第14話「……買わないのかよっ」
照れ笑いを浮かべ作業用エプロンのポケットに無線機をしまう明を見て、真実を告げるほど俺は鬼ではない。
ほどなくして駆け足でやってくる人物が目についた。
どうやら呼び出した人らしい。
軽く会釈して明が俺から受け取ったネジを先輩に見せている。
「お待たせしました。こちらがお探しのネジです」
「ありがとうございます。じゃあ、またな明」
「はい」
店員モードへ移った明にもう一度手をあげて、俺はホームセンターを後にした。
☆ ☆ ☆
誰にも言うなよと言われていなかったので、美沙に話したところ見に行きたいと展開したため今度のバイト休みにホームセンター行こうということで現在再びホームセンター前に足をつけていた。
「まさか新川君がこんな立派なところでバイトか」
「意外だよな。イメージ的に居酒屋でバイトしそう」
「あ、分かるっ」
「邪魔しない程度に絡もうな」
「それは、もちろん」
「さて、どこにいるか」
変な客にならないように明を捜索していると、向こうからやってきた。
なんだ、つまらないやつだな。
探し出して見つけることに意義あるのに。
「いらっしゃいませ」
「遊びに来た」
「仲が良いことは喜ばしいことだが、何回も知り合いが来ると俺のクビが危うくなるんだけど」
「大丈夫。もう一切来ないから」
言葉にトゲがありまくりじゃないですか。
もはや一文字一文字にトゲがあるかのようだ。
「それはそれで困る」
「わがままだな」
「先輩から連絡きたときは冷や汗出たんだからな」
「明が思っているようなことにはならないんじゃないか。この間の男の人ずっとニコニコしてカンペみたいなの出してきてるぞ?」
「え? ……ゆっくりしていって……」
「随分協力的な勤務先で良かったじゃないか」
アットホームな会社なのか。
最近増えたらしいけど、いざ目の前で見ると微笑ましい。
やっぱり仕事とかバイトは楽しくするものだよ。
「まぁな」
「はい、先生っ」
「なんですか、美沙さん」
公の場というのもかえりみずピシッと手をあげる美沙。
その勇気をくんで指名すると、美沙は「収納について教えて下さい」と言って腕を下げた。
「あと、急にでかい声出すのは止めてくれ」
「それは、うん。後悔してる」
「まぁ、収納は結構分かるから案内できるぞ」
「お願いします」
「それではこちらでございます」
接客してます感を周りの客に与える目的から急に店員口調になった明は、俺らを収納エリアへエスコートした。
さすが敷地面積の大きなお店だことで、ここのエリアが一番大きい。
「上の方のやつってどうやって取るの?」
「それは、俺も思った」
首をほぼ真上に向けないと全容が分からないからゆうに三メートルはあると思う。
「さあ? どう取るんだろうな」
「えぇ?」
「明それは店員としてどうなんだ?」
「だから、俺ここバイトしてまだニ〜三日しか経ってないんだって」
「ならしょうがないか」
あ、この子明の返答で聞く気無くしたな。
美沙の相づちが平坦な声色だった。
正直本当に聞きたいのは収納についてだから。
思いもよらぬ明の言葉を聞いて聞く気無くすのは非常によく分かる。
「どんなものを収納するんだ?」
「本とかCDとか」
「だったら、棚にした方がいいんじゃないか?」
「ホコリ被らない?」
「今凄い便利になって上部にレールがあってカーテンかけられるのも出てるんだよ」
「おおー」
「……買わないのかよっ」
美沙のリアクションに買う意思があると思ったのか、中々手を伸ばさない美沙に明が突っ込んだ。
知り合いにだけ突っ込んでるのか怪しいテンポでの突っ込みだったな。
大丈夫かな、こいつ。トラブルにならないといいんだけど。
「今日はね。だってチャリだし」
「いやいや、凪に持っていってもらえば」
「バカ言うな。俺も自転車だから」
「男だろ」
「じゃあ、明は持っていけ――」
「無理無理」
「……はぁ」
「ため息つくと幸せ逃げるぞ」
「誰のせいでため息が出たと思ってんだ」
「さぁ?」
腹立つっ。クレーム入れてやろうかな!
両手を肩あたりで止め、首を横に振る明。
「決めたっ」
「「っ!?」」
男二人仲良く肩をびくつかせちゃったよ。
唐突に声を発するのは卑怯だと思う。
「声が大きいって言ってんだろ。あー、びっくりした……」
胸を撫で下ろす花咲に「あー、ごめんごめん」と軽い口調で謝罪すると、美沙は瞬時に真面目な顔になった。
ギャップの激しい子だことね。
飽きない半面そういうテンションじゃないときにそれだと困ってしまう。
「本題に入るよ」
「お、おう」
「私もバイトするっ」
「お、マジかっ」
「マジも大マジ」
どうやら俺に触発されたらしい。
しかも、その場限りのノリで言ってるようには俺には見えなかった。
☆ ☆ ☆
バイトをして初めての事務所待機。
とある平日。俺は放課後なんでも屋の事務所で落ち着かないでいた。
まるでお茶会にでも参加したかのようにお茶の良い香り。
そして周りにいる高林さんのお母さんイコールバイト先関係者。
なにをするにも緊張する。
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