第72話「触らずにはいられないポジショニング」
「デザートも頼むか?」
「いや、いい。さっさと食ってさっさと帰る」
「まだ帰らないよ?」
「は? なんで」
「食べ終わったら三人でお出かけするの」
「いや、二人で行けって」
なにが悲しくてデートの邪魔しなきゃいけない。
アウェーにも程がある。
♪〜。と、スマホが鳴った。
誰だろうか? ……助かった。美沙だ。
[美沙:今日凪ん家行くから]×2
[花咲:分かったから二度送るなよっ]
あとスタンプが怖いっ。
なんで八つ裂きされたキャラとにこやかに笑うキャラのスタンプ。
チョイスがおかしいっ。これじゃ、嫌でも拒否れない。
「なんか顔色悪いけど大丈夫?」
「いや、ちょっとな」
「小堀か?」
「そうなんだけど詳細は差し控える」
泊まってることが知れたら美沙に迷惑がかかる。
実際にスタンプみたいなことされかねない。
「でもさ、良い幼なじみだね。すぐフォローしてくれるなんて」
「幼なじみって最初から彼女みたいなものだろ。彼女もどき」
「だったらバイトさせない」
「うわ、凪って束縛するタイプなんだ」
「違う。言葉の文だ」
やっぱり来なきゃよかった……。
☆☆☆
後悔の念にさいなまれながら自宅に戻ると、いつの間に帰っていたのか美沙が自転車をとめているところだった。
ていうか、随分融通の効くシフトだなあのバイト先。
あんまりこういうことやってるとクセになるぞ。
「大丈夫なのか、抜け出して」
「びっくりした……」
胸を押さえ、肩を落とす美沙に続けて「ごめん」と驚かせてしまったことに謝罪。
詫びる俺に笑みを浮かべてそれを受け入れてくれた
「許してしんぜよう」
「お引き取りいただこうかな」
「あー、おいたが過ぎましたっ」
「まったく……」
こっちはちゃんと謝ってんだよ。
つか、質問には答えないんかいっ。
「夕飯買いに行こう」
「切り替え早いな」
「はいはい」
げせない。あしらわれたことに不満を抱きつつ美沙のあとに続いた。
――夕飯はカレー。美沙の作るカレーはウチのより美味いんだよね。
なにが違うんだろ。食べすぎて腹が張っている。
風呂がカレーだらけになるところだった。
「ふぅ、さっぱりしたぁ」
「ちょ、美沙さんっ。ラフ過ぎます!」
「うるさいです。凪さん」
声が大きかったか美沙が怪訝そうな表情を浮かべ耳を押さえている。
なんで俺が注意されてるんだよ。
「じゃあ、マシな服を着てくれ」
「だって暑い」
「夜は涼しくなるから。風邪引く前になにか着ろ」
「持ってきてないからなんか貸して」
「ポロシャツでいいか?」
「オッケー」
ポロシャツを受け取り、美沙がそれを着用する。
なんとかこれで目のやり場に困らなくて住む。
「夏といえば?」
「んだよ、唐突だな」
一安心してまもなくバラエティーの無茶ぶりクイズみたいな急なクエスチョンが飛んできた。
「いいから」
「ん〜、かき氷」
「……聞き方変えた。夏の風物詩といえばなに?」
「え、花火・夏祭り?」
頭を掻き、イライラな美沙。キューティクルが傷つくぞ。
「私の考えとズレてる」
「同じ人間じゃないからな」
「夏といえばホラーでしょ」
「いや、決めつけんなよ」
むしろホラーの方が少数派だと思う。これも決めつけかもしれないけど。
隣に腰を下ろし、ゲームラベルを見せてきた。
「悪いこと言わないから止めておいた方がいい」
「一人じゃとてもじゃないけどできないのっ」
「じゃあ、なんで買ったし」
「ジャケ買い?」
「うん。絵は可愛い系だな」
「でも、中身がヤバい」
そう。このゲームコンシューマー版だからなのかイラストはそこまで怖くないんだけど。
それを魅せる描写が素晴らしくて怖さが跳ね上がる。
正直やる前に辞退したいのだがそうもいかなそうなのよね……。
「マジでやるのか?」
「だって持ってきた意味ないし」
「……やるか」
ゲーム機をつけ、円盤を投入。
OPはいいんだよね。なんか聞き入っちゃう。
「ん? ちょっと待て。こっちのゲーム機でやったら最初からだぞ」
「大丈夫。一度もやってないから」
わぉ、こりゃたまげた。なおさら何故買ったかね。
スタートさせる。のっけはやっぱりそこまで怖くない。
「ほら、可愛い」
「惑わされたら恐怖増すぞ」
「う、うん」
「ささ、早速選択肢」
「ロッカー開ける開けないとかもうなにかありますって言ってるよね」
「急に冷静になんなよ」
「開けてみよう」
「え、開けるの?」
「うん。えい」
「あ、ちょっ」
「「……空かいっ」」
ハモる二人。笑い合い読み進めるボタンを押した直後画面いっぱいに血だらけの女の絵が表示された。
「……ーっ!」
声にならない悲鳴を上げ、美沙が抱きついてきた。
ダメだ、止めようっ。怖いのとリアルでの出来事がクリアまで持ちそうにない!
「止めようぜ」
「明日辺り売ってくる」
「その方が良い」
「ごめんね、凪。急に抱きついて」
「いや、それは大丈夫」
柔らかいのが当たって気持ちいいからとは言わない。
なんか気があると思われても困る。
「ダメだったときに備えて別のも実は持ってきたの」
「おー、なに持ってきたんだ?」
「キャロット」
「また全然違うな」
「でも、凪は?」
「苦手なジャンルっす」
「大丈夫。協力プレイだし」
「ハードル下げとくわ。足引っ張るんでリアルでキレないでください」
「ハードルもう埋まってるから大丈夫」
期待なんて端からしてないと……。
なめられたもの。けど、事実っ。
「これは、セーブカード持ってきてるから」
「そっか」
「ほぼほぼ脱出できる」
「なんだこのタマゴ」
「あ〜、これね」
ロケットが降り立ったがすぐ近くに謎の巨大タマゴ。
見るからに不自然。けど、触らずにはいられないポジショニング。
「割っていい感じ?」ベシッ
「聞く前に割る人中々いないよ?」
「ダメパターン」
「……」
無言の肯定。てっきりいいと思うじゃん。
楽観的な雰囲気の物言いだったし。
すると、タマゴが揺れだして中から緑色の得体の知れない生物が出てきた。
「ほら、出てきた」
「うわ、キモっ」
「絶対この子の後ろにはキャロット投げないで死ぬから」
「分かった」
「あ……」
「美沙さん?」
「一匹はしゃーない」
こうしてキモい生き物と戦い夜はふけていった。
――なんか頬にフサフサしたものが触れている。
寝るときにぬいぐるみ抱いたっけ?
ていうか、昨夜布団入ったかな。
瞳を開け、視界の隅に髪の毛。……あ。
「お、起きろ美沙」
「……ん……」
「おーい」
「な、凪ぃ? ……」
「そうだよ」
「……」
寄りかかるのを止め、ボケーとする美沙。
ベットに背中を預けてゲームすると寝落ちしちゃうんだよな。
「おはよう」
「おう。首痛くないか?」
「とりあえず平気」
ブブ。短鳴ということはメールか。
しかも、母という。メールを開く。絶句した。
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