第57話「……なんて言ったらいいか言葉が見つかりません」

 バイトの休みがかぶった明と某地球を救うゲームの武器出しをしている。


 ていうか、今から始めるわけだが。


 最も高い難易度でやるらしい。


 始めにハードルを下げておこう。


「一番難易度高いやつやるのはいいけどあっという間に死ぬぞ?」


「最初から諦めるなよ。武器がヘンチョコリンでも勝てないわけじゃない」


「できるやつはみんなそう言うんだよな」


「できるやつって言ったってここ一番最初のステージ」


「じゃあなんであんなに動きが早いんだよっ」


 巨大生物がシャカシャカ動いてる。

 気持ちの悪い動き方で鳥肌が立ってきた。


「一番高い難易度だからだよ」

「答えになってないし」


「いや、なってるから」


「明俺を援護してくれ」


「自分で進んでくれよ。モブがいるだろ」


「あー、今のネットで配信してたら叩かれる発言ですぜ」


「してたらな。いいから早くロケランぶっ放してくれ」


「へーい」


 やる気のない返事をして花咲は明の指示に答える。


 撃ったロケットランチャーのたまは敵にクリーンヒットした。


「……うわ、敵が浮いたよまだ生きてますよ」


「そりゃマスターハードだから敵の体力ありまくりです」


「じゃあモブにある程度体力削ってもらおう」


「武器は回収してくれよ。あとレーダー見て自分のまわりは自分で守ってな」


「ダメだったら頼むわ」


 とかなんとか予防線を貼ったが、明のおかげで奇跡的に残り数体とあいまった。


 シューティングゲーム上手いの羨ましいわ。


「なんか思ったより倒せたな」


「これというのもモブのおかげ」


「いや、最初の方でロケランで敵もろともぶっ放してくれたから」


「それは効果なくね?」


「んまぁ武器の回収は助かった」


「回収なら俺に任せとけ」


「ある意味重要な役割か」


「ん? もうあと一体だ」


 レーダーを見て花咲が余裕しゃくしゃくとキャラを踊らす。


 いや〜、良かった良かった。


 あまり足手まといにならなくて。


「おっしゃこれで強武器をゲットできる」


 意気揚々と明があらかじめよそっていた麦茶を口に含んだ。


 将来こいつは節目に酒を飲むタイプかもしれない。


 と、そんなことを思っていたらレーダーの異変に気がついたっ。


「な、なんかマップの端から赤い点がいっぱい来たぞ!」


「シークレットだこれ」


「なに冷静に俺を狙おうとしてんだ」


 照準を花咲に合わせ、諦めた口調で言う。

 せっかく頑張ったのに……。

 人の努力を踏みにじりやがって。

 モブの隊員達の死を無駄にする気かよ!


