第40話「少しばかり強めの負けず嫌い」
――一度解散し、花火大会までの時間ゲーセンで過ごすことになった。
紗衣ちゃんは、ゲーセンの雰囲気が嫌ということで来ていない。
あとここからは浴衣を身に着けている。
正直言うともうゲームを楽しんでる余裕はあまりない。
「気づいたら花火大会始まってるのは無しな」
「それはもちろん間違っても見るから」
「ちょっといいか。なんで俺だけ浴衣着てない」
あ、気づいた。て、気づかないわけないか。落ちあって早々服装の違いに面食らってる。
「……し、新川君は浴衣似合わないかなって」
「合わせるなら合わせるって言ってくれよ」
「ごめんねごめんね、わざとじゃないの」
不満げな表情の明に美沙が慌てる。
逆に素で忘れられる方がショック大きくなるぞ。ハブられたと言っても過言ではない。
「まぁ、いいや。浴衣動きづらいし」
「ありがとう〜」
必死な謝罪に明は嘆息した。
それに手を合わせ、美沙が感謝してますアピールをする。
我が親友は寛大な心を手に入れていたようだ。
バイトすると人が変わるらしい。
「ホッケーやろうぜ」
「あれ、あまりノリキじゃなかったのに」
提案した花咲に意外そうな顔を向ける新川。
せっかく話し変えてやったのに……。帰ろうかな。
「ちょっとトイレにでも言ってくっかな」
トイレを探す素振りをして足を前に出そうとしたらガシッと肩を掴まれる。普段の倍の力にたじろぐ。
ものすごいよろめいたんですけど。
ていうか、ガチじゃん。
あと力ではこいつには勝てないかもしれない。
あざができそう。
「将来DV男にはなるなよ」
「それは、ありえないね」
肩から手を離してケロッとした様子。花咲痛みを自分の手で癒やす。
マジで痛い。なんていうの痛みの余韻が残ってる?
あまりこの中ですったもんだやりたくないから今日はなかったことにしてやるけど。
「力でねじ伏せるから言ってるんだよ」
「それは、凪だからやってるに決まってるじゃん」
決まっているらしい。なおさら明は将来DVをしそう。大体みんなそう言うのよ。テレビで見たけど。
これ以上何言っても話しは並行しそうだったので、気を取り直してホッケーをやることにした。
明側に誰も行かない。
手をあげられると分かった以上近づく人なんていないのよ。
「え、三対一!?」
「なんか暗黙の了解で」
「実は俺気づかない間にいじめられてた?」
「人聞きの悪い。そんなわけ無いだろ。一回だけやりたいんだよ」
「……やりづらいだけだと思うけど」
腑に落ちない明。
やりづらくてもお前とやりたくないんじゃないか? とは言わないでおく。
メンタルがガラスだったらヒビ入りそうだし。
カチャカチャ。隣から金属音。
「うおっ。高林さん!?」
高林さんがお金を投入した。
それと同じくして音楽が鳴り始める。
「いいね高林さん。おっしゃ絶対負けない」
「ここのホッケー玉? が小さいの出てくるよこれ」
美沙の言ったとおり小さいボールのようなものが通常のホッケー玉? とは別に出てきた。
一人はきついか。
「無理無理。一人じゃさばけないって!」
「しょうがない今からそっち行くよ」
「裏切り者め」
「……倒す……」
高林さん怖すぎる。目が敵を捉えてるような鋭さ。
だけど、こちとら負けず嫌いなものでね。
負けるわけにはいかない。
て、ちょっと待て。点数表を見た花咲が玉を打ちながら新川に抗議の声を上げる。
「え、途中参戦なのにこの点数なんか嫌だけど!」
「長い付き合いじゃないか」
会話してるかのようになんのためらいもなく花咲の顔を見る新川。
なんでこっちみんだよ!
「こっち見てる場合じゃないだろこのバカっ」
「どうせ負けだしー」
「すぐ諦めちゃうの止めたほうがいいよ」
「……」
言い返してこない明と終わりのブザーがかぶり耳に響く。
諦めない心を持ちましょうよ。
「……勝ち……」
「というわけで、ごちそうになります」
「お、俺も?」
「もちろん。仲間でしょ」
「もう一回!」
「ダメ。そろそろ出ないと屋台回れなくなっちゃう」
「そうだった。悔しい……」
悔しい? それはしっかり戦った人が言うんだ。
明に怒りを覚えてる花咲は、祭り会場へ向かうまでの間誰とも会話しなかった。
――紗衣を呼び、祭り会場。
すでに先客がおり、そこそこ混雑している。
「危ない危ない。一応セーフ」
「いやいや、もうアウトっしょ」
すれ違うのがキツそうなのにこれを大丈夫と言える美沙の神経が分からない。
ソフトクリームなんて持っていてみろ。
誰かの服にバニラアイスをおすそ分けしちゃうぞ。
「え、帰る?」
「いやいや、ここまで来て?」
「花火始まる前に食っちまわないと」
「お兄ちゃん迷子になるよ」
紗衣が兄の首根っこを掴みフライングを阻止する。
それが強すぎたか新川の首が絞まった。
「ゲホゲホっ」
「あ、ごめん。お兄ちゃん」
「中々に強い引きですこと!」
「新川君の言うとおりだからさっさと食べちゃお」
「じゃがバター」
高林さんは珍しく早口で喋り、興奮しているようだ。
もっとこういうところ見てみたいな高林さんの。
「マジかっ。バターの溶けた感じとじゃがいものホクホクがヤバいよな」
「……ヤバい……」
盛り上がり購入。
できたてを作ってくれたため、もの凄い熱い。
美沙が一口食べてハフハフしている。
こういうのは少し待ってから食べればいいんだよ。
「フーフー」
「出来たてって凄まじいよな」
「コク……」
「猫舌じゃない私でも熱い」
「いや、誰でも熱いだろ」
「美味しいです」
「熱くないのか?」
「結構平気です。熱いのは熱いですけど」
「妹に同じ」
「フーフー……」
「も、もう平気じゃないか?」
「コク……はむ。……」
かわいい。食べるの見てかわいいって思えたの高林さんだけだわ。
じゃがバター食い終わって、からあげ・たこ焼き。
みんな熱いやつで食べるのに苦労した。
最後にデザートでリンゴアメを食べたが、りんご飴恒例の口元が真っ赤になった。
これまた高林さんが可愛くてむずむずしたのは今年の夏祭りの良い思い出になりそう。
休憩してちょっとして花火打ち上げ開始。両隣に美沙・紗衣ちゃんが座っている。
「始まったね」
「本来はこれを見に来た」
「場合によっては花火はついでパターンもあるけどね」
「どんなパターン」
花火がついでとか花火師に失礼だろ。
なんのために見えるところに来たんだって話よ。
「ていうかさ、カレカノ出来ても一緒に見ようよ」
「ダブルデートってこと?」
「そういう見方もあるかも」
「いやいや、ダメですよっ」
右隣の紗衣が美沙を見るようにして花咲に身体を寄せる。
近いって! いい匂いする。女子ってだけで意識してしまうっ。
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