第59話「思い出に残すことのなにが悪いの?」
「……」
「……」
いつの日か体験した誰かに見られてるときのピリピリとした感覚に花咲が目を開けると、美沙と目が合う。
デジャヴだわ。
「……なにしてる」
「おはよう」
「おはよう。質問に答えろ」
「あー、ドントスピークジャパニーズ」
「ものの数秒前日本語でおはようって言ったよね」
「ゲットアップ」
「日本語発音どうにかしろよ」
仕方なくベットから下りる。
どうせまたなにがあるから起こしに来たんだろう。
「英語は2」
「なんの自慢でもないから」
「人のローアングル見といて感想無いわけ?」
「逆にほしいのか?」
「いや、いらない」
「朝からなんなんだよ。アニメのマネしに来たって言ったらただじゃおかねぇからな」
「違うよ。遊ぼうと思って。休みでしょ今日」
「高林さんから聞いたのか」
「新川君と約束してるなら止めるけど」
「明はバイト」
「なら拒否権はないよね」
ありますよ。
それを行使できなくて困ってるのを誰かに相談したいくらいだ。
「……」
「あ、着替える? どうぞ着替えて」
「廊下に出てほしいかな」
「あ、お年頃?」
「いや、普通礼儀として外出るだろこういうとき」
「しょうがないな」
「ったくよ」
なぜか俺が悪いとでも言いたげなため息混じりの言葉に腹が立つ。
遠回しに裸みたいって言ってるのと同じって気づいてねぇだろ絶対。
ささっと着替えてリビング。
朝ごはんが一組多い。
「今日は朝ごはん一緒に食べるよ」
「あ、そうなの?」
「なんかせっかく来たんだからって」
「なにがせっかくだよ」
「いますけどっ」
「知ってますけど」
「ていうか、どうだった。凪の寝顔」
「可愛かったです。昔と変わってなくて」
ついこの間も見ましたよね?
ババァも知ってるはずなんだけどな。
タイムリープでもしたのか俺は。
「保育園のお昼寝のとき?」
「はい。あれは破壊力ありました」
「なんかさ天使だよね」
「本人いるので答えは保留で」
「それはもう肯定の意味だろ」
「なんのことかな〜」
女二人は俺の話で盛り上がっている。
なんかむず痒いというか照れるな。
――あのままいては恥ずかしさで母親を叩いてしまいそうだったので、美沙を半ば無理やり外に連れ出した。
「休みのときぐらいゆっくりしようぜ」
「ゆっくりはしてる。ていうか、外出てくれたよね?」
「あれは、俺の話しで花を咲かせるからだろ?」
「だって違う話を持ってくるわけにも行かないじゃん。大体ゲーセンで遊ぶのだってゆっくり休日過ごしてるでしょ」
「過ごしてるけどさ。俺は家でゆっくりしたい派なんだよ」
「インドア派って言いたいんでしょ」
「あ、分かった。ゲーセンも室内だからインドア派って言いたいんだろ」
「さすが幼なじみ」
とことん俺が拒否ることを制してくるな。
ちょっと自滅した感は否めないけど。
「んで、なにやるんだ?」
「まぁインスピレーションで」
「じゃあ、これやろうぜ」
花咲が指を差すのはフリースローをするゲーム。
これ地味に白熱するんだよね。
負けず嫌い同士でやったら次の日がやばいことになると断言できる。
「いいよ。トータルで負けたらお昼奢りね」
「答えは保留で」
保留にしておけば奢りの件をなかったことにできる。
いいとはいってないもんね。
「私からやっていい?」
「どうぞどうぞ」
美沙がボールを手にする。そこからボールは、ほぼ中央の網を通らなかった。
どんだけ入らないんだよ。
「難しい。なんでちゃんと入れようとしてるのに入らないの? 風でも吹いてるのかな」
「恥ずかしいからやめてくれない」
おかしなことを言って美沙が機械をくまなく物色する。
横から見たってボールが入る糸口は見つからない。
「だって入らないのはおかしい」
「入る場所があるんだよ」
「そんなところがあったの? なんでやる前に言わないのかな?」
