第30話「防御不可能」

 チャンスは最大限利用しよう。


「まぁ、私の方が勝つ確率の方が八割あるから」

「多くは語らないようにしとく」

「先に二勝した方が勝ちね」

「今日こそはっ」

「お、私も本気で行こっ」


 有名も有名な対戦ゲームのスタート画面。

 好きなキャラが表示されていたので操作しなかったのにボタンを押されてしまった。

 VSモードを選択し、美沙はキャラ選択でランダムを速攻で選んだ。

 舐められたものよ。俺はこっそり推しキャラの美少女(激強)を決定。


「うわ、ロリコン?」

「違うから。普通に使いやすいから」

「別に毛嫌いしてるわけじゃないし」


 うわって言ってそれはあまりに説得力がない。

 というか、このゲームでそんなことを言い出したら、じゃあやるなよという話に結びつくんですけど。


「ステージはランダムでいいよね?」

「まるで聞く意味なかった」

「たてまえたてまえ」

「左様でござるな……」

「さぁ、どこだ?」


 ゲーセンでおじさんがやっていたパチンコのルーレット式のリーチ選択画面のような動きをして、決まったステージは森のような場所。ストーリー知らないから良さがまったく分からない。


「良かったね、凪。ステージは勝負に絡んでこないよ」

「そ、そうか」

「手加減しないから」

「そうしてくれ」


 ホントに森の中。2Dスタイルだからこのゲームやりやすかったりするらしい。

 まぁガチャガチャコマンドを入力するタイプの俺としては2Dも3Dもあまり変わらないけど。


「一回くらいちゃんとしたコマンドやってみない?」

「見ても分からないというかできる気がしない」

「あ、練習はしたことあるんだ」

「機会があってな」

「だとしたらまったく生かされてないね」

「勝てばいいんだよ。勝てば」

「いや、一度も勝ったことないじゃん」

「ぐっ……。って、なんだ今の!」


 上を飛んできた美沙のキャラが俺のキャラの後ろへ向かうとき背中に小さい攻撃をしてきた。

 その後コンボが成立していき自キャラ体力は残り半分。


「これ出来るようにならないと勝機は薄いよ」

「いや、そんなことはない」

「なんで断言できる」

「そんな常識をくつがえすのがガチャ勢の強み」

「はーい、分かりました」


 あしらわれたっ。コマンドは一応明とやったときに頭に入れてある。

 けど実際に出来るのはほぼゼロに等しいね。

 アドリブで繰り出してる感じだし。

 今ようやく飛んできたら対空攻撃をするのを思い出した。


「投げからのコンボッ」

『勝負あり!』

「棄権するのも手だよ凪」

「一本も取れないままじゃ終われない」

「じゃあ、続けるよ」


 カウントが始まり対戦がスタート。

 キャラを上下に屈伸させ、のっけからあおってくる美沙。

 うぜぇ……。大攻撃を仕掛けよう。やられてばかりではない!


「あっ」

「なめてもらっちゃ困りまっせ」

「ちょっとバカにしてたの」

「い、言ってくれるじゃん」

「勝てばいいんだから。現実でもイラつかせた方がミスを誘えるでしょ」

「必ずしもそれが成功とも限らないんじゃないか」

「あ、あれ?」

「ガチャでも体力を削ることはできる」

「ていうか、ちゃんとコンボ繋がってたんだけど」

「ふっ。ただやみくもにガチャってるわけじゃないのさっ」


 強攻・弱キック・中攻・必殺技。

 このコンボだけなぜか頭から離れていない。

 あとは、もう一つの必殺技くらい。


『勝負あり!』

「マジか……」


 そんなに俺から一本取られたのがショックだったかうなだれる。

 失礼しちゃうわねっ。画面が展開し、三戦目。


「絶対勝つ」


 見たことのない闘志みなぎる美沙の目に花咲がたじろぐ。

 人一人殺めた後みたいなそれだった。

 本気にさせてしまった可能性ほぼ百%。

 防御に徹しよう。隙きを狙ってやる!


「ほぉ、防御しまくりだね」

「攻撃だけが攻撃じゃ……ぎゃあっ!」

「新川君と練習してたら分かるよね」

「いや、なんだこれっですけど!」

「ふぅーん。これは見ての通り防御が効かない技だから」

「一番重要なやつじゃん」

「ま、そんなわけで私の勝ちだから約束通り言う事聞いてもらおうかな」

「お手柔らかに頼むな」


 無理難題だったら逃走すべく立ち上がる。ドアまでさり気なく移動しようとしたが叶わなかった。

 それは、隣の女子によって。裾を掴まれたか下方へ服が突っ張っている。


「どこ行くの?」

「いや、うん。座りまーす」

「よろしい。それじゃ、肩揉んで」

「これが勝者の支持ってことか?」

「うん。最近凝っちゃってて」

「分かった。痛かったら言ってくれ」


 そう言って花咲は背中を向ける美沙に接近して膝を立てる。

 いい匂いがするな……。

 いや、さっきも割と近くにいたからシャンプーか香水の匂いはしてたけど。


 こう近づいて香るのとでは意味合いが全然違う。

 鼓動が早くなっているのを感じつつ美沙の方に両手をかけ花咲はごくりと生つばを飲んだ。

 こんなに体育着って薄かったっけ?

 指に服越しから美沙の体温と肌の感触が伝わってくる。


「今のところ丁度いい」

「なんでこんなに肩凝ってんだ?」

「女子はね色々あるんだよ。主に人間関係」

「あ〜、なるほど」


 本当に女子のあつれきはあるのか。

 結構前テレビで女子のバトルと建前・マウントについて取り上げてる番組がやっていた。

 恐らく見えないバトルをメッセ辺りでしているのかもしれない。

 教室ではそのようなことは見受けられないし。

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