第58話「仲良きことは美しきかな」

「親友って動きもシンクロできるんだね」


 驚く二人を見てひとしきり笑ったあと美沙が笑い泣きしたのか目元を拭い新発見と言いたげ。


「いつからいたんだよ」


「今さっき。こっそり入れば分からなそうな感じがしてさ」


 本人には言えないが、やり口が紗衣ちゃんと同じではなかろうか。


 デジャヴかと思った。似たもの同士なんだな実は。


「んで、案の定俺らは分からなかったと」


「私も混ぜてほしい。3人いれば勝てるでしょ?」


 聞いてねぇ。マイペースだよな相変わらず。


「いや、敵の量が倍になるから今より大変になる」


「えー……」


「あ、じゃあ明とやればいいんじゃね? 俺苦手だからこれ」


「新川君と……」


「ストレートに嫌な感じ醸し出されると傷つくんですけど」


「やらせていただきましょう」


「なんなんだよ。とりあえず味方が戦ってくれてるから」


「はーい」


 そう言って美沙は味方を片っ端から殺していく。


 なにこの子。サイコパス!?


 顔色一つ変えずバンバンやりまくるとか。


「小堀ー!」


「いや、どうせ邪魔だし。ロケットランチャー当たったら爆風でこっちもダメージくるから」


「だからってこんな最初の方で全滅させなくても」


「まぁまぁハードなら味方いなくても大丈夫。やられる前に蹴散らす」


「たくましい子」


 我が幼なじみについていけばマスターハードでもステージ進められるんじゃないだろうか。


「おかしなこと言ってないでバックアップ頼む」

「なんだその新しいポジション」



 オペレーターか俺は。

 ――なんか勝つまで早かったな。

 こういうゲームホント美沙上手い。羨ましくないけど。


「いや〜、凪と比べ物にならないくらいうまいな」


「そんなことはないよ。凪には劣るよ」


「おい、バカにしてんのか」


「舐めてはいる」


「……ムカつく」


 なめてないっていうのかと思ったら。  

 肯定してくると思わなかった。

 まぁなめてないって言われてもムカつくけど。


「あ、もうこんな時間じゃないか。そろそろバレンタインデーのお返し買いにいかないと」


「じゃあ、私も同行しようかな」


「なんでだよ」


「アドバイザー的な?」


「必要っちゃ必要か」


「お願いするべきだろ」


 明の言葉で決まり、スーパーへ。


「ホワイトデーの場所っていつも縮小されるよな」


「バレンタインデーのときの半分以下じゃない?」


「なんだかな……」


「本命じゃなければマシュマロはお返しに渡さないように考えれば万事解決だから」


「あ、そうなの?」


「だから新川君はマシュマロにすればいい」


「ていうか、俺の場合は一択じゃん」


「彼女に本命渡さないとか彼氏失格」


「……なるほど」


 凄くトーンがマジで明がたじろいでいる。


 やっぱりバレンタインデーホワイトデーはガチで向き合うべきなのか。


「美沙はなにがいい?」

「うーん、凪が選ぶものならなんでもいい」

「おいアドバイザー」


 仕事放棄するなし。

 ていうか、そうなるとついてくる意味ないじゃん。


「私が選んだら意味ないと思う。私のお返しに」

「……正論をありがとう」


 ですよねそうですよね。

 こういうのは気持ちも大事。

 義理チョコといえど、親身に選ばないといけないのだ。


「どういたまして」


「もうカップルの話にしか聞こえないけど」


「幼なじみの会話とカップルの会話は似ちゃうんじゃない?」


「長年一緒だからな」


「なんというか今日も平和でなにより」


「はあ?」


 そこでなんで平和云々になるんだよ。


「いいから早く選べ」

「紗衣ちゃんにはホントの義理で返したい」

「兄の前でよくそんなこと言えるな」

「あ、悪い。素で言ってた」

「なおたちが悪いわっ」


 突っ込みがでかく周りの視線が痛い。

 やっぱり兄だな。妹の悪口は自分の悪口。

 良いもの見させてもらった。 

 親友として誇らしいぞ。


「変に渡して勘違いさせちゃうのが一番かわいそうだから」


「まぁはっきりしてくれたほうが分かりやすいかもね」


「てわけで、アドバイスお願いします」


「マシュマロは絶対に渡さない。これを忘れていなければ大丈夫」


「よし、じゃあチョコレートにしよう」


「ただ少し高いのにしなよ?」


「なんで?」


「倍返しが基本なんだよ」


「マジか……」


 ていうか、紗衣ちゃんからもらった義理チョコの値段が分からない。


 花咲は値札を見ながら苦笑いを浮かべる。


「マシュマロって嫌いって意味なんだと」


