第43話「複雑な胸中」
ハッとなって謝る店員に思わず吹き出しそうになるのこらえる。
「お作りいたします。お待ちくださいませ」
冷静さを保ちながら先輩が去っていった。
「……謝らなくていい……」
「やっぱりそうだよな」
「……コク……」
とはいえ、カップルという単語が影響してかちょっと気まずい。
無言がしばらく続き、時間が経過した。
程なくして頼んだものが届く。
「お待たせしました。お詫びにいちごつけておきました」
「いや、いいですよ」
「そうはいかないよ。もらって?」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
「……ありがとう……ございます……」
「いえいえ。それじゃごゆっくり」
先輩の背中を見送り、ありがたくイチゴから食べる。
甘酸っぱい。生クリームも追加で口に入れるとまたそのハーモニーが素晴らしい。
おかわりしたいがなんとかそれをこらえ、紅茶を飲んで気分を落ち着かせた。
高林さんが食べ終わるのを待ってカフェを出る。
「あ、いた!」
出てすぐ最近聞き馴染みのある声が廊下に響いた。
急に聞こえた声に「おわ、びっくりした!」と仰け反って驚く花咲。
なんで紗衣ちゃんがここに! て、あ、今日文化祭か……。
いや、にしてもこの出方は止めてくださいよだよな。
心臓いくつあっても足りないって。
「探しましたよ。花咲君のクラス行ったらお兄ちゃんしかいなくて」
「なんか俺先に自由時間だったんだよ」
「そうだったんですか。じゃあ、さっそく見て周りましょう」
スッと近づいてきて腕をからめてきた。
あまりの自然なことに拒否ることができない花咲。
「なんで腕からめるのっ」
せめてもの対抗で言葉で牽制するもまるで意味がなく。
「まぁまぁいいじゃないですか。ほら行きましょう。高林さんもついてきてくださいっ」
もはや引っ張られて歩く。
階段階段また階段を下りに下りたどり着いたのが美沙のクラス。
がっちりホールドされているため逃れられない。
「やっとき――ちょっと!」
花咲の腕に紗衣の腕が絡んでることに気づいた美沙が声を荒らげた。
周りが視線をこちらに寄せている。
「え、なんですか?」
「なんですかじゃないしっ。腕組んでる!」
「別に他意はないですよ」
他意がないやつが会ってそうそう腕を絡めてこないよね普通。
あと目立ちに目立ってるから入り口で口論するのやめてもらえたらね嬉しい……とか思うだけじゃどうにもならないか。
「大体小堀先輩は花咲先輩のなんなんですか?」
「決まってんじゃん幼なじみだよ!」
「……」
美沙の答えにまばたきをぱちくりして紗衣が言葉をなくしている。
声を大にして言うことかそれは!
幼なじみだからどうになるのさ。
「困ってたら助けるのが幼なじみだからっ。例えそれが一方通行だとしても!」
「お、おー……」
「拍手いらないし!」
あーあー、目立ってるのよマジで。
見世物とかした二人の口げんか。美沙のクラスの出し物ポップコーンを買って逃げることにした。これ以上一緒にいるとまたたく間に拡散されてしまう。
というわけで、店番イコール高林さんの元へ。
「いやー、とんだ有名人になるところだった」
「……もう遅い……」
「え、なんで?」
「……写真……」
「お、終わった。のんびり学園ライフ」
「……大丈夫。花咲君は……目立ってない……」
「いいような悪いような」
莉音奈のフォローを正面からは受け取れないながらも安堵をしていたら利用者と思われる人影。
顔を上げると、美沙とその他兄妹。
「来たよ逃亡者」
「紗衣来てるなら来てるって言ってくれよっ」
隣にいる紗衣を指差し抗議。
あえ、兄妹で連絡取らないタイプなん?
「サプライズよサプライズ」
「そんなサプライズいらないから」
「まぁまぁいいじゃないですか。ほらこれさービス」
「クラス特権使えるんだからサービスとか言われても」
「後ろつまりますから早くしましょうか」
紗衣ちゃんの言うとおり明達の後ろにはあまり表情のかんばしくないお客さんのわりと長い列ができていた。
「あ、これは失礼」
「失礼じゃないから。早くしてよ。こっちは謝りまくりなんだから!」
「じゃあな」
「お、おうまたな」
「花咲君また今度」
「近いうちにな」
なんか明と美沙お似合いだったな。並んで歩いてたらもうカップルに見える。
――複雑な気持ちを抱いたまま文化祭は終了した。片付けを終え、いつものメンバーで集合しようと美沙が提案し、花咲の教室。
「おつかれ〜」
「あっという間に終わった」
「そんだけ楽しかったてことじゃない?」
「紗衣も楽しかったです」
「写真撮ろう」
「そうですね。撮りましょう」
「なんで紗衣ちゃんがまっさきに答えるの」
「別にいいじゃないですか」
「そうそう疲れたしさっさと撮っちまおう」
「……一人写らない……」
「あ、そっか。写メるからな」
「言われてみれば確かに」
「紗衣棒持ってます」
「ナイス。じゃあ、私に集まって」
「……分かった……」
みんな俺と同意見だったようで写真を撮ったあと速攻で解散となった。
帰り道が途中まで同じの莉音奈を送って美沙と二人きり。
「……そう言えばさ」
疲れからくる無言がしばらく続いたが、美沙が均衡を破った。
声色が明るいものでないことからいい内容ではないだろう。
「なんだ?」
「高林さんと二人でうちのクラス来たとき超カップルぽかったよ」
「奇遇だな。俺も明と美沙が並んで歩いてたときカップルに見えた」
「そ、そうなんだ。幼なじみあるあるかもね」
「多分な」
このままあるあるということにして落ち着かせよう。
うん、それがいいや。
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