第46話「押しかけてきてペナルティとかパワハラですよ?」

 天気予報はやっぱり予報のようでどっさりと雪が積もっていた。

 昨日の予報ではうっすらと言っていたのに。

 雪が積もったとき独特の冷えが凄い。

 猫はこたつで丸くなるって言うけど人間もこたつで突っぷす。

 なにせ足は温かいけど顔が寒い。


[美沙:雪だるま作ろう]

[花咲:元気だな~]

[美沙:拒否権無しね。公園集合]


 あー、嫌だな。

 どうしてこんな積もった雪からくる冷気を感じながら公園まで行かなきゃいけないんだよ。

 一人で庭先で作ればいいいのに。


 ガチャッ「凪、早くしないと小さいお友達が雪みんな使っちゃうから!」

「どんだけ素晴らしい雪だるま作るんだ最近の小さい子達」

「ねぇー、ホントマジで早くしてよぉ。ねえねえ」

「わ、分かったよもう」


 言葉ではねそう言ったけど、身体が言う事聞かない。

 出たら寒いってわかってるのに離れるなんて今の俺にはできないんだよ。

 決意が鈍る花咲を見て勝手にマフラーとダウンジャケットを手にして催促を始める美沙。


「ほら、マフラーとダウンジャケット」


 そして首にマフラーをかけ、美沙はドアへ歩き始めた。


「ぐへ! お、おいっ、首にマフラーかけて後ろに引っ張るな!」

「だったら早くこたつから出てよ!」

「仕方ない。……暖房つけてるのにこの寒さ意味分からん」


 殺されかけてようやくこたつから抜ける花咲。

 彼は小刻みに震えながら自分を抱き寒いことをアピールしてみせる。

 足がガクガクしてるし。

 寒がりなの知ってるはずなんだけど。

 風邪引いたら看病してもらおうか。


「他のメンバーは、どうした?」

「新川君とプラスアルファはもう着いてると思う」

「名前呼んでやれよ」

「嫌だ。どうしても無理な人っているでしょ?」

「正直いる」


 なんかうけつかない人ってなんでいるんだろうね。

 ひどいときにはほぼ会ったことないのに鼻につくときがある。


「そゆこと。というわけで、行くよ」

「高林さんも来るのか?」

「呼ばないわけ無いでしょ。私達仲良いんですけど」

「それはそれは、良きすわ」


 正直こっちがひがんでしまうくらいの仲良さ加減。

 そんな接点無いのにどこで仲良くなったやら。

 その延長線で紗衣ちゃんとも仲良くしてくれるとありがたいけど。言わないでおこう。

 太陽の光をいっしんに浴びて光る雪を眩しく思いながら美沙と共に公園へ到着。

 そこには腰に手をあてる親友とその妹が立っていた。

 兄妹って仕草まで似るんだ。


「おっそい!」

「風邪引いたらど――クシュ!」

「……」


 短気な兄妹と違って大人しくこちらを見る高林さん。

 ホッカイロを両手で握りしめている。

 なんでか可愛く見えてしまう。

 雪のせいかもしれない。

 やっぱり高林さんって人と違うんだよな。

 目が行ってしまうというか。


「ていうか、こんなに積もるなんて聞いてないよお兄ちゃん!」

「いや、俺に言われても困るから」

「天気左右してるの知ってるんだからね」

「普通に生活してましたよね!」

「ダメダメお兄ちゃんしてたよ?」

「ダメダメ。なんなんだよ……」


 良かった。一人っ子で。

 妹からダメ出しされショックを受けている。


「雪だるまか……」


 うなだれている兄を無視し、紗衣ちゃんが曇天の空をあおいでいる。

 まるで回想してるような。

 雪だるまに思い出でもあるのだろうか?

 まぁ確かに、小さい頃作ることが多いから思い出すことはあると思う。

 でも、そんな軽い感じではない印象を抱いた。

 難しいお年頃?


「話振っておいて振り逃げやめようぜ」

「はいはい、そろそろ雪だるま作るよ。明日から晴れ予報だから終わったら速攻で写真撮るから」

「好きですよね、写真」


 空から頭を戻し、美沙に相づちを打つ。

 話はするんだよな、この二人。


「悪い?」

「いや、なにも」

「……枝……」

「ありがとう!」


 すごい変貌ぶりだな。

 雪くらい冷徹な目を春のぬくぬくを想像させる温かい目に変えて美沙が高林さんに笑みを浮かべる。

 幼なじみとして冷たい瞳は向けられたくないな。


「顔どうしようか迷うね……」

「ネットに上がってるような普通な感じでいいんじゃないか?」

「……何年幼なじみやってるの?」

「数えたことねぇな。長いことは確かだけど」

「付き合い長いなら分かるでしょ。普通で満足するわけありません」

「あんまり変なのにしないでくださいね。ずっと残るんですから」


 実は仲良い説? 一緒に写真の中に収まらないよな。本当に仲が悪かったら。

 あ、もしかして消しゴム機能でいないことにしてしまうとか。

 これしたらマジで引く。


「え、まともにしたらつまらないじゃん。いびつな感じが良さを出す」

「……」

「のうがき言ってないで早く作ろうよマジで」

「全員風邪引いたら目も当てられないぞ」

「それもそうだね。ここに雪を集めていこう」


 美沙が指差すところの雪を手に取って花咲は


 「冷てぇ! みんな手袋し――美沙さん!」


 美沙に苦情を訴える。

 冷たいを通り越して痛いんですけどっ。

 花咲の主張に「あ、ごめんっ」と謝罪しながらポケットから手袋を取り出す。


「凪に手袋してもらうの忘れてたっ」

「マフラー首に巻きつけてるうちに手袋の存在消えたんだべ?」

「う、うん。そう」

「さては、わざとか?」

「こたつから出ないから。ペナルティ?」


 故意の忘れかに首を傾げてしれっとした顔。

 押しかけてきてペナルティとかパワハラですよ?


「へいへい、そうですか」

「私の使いますか?」


 と、紗衣が名乗りを上げてくる。

 温かそうな手袋に早くぬくりたかった花咲は受け取ろうとした。

 だが、それは美沙により阻止されてしまう。


「はい、ダメです。凪のは私が持ってます」

「一体何がしたいんだ君は」

「え? 雪だるま作りたい。ほら手袋」


 そんなこと聞いたんじゃねぇよ。まぁ、冷たいからもらいますけどね手袋。

 差し出された手袋をもらいつける花咲はふぅと短く息を吐く。


「んじゃ、やっちゃおうぜ。寒い」

「寒い寒い言わないでよ。余計寒くなるから」

「暑いなあー暑いっ」


 うるさい美沙に牙を向きしばらく。

 公園に遊びに来た年少さん連れのお母さん方から白い目で見られながら作り終え、記念の写メを撮って現在美沙宅。

 みんな寒さに勝てず温かい場所を求め美沙の誘いに従った。


「お邪魔します」

「緊張してきた」

「なんでよ。え、初めてだっけ?」

「小堀んちはな」

「あ、彼女の家は行ってる感じだ」

「うん。いや、にしてもなんかソワソワする」

「お兄ちゃんキモいよさっきから」

「き、キモいって言うなって前から言ってるだろ。傷つくから!」


 あらやだ、この子。日常的に妹にキモいって言われてるの。

 動作がキモいんだろうなおそらく。みてくれはイケてるけど。



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