第44話「お怒りかもしれない」
秋も中々に深まってきたある日。風呂から戻ってきたらスマホが光っていた。
メッセージアプリを起動し、誰からか確認すると
美沙からどえらいメッセージの量。
「毎回毎回どんだけ送るんだよっ」
ちょっと出ないからって百件超えって軽くトラウマになるぞっ。
未読のときはなにかしてるって思わないのかな……。
[美沙:ミドクスルーデスか?]
なんで最後だけ平仮名よ。
[花咲:風呂入ってたんだよ]
[美沙:風呂に持っていけるでしょ]
[花咲:風呂くらいゆっくり入らせてくれ]
[美沙:でさ、明後日散歩大会じゃん?]
人の話聞けよ。
やっぱり美沙とは付き合うというのはないな。
こういうところが受け入れられないというか。
[花咲:そうだな]
[美沙:お弁当持っていくって話になってるでしょ?]
[花咲:あー、そういえばそうだったな]
危ない危ない。あいにく飯食えないところだった。
あ、畑に水やったっけ?
花咲はスマホを片手にゲームをしている。
結構雨降ってきて大丈夫だったり……。
しっかり晴れてるっ。
せっせと水やりをしますよ〜。
[美沙:凪のお母さんにはいってないよねまだ]
[花咲:今思い出したからな]
[美沙:じゃあ、私が作ってあげる]
[花咲:おー、助かる]
[美沙:じゃ、そゆことで]
なんか気疲れする。花咲はメッセージのやり取りの終わりが見えため息をついてスマホをテーブルにおいた。
☆☆☆
今回の生徒会長が大の運動嫌いということで体育祭が散歩大会になった。らしい。
なんでも散歩大会すらやりたくなかったが先生からなにもやらないはなしにしろとかで渋々計画したとかなんとか。
そんな生徒会長が企画したのもあってクラス間のみの集まりでなく自由に散歩相手を決めていいということなのでいつもの面々で歩くことにした。
明は他の友人に捕まり遅れている。
「これって高校生がやることじゃなくね?」
「ただ歩くだけだから。多分小学生向けかも」
「……小学生……やった……」
「やっぱりそうだよねっ」
「まあこれで雨だったら最悪だったけど。超晴れてるからそれが唯一の救い」
天気の話が出て天を仰ぐ。青いね。凄い青い。
雲一つない秋の空である。
「……池の水……キラキラしてる……」
高林さんが池の水を眺めているため俺達も視線を移してみる。
「ホントだ。キレイだな」
「……コク……」
「写真撮っとこ」
「結構美沙って写真撮る派だよな」
「写真撮れば思い出になるじゃん」
「まぁな」
「……良いこと……」
「高林さんも同じだって」
「お前ら……歩くの早くね……」
遅れていた明が肩で息をしていた。
わざわざ走ってこなくて良かったのに。
散歩大会なんだから。
「早くもないだろ。ていうか、別に走って追いかけてこなくても良かったのに」
「いやいやいや、一人でこんなところ歩いていられないから」
「だったら最初から一緒にいればよかったのに」
「男にも付き合いってものがあるんだよ」
「少数精鋭にしたほうが楽だぞ?」
「気にしいなものでねっ」
せっかくアドバイスしていたのに噛みついてくる新川をあしらいながらゴールへたどり着いた。
ゴールの少し先が広場になっており、ピクニックに来た家族やカップルが昼食をするスペースになっているらしい。
先日した約束は幻ではなかったらしく美沙が弁当を作ってきた。
いや、作ってきてくれてないと俺の今日の昼食はここの空気になるところだったから大助かりも大助かり。
「お、なんだなんだっ。とうとう付き合い出したか!」
「弁当作ってきただけで付き合う話になるのは時期尚早だろ」
「……そんなことない……」
「高林さん?」
「……幼なじみでも……仲良くないと……作ってこない……」
「仲良いのは認める。けど、それだけで付き合う話に飛躍するのは止めてほしい。好きな人いるから俺」
「え、好きな人いるんだっ」
美沙が眉を上げ、超意外とでも言うようなニュアンス。
なぜか明も二度見してきた。
コイツらバカにするのもいい加減にしてほしいな。
「なんでそんなに驚く」
「驚くよ。そんな素振り見せないから」
俺が好きな人がいるといったばかりに恋愛話に花が咲いてしまった。口は災の元だな。
――その夜。美沙からメッセージが来た。
[美沙:ねぇねぇ]
[花咲:どうした?]
[美沙:昼間の話ってホントなの?]
[花咲:昼間の話?]
[美沙:恋の話してたじゃん]
[花咲:あー、あれね]
[花咲:その場の流れだよ。あのままだと美沙に迷惑だと思ったから]
[美沙:迷惑じゃないよ。抑制になるし]
[花咲:抑制になるかもだけど、邪魔にもなるだろ]
[美沙:少なくとも私はならないから安心して]
安心させられてしまった。
まぁ、本人がそういうのだから俺が気負わなくていいのか。
ゆっくり慣らしていこう。急には無理だわ。
☆☆☆
今日はバイトの日。高林さんからのメッセージで代行彼氏の命を受け、現在高林さんと歩いている。
「彼氏のふりか」
「……そういう……専門……ある……」
「あー、聞いたことある」
「……なんでも屋だから……」
「そうなんだよな。難儀だな」
「……コク……」
「あ、もしかしてなんでも屋さんですか?」
高林さんと話しながら待ち合わせ場所に到着すると、こちらへ寄ってきた女性が話しかけてきた。
可愛らしい人。代行で彼氏を俺がやらなくてもいそうなものだけど。
「はい、今日はよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくです」
「……コク……」
「監視役の人ですか?」
「……コク……」
この人迷う様子なく頷きましたけど。
まぁ、確かに監視役と言われればそうかもしれない。
だが、そんな堂々と認めないほうがいいんじゃないか?
「じゃあ、早速デートしますか?」
「はい! 行きます。あ、プランはこっちで決めてますので」
そんなことを言われたので彼女に任せることにした。
――行くとこ行くとこ視界に高林さんがいて集中できなかったってレベルじゃない。
「今日はありがとうございましたっ」
「またのご利用お待ちしてます。今日は楽しかったです」
「いえいえ。それじゃっ」
依頼主と分かれて帰宅の都の中間。
高林さんの家についた。
「……また明日……」
「今日はありがとうな」
「……前の……お礼……」
「それじゃ、また」
「……」
莉音奈は花咲の別れの挨拶を無視し、家の中に入っていった。
あれ、なんか高林さん怒ってる?
いつもならなにかしら行言動するのに。
☆☆☆
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