「無理な戦いだから。あと武器は回収出来たし」

「……あ〜」


 俺の体力ゲージがゼロになった。

 妹いるのになんでこう自分勝手なんでしょ。


「おっしゃ来いや!」

「え!? 突っ込んでいく!」


 勇敢というか単にやけくそになったのか。

 明は俺のキャラを殺したあと敵の元へかけていった。


「しかも、ドローンっ。棒立ちいきます」


 レーダーから見て近づいてきたのがわかると明は自分のキャラの動きを止めた。


 すると、みるみる体力がなくなっていきゲームオーバーの文字。


 すぐアイテム取得画面へと変わった。


「恐ろしい恐ろしい」


「お前のほうが恐ろしいわ」


「はいはい、そうですね。武器がゲットできたからなんと言われてもへでもないね」


「じゃあ、バーカバーカ明のバーカ」


「なめてんの?」


「なんと言われても平気って言ったじゃんか」


「言葉のあやだわっ」


「なんだよもう……」


 耳がキーンってなったわキーンって。

 聞こえなくなったら慰謝料請求しよう。


「もう一回やるか? 次はハードで」


「行けるか。マスターハード武器なら」


「ケチョンケチョンよもう」


 ガチャ「……」

 なんか扉が開いたような。

 それに気づいた新川が花咲の動作を真似る。


「無言で入ってくるなよ怖いっ」


 紗衣の存在を認識した新川が彼女の入出の仕方に突っ込む


 確かに怖いかも分からん。


 しかも、今の扉の開け方ゆっくり開けてからあわよくば気づかれないように入ろうと思ったんじゃないだろうか。


「高校……受かりました!」

「おお、良かったね」


 はしゃぐ紗衣に冷静に褒める花咲。

 侵入してまで言うことではないと思うんだよね。


「だからってノックも無しに入ってくるなよ」


「いやいや、そんなこと気にしていられないよ」


「気にしろって」


「……受かったところどこだと思います? 凪君」


「井笠高校とか?」


「あ、あたしそんな頭よく見えます?」


「う、うん」


 正直言って頭良くは見えない。


 明の妹ってのもあるけど。


 顔に出ている花咲に「目そらして言われても……。コホン」と困惑して紗衣は一つ紛らわせるべく咳払いをした。


「頭よく見えないってよ」


「お兄ちゃんあとで彼女が話があるって」


「え!? んぇ……なんかしたか?」


「ウソだよ」


「ウソかよっ」


「んで、どこだったんだ?」


「凪君の高校です」


「……おぉ、これからよろしくな」


「間があるのが若干気になりますがありがとうございます」


 若干じゃなくて凄く気にしてほしいものだが。

 紗衣ちゃんは空気が読めないようでしばらく明の部屋に居続けていた。 



 ☆☆☆



 本当に彼女がいるのかといよいよ怪しくなってきた。


 明とバイトの休みがまたかぶり遊ぶことになって俺の家。


 またまた某地球を救うゲームをやっている。


「そういえばもうそろそろホワイトデーだな」


「なんだ自慢か。彼女いるから俺。的なやつ」


「違うから。ていうか、凪だって義理チョコ何個もらってんだよ」


「友チョコだから。義理でもない」


「……なんて言ったらいいか言葉が見つかりません」


 だったら一層喋らないでもらったほうがストレスにならないんだけど。


 パンッ。乾いた音が戦場に響いた。


 明のキャラが地面に倒れる。


「とりあえず一回出直そう」


 そう言って花咲は、撤退を選択した。

 あー、残念だったね。誰だ。親友を狙ったのは

 っ。


「やりたかっただけだろっ」


「いや、ちょうどゲームがいい八つ当たりになった」


「その精密さを敵に発揮してくれると助かりまくりなんだが」


「あー、無理無理」


「なんだかな……」


 ため息をついて明がもう一度同じステージを選択。


 再出陣したらさっき気づかなかったが、レーダーに敵を示す赤い点が固まって表示されていた。


「ハードって言っても敵の量が多い」

「まず二手にわかれよう」

「え、盾にしたいから一緒に」


 せっかく近くにいるんだからなにも離れて行動することないだろ。


 いわしの行動の仕方知らないのか?


「本音がだだ漏れなんですけど」


「退避苦手」


「大丈夫。味方兵士が攻撃してくれるから後ろで体力温存ができる」


「だから味方が二手に分かれてるのか」


 ならば良い。でも、すぐやられていっちゃうんだよね。


「イエスアイドゥ」

「また頭ぶち抜くよ?」

「二手に分かれたのにどうやって?」

「ことあるごとに狙う」

「趣旨が変わってるから」

「うわー、気持ち悪いな」


 小さいアリも大きくなると関節とかがはっきりしてまるでGさんを見てるかのようである。


 甲殻類って大きくしたらダメよ。


「実際にこれが起こったら俺やられる前に死ぬわ」


「まぁな。やられるよりましか」


「マシだろうね」


 美沙の声が突如後ろから聞こえてきた。

 それに、花咲達は「「……っ!? ……」」息ぴったりに肩をびくつかせる。



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