「え!? お母さんの情報はうのみにしないほうがいいんだね。てっきりいい意味かと思ってた」


「じゃあ、マシュマロにしよう」


「……おいおい、凪。それはあんまりだろ」


「うーん、嫌いではないからな。クッキーがいいかな」


 なんにも二人から情報が来てないから無難ってことなんだろ多分。


 あ、高林さんにはどうしよう。


 倍にして返すってことは、あの美味しさと同等以上のレベルのものを買わないといけないのか……。


「……ふーむ」


 飴かな……。容器も可愛らしいし。

 あと高林さんにはちょっと特別感のあるものを渡したいから。 


「……」

「新川君笑みが危ないよ」

「おっとごめん」


 笑顔が危ないってどういうことなの。

 振り返ると美沙に謝る明しか見ることができなかった。


「んでんで、私のは?」

「チョコレート。好きなの選んでいいぞ」

「やった。私が一番にもらえるってことだ」

「今渡してもいいなら」

「全然オッケー。ありがとう」


 心底嬉しそうにする美沙にこの関係が崩れないようにしないとと思う。


 絶妙な距離感とでも言っておく。


 ――ホワイトデー当日。昼食。


「そういえば明のやつ彼女とは上手くいってんのかな」


「どうなんだろうね。凪といる時間のほうが多い気がする」


「そっとしとくか? 気になるけど」


「いや、別に興味ないからどちらでも」


「あまりにそれはかわいそう」


「……小堀……さんの……バイトでは……ホワイトデー……特集みたいなの……やるの?」


 明に対してぞんざいなところを見せる美沙にわずかに腹が立つ。


 そこへ高林さんが質問を美沙に投げかけた。


「やってると思うよ」


「……コク……」


「あ、高林さんのお弁当美味しそう」


「……ありがとう……」


「からあげと私の魚のフライで交換しない?」


「……コク……」


「やったっ。タルタルソースもどうぞ」


「……ありがとう……」


 仲良きことは美しきかな。ご飯が美味しく感じる。


 笑顔で食欲って増すのかもしれない。


 ――帰りのホームルームが終わりスマホを確認するとバイトがあるとメッセ。


「今日はどんな依頼だ?」


「……梱包作業……」


「お、楽しそう」


「……」


「なんかあったか?」


「……」


 依頼主へ向かう途中いつになく無表情を決め込んでいる。


 しかも、首すら縦にも横にも振らないし。


「そうか。相談したいことあったら言ってね」


「……コク……」


「……そういえば今日ホワイトデーだな」


「……コク……」


「ここで渡すのもどうかと思うんだけど」


 前置きをしてから花咲はバックから可愛い容器のそれを莉音奈に渡す。


 受け取る彼女は表情を動かさない。


「……ありがとう……」


「倍にして返すのはちょっと勘弁して」


「……もらえる……だけで……嬉しい……」


 やっと薄っすらと笑みを浮かべたようにも見えた。


 言葉的には微笑んでてもおかしくない内容よ?


 でも、これが良かったりする。


「なら良かった」


「……あたしの……チョコ……味どうだった……」


「一番美味しかった」


「……コク……」


 表情筋が少し緩んだ。恐らく照れてると思う。


 だがそれは、すぐ真顔になった。ちゃんとした笑顔を見てみたい。


 今も十分可愛いけど。


 帰宅路に新川家があるので立ち寄る。


 義理チョコといえどもお返しはせねばね。


「俺に会いに来たのか?」


「だとしたらどう思うんだよ」


「ちょっと困るかもしれない」


「なんで困るし。紗衣ちゃんに用があって来たんだよ」


「あ〜、お返しか。後ろにいるから声かけるな。紗衣ー」


「なんで分かったの気持ち悪い」


 訝しげな表情をして紗衣ちゃんが玄関から出てきた。


 気持ち悪いって言葉は重いな。


 自分が言われたわけじゃないのにへこむ。


「ひどすぎない?」


「一回も後ろ向かなかったじゃん」


「足音」


「え、音でてた!?」


「そんなことどうでいいから早くこっちに来いよ」


「あ、そうだった」


「紗衣ちゃんホワイトデーのお返し」


 近づいてきた紗衣ちゃんにラッピングされた袋を手渡す。


 明に仲介する手もあったがこういうのは自分で渡すべきだろう。


「わざわざ家に来てもらってすみません」

「通り道だったから」

「……バイトおわりですか?」

「うん。じゃあ、寒いし帰るな」


 多くを語らせないように俺はきびすを返す。





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