「それは俺にも分からない」
「もう一回やっていい? やりたいな〜」
「……一人二回出来るようにすればいいんじゃね?」
ボールが入るところ教えようとしたのに。
負けず嫌い精神に火がつきかけている美沙に花咲が魅力的な提案を提示する。
「ナイス」
「……あ、入るかもこれ」
ボールがネットから落ちていく。
それを覚えてしまった美沙は強い。
敵に塩を送るもんじゃないな。
正直負けるとは思っていなかった。
「やったっ。飲み物おごりね」
「お昼おごりって言ってなかったか?」
「細かいことは気にしない」
機嫌の良い美沙は花咲の疑問に対し能天気に答え、歩みを進める。
その背中にさらに「次はどうするんだ? ワニでてくるやつか?」と問いを投げた。
「シューティングゲームやろうかな」
「嫌がらせか?」
「まさかそんなわけ無いじゃん」
「ならなぜそのゲームを話題に取り上げた」
「ノリで言えばいけるかなって」
「もう二度とシューティングゲームはやらないって決めたんだよ」
あんな恥さらしなんで自分からやらなきゃいけない。
上手い人は自信あるから誰に見られても良いのかもしれないけどさ。
「まったく……。メダルゲームでいいよ」
「メダルゲームって言っても種類あるけど」
「やっぱり戦う系がいいかな」
「そんなのあるのか?」
なにがなんでも戦う感じがいいのかよ。
ていうか、このゲーセン戦う系多いなっ。
ほのぼの系は置いてないのかもしれない。
「あるよ。ほらゾンビのやつ」
「マジで……」
なんでよりによってゾンビ!
この子実は俺のこと嫌いなんじゃないだろうか。
幼なじみを長いことやってきたけど、初めてそう思ったわ。
「二人でやれば怖くないでしょ?」
「使い物にならないというのは前提で考えてくれ」
「まぁ所詮ゲームだし。あとガチでやったらメダルの処理に困るから」
「ガチでやってる人に失礼だぞ」
「いなければ大丈夫」
――こういうのってガチでやらないときに限ってメダルをがっぽり稼げてしまうのよね。
専用カップ三個分ゲットしてしまった。
あともうゾンビの夢見ること確定したわ。
「どうするんだよこれ」
「会員カード作って後で遊ぼうよ」
「そうするか」
一緒にカウンターに行ってカードを作成。
きっちり均等に割った。
別にどちらか片方に入っていればいいと思――もしかして別のやつとくるのか。
あの背の大きい男の子かな。
「じゃあ次はプリねプリ」
「この一年でなん回プリ取るんだよ」
「思い出に残すことのなにが悪いの?」
「悪いとは言ってないだろ。ただ回数が多いって言いたいだけ」
「今日という日は二度と来ないんだからね」
「……分かりました」
それを言われてしまうと弱い。過去に戻ることはできない。
もしこの先なにかあってその時後悔しても遅いのだ。
「よろしい」
もうなん回もプリ撮ってるから慣れたものよ。
プリ画像をデコる。
グゥ……。腹減った。
「ゲーセンの近くにハンバーガー屋あったよな?」
「今日はお弁当作ってきた」
「なるほど。してからあげは入ってる?」
「マストでしょだって」
「もちろん」
からあげ入ってないお弁当なんてお弁当じゃない!
……そんな訳はないですね。すみません。
でも、やっぱり絶対入っていてほしいものってあると思う。
タコさんウインナーとか玉子焼きとか。
「頭に入ってたから入れてきました」
「さすが幼なじみ」
「もっと褒めて」
「打ち止めです」
「なんでよっ」
褒めることなんてそうそう今の段階では無い。
後方を走る美沙の顔はうかがい知ることができないけど、眉をしかめてることだろう。
「いや、もうほめるなんてそうボキャブラリーないって」
「じゃあ、しょうがないか」
「それはそれでムカつくな」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます