第13話「勘違い」
高林さんの意外な一面を見れた翌週の土曜日。
今日こそは休日らしい休日を送れるといいんだけど。
朝めしを食べ終わってしばらくなにをするでもなくボケーと外の景色を眺めていた。
トントン。そこへドアがノックされる音。
一人の時間ってみんなどうやって取ってる?
返答したらドアが開き、お袋が入ってきた。
「暇? 暇だよね。ちょっとパシられてほしいんだけど」
「あー、ごめん。今忙しい」
「どこが?」
部屋を見渡し、なにも忙しいことしてないじゃんとでも言うように視線を最後俺に向けた。
「精神を整えてる」
「やっぱり暇じゃん」
「だからこれから忙しくなるんだって」
「ネジをねちょっと買ってきて欲しいの」
「人の話聞けよっ。これから忙しくなる――」
「たまには家族孝行しろよ」
それを言われるとぐぅのねも出ない。ここは潔くパシられるか。
まったく世話の焼ける親だこと。
「しょうがねぇな。見本は?」
「これ。ゆっくりでいいからなるべく早く戻ってきて」
ゆっくりって言ったり早く戻れって言ったり、これ以上チンプンカンプンなことを言われる前に家を出てしまおう。
ていうか、ネジなんてどこで使うんだよ。
家を後にし、自転車を走らせること数十分。
ホームセンターにやってきた。
やっぱり場所が場所だけに土木関係のお兄さん方が多い。
土曜日も仕事とか俺だったら耐えられないな。
ある種の尊敬の眼差しで彼らを見ていたらネジ・小物という吊り看板が視界の上方に映った。
「小さくてどれがどれだかさっぱり分からん」
品揃えの多さに驚くと同時に小さすぎて選ぶことが億劫に思う花咲。
小言を吐いて写真を撮っておいたネジを見る。
ちょっとはね、探さないとですよ。
初めから分かりませんで店員を呼ぶのはどうも気が引ける。
え〜と……。…………。ダメだ、こりゃ。
花咲は、目がおかしくなりそうになったようで、瞬きを一回ぐっとキツくして呼び出しボタンを押した。
店内に響く呼び鈴とここの通路番号がアナウンスされる。
「……ん?」
程なくしてこちらにやってきた店員がほぼ毎日目にかかる親友であった。
ホントに驚くと人って言葉があまり出てこない。
「いらっしゃいませ。お待たせしました」
「まさかのまさかだった」
「よ。凪がホームセンター来るなんて珍しいな」
こいつの中の俺のイメージどうなってんだ?
実家に住んでるか一人暮らししてるかに関係なく家に住んでればなにか必要だろ。
めんどくさいから突っ込まないけど。
「ちょっとパシられて」
「それはそれは、ご苦労さまです」
クレーム入れてやろうかな。軽く会釈してきた。
ちょっと含み笑いなのが腹立つし。
あと分かって言ってるのか分かって行ってないのか不明だが、なんで上から労わなきゃいけない。
「ご苦労さまですは、上から下に言う言葉だぞ」
「え、一個下ですよね?」
間違えてますよと言わんばかりの表情に腕が反応しそうになるのを堪える。
素で言ってないのは分かるが、どうしても腹が立ってしまう。
「おいこら。同い年だろうが」
「あれ、そうでしたか。先輩にはなにも言われなかったぞ?」
「じゃあ、先輩も知らないんだろ。同い年もしくは先輩に言うときは、お疲れ様が正解だから」
「詳しいな」
「ネットで調べた」
「なんだよ。受け売りかよ」
「あとどこでそんなこと耳にするよ」
逆にネット以外にマナーのことを俺が知っていたら怖いだろ。
高校生が自然の流れでそんなこと知ってるわけないし。
「まぁそうか」
「それかお先に失礼しますもいいらしい」
「なるほど」
「まぁでも、勤務先のルールに従うのがいいとも書いてあった」
「なんだよ。結局そこに行きつくのか」
「大体こんなもんでしょ」
「参考にしておく」
大概『参考にしておく』は、実践しない人が言う常套文句。
まぁ、別にキレられて嫌な思いするのは俺じゃなくて明なわけだし。
「そうしてくれ。ゲームの発売したあとはどうするんだ?」
「もちろん。今やってるのは三部作制覇するためだから」
「まぁそうだよな」
明は一度決めたらあまり曲げないタイプだから。
例え仕事仲間に辞めないでほしいと言われてもなにか理由を言って辞めてしまえる。
俺からしたら凄いというか根性が曲がってると思ってしまうけれども。
「凪はどうするんだ? 続けるのか?」
「うーん、これを買ったから止めるって言うのはないけど、今後はちょっと考え中」
「そうか。続けていけるといいな」
「サンキュ」
正直まだ少ししか仕事してないし、辞めることなんて考えてる場合じゃないっていうのが本音。
目的が短ければすぐ辞めるのも手だけど、お小遣いがほしいから始めたのもあるから。
「あと、ネジのことだけど、俺じゃ分からないから違う人呼ぶわ」
「了解」
「あ、すみません。ちょっとネジの種類が分からないので来てください。はい、お願いします」
「なんかかっこいいな」
「そ、そうか?」
いや、明に言ったつもり無いんだけど……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます