第12話「美沙を抜くくらいの負けず嫌い」

「……ネコ……」


「いいね。可愛いよね」


「コク……」


 少し頷くのが早かったから本当に好きなのだろう。

 この間バイトで行った家の犬が思い浮かび、なんか切ない気持ちになってしまった。

 自分のことを好いてもらおうとスキンシップを取っておきながら実は猫が好きとか。


「というわけで、猫のキーホルダーね。これは、三人の友情の証。まぁ、無くしちゃってもペナとかないけど」


「代償が大きすぎるからいらないだろ」


「一番無くしそうな人がなに言ってんの」


「ぐっ」


 そこをつかれてしまうと言葉が出なくなってしまいますよね。


 いわゆる図星。


 ここでそんなこと無いと言えない自分が悔しいっ。


「今回は私が言い出しっぺだから全部払うね」


「……ありがとう」


「次回同じことがあったら全部凪持ちね。あざーすっ」


「なんもまだ言ってないだろっ」


「バイトしてるんだから出せるでしょ」


「いつになるか分からないけど、次回は奢ります」


「ちゃんと男を立たせてるんだからね? 負のイメージに取らないでよ」


「取ってないから安心しろ」


「どうだか」


「……のお返しでございます。ありがとうございました」


 会計を終え、ショップを出ると、先に会計を終えて店外で待っていた美沙が開口一番「次はゲーセンに行こう」と言い出した。


 断れない。超笑顔なんだもん。


 高林さんに視線を送ると、一つ頷いてきたので返答はもちろん良い返事をした。


「なにやる?」

「決めてなかったのかよ」

「だって勝手に決められないじゃん」


 いや、ゲーセン行くというのは半ば勝手に決めてるから。

 なにを今さら言ってるんだ、この子はもう。


「美沙の好きなので」

「じゃあ、シューティン――」

「UFOキャッチャーやろう」


 好きにとは言ったけど、女子と来てること忘れてるんじゃないだろうな。

 いやまぁ、美沙も女だが。どうしてそのチョイスになるのかさっぱりだ。


「好きなので良いって言ったじゃん」


「だからってなんでシューティングゲームなんだよっ」

「いつもゲーセン来たらやってるから。ポイントとかもちょうど良いと思って」


 ポイントが本当のシューティングゲームやりたい理由だな。

 賢いじゃないか。確か複数人でプレイするとポイントが倍になるんだよな。


「UFOキャッチャーやるから」


「いやいや、とうの高林さんの意見聞いてないでしょ」


「……両方」


「まさかのっ」


 双方の意見を潰さない選択肢っ。高林さんらしいといえばいいのかな。

 客商売やってるから波風立てないやり方上手い。


「じゃあじゃあ、さきにシューティングゲームやろっ」


「俺は観察してる」


「なに言ってるの凪。これ三人でやれるから」


「チッ……」


 どうしてシューティングゲーム嫌いって言ってるのに。

 参加させるパワハラだよ、これ。


「ほらほら、真ん中に入って」

「俺苦手なんだけど」

「大丈夫大丈夫」

「軽いな……」

「両手に花と思えば」

「守ると思えばって?」

「そうっ。じゃあ、頑張って」


 いつの間にか俺の分のお金入れたよっ。画面にゲームスタートの文字。

 ホント勝手だよな……。まぁ、タダでできるからやる気は出すけどね。


「凪そっち敵行ったよっ」

「お、おう」

「……」


 俺が美沙に気を取られてる間に敵が目前まで来ていた。

 だが、それを見逃さなかった高林さんが言葉を発することもなく敵を葬り去った。


 カッコいいな、おい!


「サンキュ」

「……コク……」

「逆に守られちゃったな」

「そういうときもあるよ」


 元はといえば、美沙が話しかけてこなければ対応できたのだ。

 ……あ、すみません嘘です。多分二人がいなければ今ごろゲームオーバー。


 ていうか、なんで銃当たるの?


「あー、ヤベッ。なんでみんな当たるんだ?」

「どうして当たらないか分からない」

「クソッ、ダメだ! ごめん」


 ゲームオーバーの文字が画面に表示され、すぐにゲームスタートの文字に変わった。

 再チャレカウントダウンを待つことなく美沙か高林さんが百円を投入したらしい。


「……もう一回……」

「ま、マジで」

「マジ……。あ……」


 た、高林さんが投入したみたい。

 そしてそれは、無駄に終わった。ゲームオーバーの文字が画面にと思ったら……以下略。


「もう一回……」

「ホントマジですまん」

「大丈夫」


 美沙を抜くくらいの負けず嫌い。

 目が人一人やれるような目つきになっていた。

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