって]
[美沙:そ、それは、スマホ貸してもらう]
[凪:消したくないな]
なんかつけいる隙きが文脈? からありそうなので本音をぶつけてやった。
せっかく撮れたコレクションである。
はい、そうですかと素直に諦められない。
[美沙:……絶対誰にもバレないようにしてよ?]
[凪:サンキュ]
[美沙:別の端末に移した方がいい]
[凪:大丈夫。鍵かけたから]
パスワードを入力しないと画像を閲覧できない仕様。
これなら美沙でも見ることも削除することも不可能である。
「……」
……あれ? 既読がすぐついたのに返事がない。
スルーというやつだろうか。
……。…………。これは、スルー確定ですわ。
おかしいな、変なこと言ったかな。
――寝れなかった。気になって一睡もできなかった。
メッセを送って催促したら良かったのかもしれないが、答えによっては寝れないと思ってやめたのだ。
結果はどっちにしても寝れなかったけど。
「眠そうね」
「ちょっと色々あって」
「ゲームは程々にしなよ?」
「分かってる」
「セーブはちゃんとしてから寝なさいね。起きてやってた意味なくなるから」
「あぁ」
夜ふかしを注意してんだか推進してんだがどっちかにしてほしい。
対面で白米を一口含んだ母親を見る。
て、あれ? 父がいない。
「あ、お父さん?」
仕草で気づいた花咲の母が問う。
それに彼は「そういえばいないなって」と、大事に取っておいたタコさんウインナーとご飯を頬張る。
「早出的なものよ」
「なんだよ的なものって」
「いいじゃない。細かいことは」
「まぁ別にいいけど」
「ほら、早く食べちゃいなよ。美沙ちゃん待ってるかも」
「それはない」
母親の中の美沙どんだけ学校行きたがりなんよ。
ていうか、それだと待ち合わせ時間を設定した意味ないし。
「ウソって悪いことにつくものでもないのよ?」
「知ってる」
「さすが高校生」
ウザめんどくさい母親と飯を食い、身支度を済ませ、待ち合わせ場所である我が家の駐輪場で美沙を待つ。
やっぱり待ち合わせは待ってる方がしっくりくる。
片足を地面につけ、自転車にまたがっている花咲は曇り空というのに出てくる汗をハンカチで拭う。
「おはよ、凪」
「おはよう」
「今日も暑いね」
話の入りの天気ネタを持ち寄り、美沙が隣に並んできた。
怒らしたわけではないようだ。
スルーした人物とは思えない声の高さ。
「そうだな」
「今日お昼行くの遅れるかも」
「分かった。ところで、昨日なんでスルーした?」
「……す、スルー? ……あ、ホントだ」
スマホを確認し、事実と認識した。
なんか若干の間があったような気がしたのは気のせいではないだろう。
「中々キツいぞ。既読スルーは」
「ごめんだよ。お風呂入ってすぐ寝ちゃったのっ」
「怒ってるわけじゃないのか」
「怒るような内容じゃなかった気がしたけど」
「そうか。なら良かった」
徹夜した甲斐があった。肩の荷が下りましたわ。
ペダルを漕ぎ、思わずニヤけそうなのを隠す。
今日の昼飯は旨くなりそうだ。
☆ ☆ ☆
ある日のバイト終わり。夕飯を食べ終わって事実。
スマホを持っていくのを忘れていたことに今気がついた。
暗闇の中受信を知らせる緑色のランプが天井を明るくしていた。
部屋の電気をつけ、スマホを操作する。
美沙だった。
[美沙:バイト終わった?]
[美沙:夜ご飯?]
[美沙:おーいっ]
[美沙:帰ってきたのは分かってるぞっ]
どんな脅しだよ。隣なんだから嫌でも動向分かるし。
あと、すぐ返さなくてもいいだろ。
既読つけてるならまだしも未読であるのだから。
[凪:悪い。飯食ってた]
[美沙:既読スルーも嫌だけど未読スルーはそれを上回るんだから]
[凪:あぁ、気をつける]
[美沙:この間のはこれでおあいこ]
[凪:そうだな]
ここは美沙の意見に賛同しておく。
正直未読スルーよりも既読スルーの方がキツいと思う。
[美沙:最近さ]
[凪:おう]
[美沙:二人で遊んでないと思うんだよね]
[凪:言われてみれば]
[美沙:次の休みは!?]
[凪:ちょっと聞いてみる]
既読がついたのを確認し、高林さんとのメッセを開く。
まったく世話の焼ける幼なじみなんだから。
今じゃなくてもいつでも遊べると思うんだけど。
[凪:夜に悪い。次の休みっていつだ?]
[高林:大丈夫。次の月曜日]
[凪:サンキュ]
操作して美沙との画面へ。
このまますっぽかしたらどうなるかね?
ちょっと試してみたい。
……まぁ、やらないけど。
口利いてくれなくなったら嫌だし。
あとそれで謝りたくない。
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