第42話「同じものを頼み合う」
「なにやろうか?」
「無理にやらなくても良くね」
「え、じゃあなにするの?」
「寝る」
花咲が斜め上の返答したため平成の初期のようなコケ方をする美沙。
実はこの子年上なのか? そう思うほどのずっこけ方だった。
「まさか寝るって言うとは」
「なんだと思った?」
「いや別になにするかなって」
「んで、マジで寝ていい?」
「全然いいけど」
「サンキュ。じゃあ、失礼して」
かったるくなっていたので、礼を言いながら床に寝そべる。
フローリングが冷たくて気持ちいい。
「え、床に寝るの?」
「だってベットじゃ嫌だろ」
「嫌ではないけど」
と言いつつも目を合わせては言っていない。
そりゃ嫌だよね。だいぶメンタルがガラスだから粉々になったけど。
「気にすんな。ちょっと寝るだけだし」
「じゃあ、ひざ枕してあげようか」
「んー、お願いしようかな」
……ひざ枕っ。てか、なんで俺こんな冷静にお願いしてるのか。
でも、硬くて痛いと感じていたのも事実。
「……う、うん」
「冗談だったか?」
「いや、うん。大丈夫。おいで」
「じ、じゃあ、失礼して」
両手を広げ、向かい入れる気満々に顔が熱くなるのを感じる。
ゆっくり頭を美沙の太ももに下ろした。
柔らかいっ。気持ちいい。
「くすぐったい」
正面に美沙の笑顔。後頭部に感じるぬくもりが胸をさらに高鳴らせている。
寝られるかこれっ。
「おやすみ」
「おやすみ」
幼なじみって最高。
絶妙な距離感だからなせるこのひざ枕よ。
しかも、良いにおいするし。
――なんかどこからか中華系の臭いがする。
あ、そうだ。今日美沙の家に泊まりに来たんだった。
思い出して目を開ける。
花咲の目がクワっと開いて美沙が胸に手を当てていた。
「し、心臓止まるかと思った」
「ごめんごめん。腹減って目が覚めたかもしれない」
花咲の弁明にため息をつき安堵の美沙。
彼の額をテーブル代わりにスマホを操作し、「そろそろ夕飯できるって」と語りかける。
「油淋鶏なんてめったに食べないから味わって食べよう」
「起き上がって凪」
「了解」
美沙に上体を起こすよう指示され、その通りにした花咲は両腕を上げて伸びをした。
あっという間に時間が経ったな。枕が良かったかもしれない。
「ぐっすり寝てたね。あ、ちょっと待って! 足がしびれて立てないっ」
「ま、マジかっ。肩かすよ。腕回して」
「ありがとう。あー、感覚がない」
「ちょっとの間このままでいよう」
「そうだね。ここを見られたら――ガチャ
「あ……」
事情の知らない人が見たら勘違いするような状況にバレるのを危惧してすぐドアが開かれ、美沙の母が最初こそ驚いた様子だったもののその表情はいいものを見つけた子どものようなニヤけたものに変わった。
「これは、足がしびれたからだからねっ」
「まだなにも言ってないけど」
「……ハメられた」
勝手に自爆したんでしょうが。
必死に言い訳を口にしてそれが逆効果と分からされ悔しそうなかおする美沙。
だが、足のしびれは収まらず花咲が肩を貸したままそのまま階下へ向かう。
リビング入ると美沙父。
「どうしたっ」
階下のリビングに入ると美沙のお父さんが様子のおかしい愛娘を見て飛びついた。
さすが父親。娘をもったら過保護になると聞くがこの人はまさにだな。
「お久しぶりです」
「おう。ていうか、美沙は大丈夫なのか?」
「大丈夫。足がしびれただけだから」
「ていうか、なんでそんなに足しびれたわけ?」
「いや、せ、正座してたらしびれちゃって」
足のしびれの要因を問われ、美沙が分かりやすくろうばいした。
「へー、そうなんだ」
それを認識したか美沙母気づかないふりをする。
ヤバい、これは見事なまでにわかりやすいウソ。明らかに気づいてるよな。
「て、凪君!」
「はいっ!?」
「早くしないと油淋鶏が冷めちゃう。座って座って!」
「あー、すみません。ありがとうございます」
美沙とともにイスに座る。良い臭いが食欲をそそってくる。
うわ、ヤバい。腹の虫がなりそう!
「油淋鶏普段出てこないんだけどっ」
花咲のわき腹を小突き不満げアピール。
俺にそれを言われても返答に困るからっ。
「そりゃそうよ。ちょっと手の込んでるのは作らないの」
「私はこうにはならないようにするね」
「あ、ああ」
こっちに振るなよっ。答えたくないの分かるだろうに。まぁ美沙の味方するけど。
「いいからマジで食べてね。冷めるからっ」
「いただきます」
食べたせたがりな美沙母に無駄にお代わりさせられその後が上から出てしまいそうで大変だった。
今度美沙の家に行くまでに断るすべを備えておこう。
☆☆☆
夏休みが終わり、テストを経ての文化祭。
準備を和気あいあいと楽しんで迎えた文化祭当日。つまり今日。
店に立つのは当番制のため同じ店番ではない莉音奈と見て周っている。
「どこから見て周るか」
「……任せる……」
「オッケー。そしたら端から見てみるか」
「……コク……」
とりあえず三年生のところから行ってみた。
知り合いが一人もいないので、ゆっくり見て周れる。
「今どき珍しい掲示物展示だ」
「……キレイ……」
最近の高校の文化祭で掲示物展示を催すなんて珍しいのでは。
しかも、なかなかのクオリティー。
どこかの夜景や風景写真が雑誌に載っていそうな感じである。
高林さんは呟くものの無表情。声のトーンも変わっていない。
「この町にこんな景色取れるところあったんだな」
「……びっくり……」
「写真撮っておこう」
「……コク……」
あとで美沙にメッセしておこう。
そんな長居しても時間がなくなるので移動して隣のカフェへ入ってみた。
「いらっしゃいませ。2名様ですか」
「はい」
「こちらのお席どうぞ」
簡易的なテーブルに通され、メニューに目を落とす。
「……」
「悪い、高林さん」
視線を感じ花咲はメニューを真ん中に置き一緒に見る。対面席でない横並び。
こういうところって普通対面じゃないの?
「……大丈夫……」
「なんか凄い凝ってるな」
「……種類が豊富……」
「覚えるの大変そう」
ざっと見て二十種類はあったように思う。
つい逆の立場を考えてしまうよね。
「……あたし……ケーキ」
「じゃあ、俺も同じのにしよう」
「……飲み物は? ……」
「やっぱり紅茶かな」
「……同じの……」
「オッケー。すみませーん」
「はい、お待たせしました」
「ケーキ二個と紅茶二個で」
「ありがとうございます。もしよかったらケーキにカップル専用の飾りつけられますが」
「あ、カップルじゃないので」
「映えま――すみません」
「い、いえいえお気になさらず」
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