第41話「セクシーチャンス」
「えぇ?」
「相手の気持ちも考えてください。気まずいったらありゃしないです」
これ以上の接触を避けるべく美沙側に傾き避ける花咲。
紗衣ちゃんの意見はごもっとも。
ていうか、高林さんどこいった?
美沙に接近してるのを忘れるくらい莉音奈の所在が気になる花咲であった。
☆☆☆
結局花火を見た記憶がない。
高林さんがどこにいるかで頭がいっぱいだった。夏休みのある日。やることがなくパンケーキを食べている。
いまだにどこに行っていたのかは聞けていない。
最後のバターしみしみを口に入れようとしてスマホが音を奏でた。
一番楽しみにしてたのに! 絶妙なタイミングで送信されてきたけど、わざとじゃあるまいな。
ていうか、誰だよ。
[高林:今日バイト。事務所に来て]
[花咲:分かった。今から行くよ]
忘れてた。この間の花火大会でなんか頭が麻痺しちゃったよ。
最後の一口を食べ、家を出る。炎天下の中チャリを走らせ、高林家。
「麦茶飲みな。暑かったでしょ」
事務所に入ると高林さん母が麦茶の入ったコップ差し出してきた。
これはありがたい。しかも、タオルももらえた。
シャワーでも浴びたような状況にあったようだ。
クーラーの風にあたり涼しい箇所を重点的に拭く。
「ありがとうございます。ンクンク……」
「……タオル……もらう……」
花咲「ありがとう。それで、今日はどんな依頼ですか?」
問いかけつつ、近くの椅子に腰掛ける。
聞いといて座るとか失礼とも思ったんだけど、足が疲れた。
「んーと、今日は個人経営のスーパーからで商品補充と陳列をしてほしいみたい」
「今どき個人経営のスーパーなんて残ってるんですね」
「いや、なんで花咲君が存在知らないのよ」
莉音奈の母がそう言って苦笑いを浮かべる。
なんでと言われても困る。単純に商店街に足を運んだことがない。
シャッター街とは風のうわせでちらっと耳にしたけど。
「商店街の再建を町長が図って今は活気があるみたいよ」
「楽しみですね」
「過度な期待はしないほうが本音がもれなくて済む」
花咲へのアドバイスを受け取らせない莉音奈が珍しく彼の手を取る。
柔らかい手だこと。突発的に握られて心臓がえらいことになった。
耳栓してたかと勘違いするほどそれの音がうるさい。
「……場所知ってる……」
「そ、そうか。じゃあ、先導頼む」
「……コク……」
事務所を出てすぐ花咲に頷く莉音奈。前方から生温かい風が吹き、良い香りが彼の鼻孔をくすぐった。
役得? こんな変態みたいなこと出来るなんて。暑さも相まってちょっと良からぬことを想像してしまいそうだ。
商店街に入ると、風の噂で聞いていたそれとは似て非なるもの。
混雑とは言わずともそこそこの人の量である。
車両通行止めのため自転車を降り、さっそくスーパーへ。
店内へ入り、近くにいた従業員に依頼主である店主を呼んでもらった。
「君達がなんでも屋の?」
名札に店長と書かれた男性が来て笑顔で尋ねられた。
なんか元ヤンの臭いがする。
親がそれなだけに違いが分かる……嘘です。勘です。
肩で歩いてきたからワンチャンあるかと思いました!
「はい。よろしくお願いします」
「こちらこそよろしく。早速だけど陳列をお願いしたいんだ。来たときに重そうに運んできたでかい台車が出すやつだから」
「分かりました」
「仕方は分かるかい? 基本的に先入れ先出しね。期限が近いのが前」
「了解です」
「じゃあ、頼んだ」
え、まさかの私服で作業するのっ。
元ヤン店長はすでに背中を向けている。
「……」クイ。
去りゆく店主見つめていると、莉音奈が裾を引っ張ってきた。
振り返る花咲。
「どうした?」
「……やる……」
「おう、そうだな。高林さんは初めてじゃないのか?」
「……何回か……ある……」
「流石にあるか。もしなんか違ってたら言ってくれ」
「……コク……」
向きを揃え丁寧な仕事をする莉音奈。
するとここで少し高いところに商品。
背伸びをし、入れる商品を陳列していく中で花咲の目にヘソがちらりとこんにちは。
あら可愛らしい。肌白いなしかし。
思わず触れてみたくなる肌をしている。
美沙にはない要素だけに好奇心を抱いてしまう。
ここは一つ本人には黙っておく。男だから俺。
目の前のセクシーチャンス無駄にはできまい。
更に上の棚に陳列を試みる。服がもう1段階上に上がっていく。
ブラチラきた! 純白ひらひらつきっ。
意外といったら失礼かもしれないが、高林さんがひらひらをつけている。
なんだろ、このスリル。ゴクリと生唾を飲む。
さらにもう一段上にチャレンジ。ブラまで上がりだす珍事。
し、下乳とな! これは、マズい。
高いところ陳列するの手伝うていで公衆の面前で胸公開を阻止せねば。
「大丈夫か?」
「……ありがとう……」
「俺高いところやるよ」
「……コク……」
自然な流れでポジション交代。高所を俺がやることにした。
役割分担をし、数時間。
店長再びやってきて終了を告げられた。
報酬プラス飲み物をご厚意でもらえるというね。
やっぱり元ヤンなのかな。
チャリで事務所に戻ると、朝と変わらぬポジションで高林さん母が出迎えた。
「お疲れ〜」
「戻りました。これ報酬です」
「ありがとう。また依頼が来たらよろしくね」
「了解です。またな、高林さん」
「……コク……」
事務所出てすぐスマホが振動した。
チャリに乗る前に相手を確認したら、美沙からのメッセ。
しかも泊まりの誘い(拒否権なし)。
断れず帰宅の足を利用して美沙の家へ直行した。
「いらっしゃい。待ってたよ」
チャイムを押して鍵を開けてもらい玄関を開けると美沙の母。
相変わらず元気のいい人だ。
美沙はお母さん似なのかもしれない。
「お邪魔します」
タタタタッと美沙が階段を降りてきた。
よくそんな早く階段降りられるな。
「凪早かったね」
「バイトの帰り。たまたまメッセしてきたのが近所だった」
「そうなんだ。ささ、上がって上がって」
手を差し出されたので、素直にそれに添えて廊下へ上がる。
ちょっとドキドキしたのは内緒。
「今日は油淋鶏にしたから。ご飯もいっぱいお代わりしてね」
「ありがとうございます」
「その前に私の部屋でゲームだから」
「オッケー」
さり気なく手を離されちょっとショック。
美沙の体温が手のひらに残ってなんとも言えない。
二階へ上がり美沙の部屋へ入る。
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