第25話「振り向いたら……!?」

「新作買ったんだよね?」

「あぁ」

「一口頂だいっ」

「しょうがないな。ほら」

「ありがとっ。はむっ」


 差し出されたハンバーガーにかぶりつく。なんか美味そうなハンバーガーだな。

 今回の新作トマトが挟まってた。今度食べてみようかしら。


「どう、旨い?」

「美味しい」

「「……」」


 イチャイチャしてんじゃねぇよっ。見つめ合って笑みを浮かべ合うとか。

 レベル高すぎて直視できなかった。

 眩しいっていうの? 人があんまりいない時間で良かった。

 花咲は、安堵すると同時に視線の合致をした意味を考え、味わえる程度にハンバーガーをたいらげる。


(無理しなくていいぞ)


 ハムハムと懸命に頬張る高林に小声で制止した。

 ハムスターみたいになるところだったぞ。


(……コク……)

(下で袋もらおう)

「どうしたの?」

「いや、そろそろ俺らは帰るよ」

「これからどこか行くとか?」


 高林さんごめんっ。

 言い訳が浮かばないから問に便乗する。


「そう。悪いな」

「うぅん、またね」

「おう。彼氏さんもまたどこかで」

「うん、どこかで」


 別れの挨拶を交わし、持ち帰り用の袋をもらって店を出た。

 どうしてか仕事をするより疲れた。


「おし、帰るか」

「……コク……」

「もし付き合ってるって誤解されてたらごめんな」

「……大丈夫……」


 なにを持ってして大丈夫なの?

 前を走行する高林さんに突っ込みたくなったが止めた。

 ストーキングをされていたら後々気まずくなるだろうから。


「……今度……さっきの……ハンバーガー……食べたい……」

「バイトの帰り行こう。期間限定だから」

「……分かった……」


 やった。また高林さんと飯行ける!



 ☆☆☆



 早速次のバイトの後行ってそれを食べたが、やっぱりトマトが良いアクセントになっていた。

 みずみずしくてパティとも絶妙なマッチ加減。

 個人的にはレギュラーメニューにしてほしいくらいだ。


「プール今日からだね」


 6月の初めの週。

 昼食をとり始めてすぐ美沙がから揚げを口元へ持っていった状態のままそう言った。

 食うのを中断してまで言うことか?


「しかも、午後から」

「……泳げない……」

「マジか。どのくらい泳げない感じ?」

「……まったく……」

「1ミリも?」

「……コク……」

「凪教えてあげれば?」

「いや、美沙が教えるべきだろ」

「私別のクラスだから」

「休みの日にプール行くっていうのは?」

「嫌です。そういうわけで頼みます」

「……出来たらでいい……」


 ――五時間目になった。

 更衣室。明がなにやら興奮している。

 キモい。親友であることを隠したくなった。


「この中だけにしろよな」

「なにを?」

「鼻の穴ヒクヒクして興奮してることっ」

「え、してた?」

「してたから言ってるんだよ」

「逆にプールで興奮しない奴いんの?」


 開き直った! いないわけないだろ。

 俺だって合法的に女子の生肌を見れるのだから興奮している。


「おし、じゃあ端から端まで。泳げる人は泳ぐ。一往復目標な」


 アキラの問をスルーし、更衣室を出て準備運動を済ますと、教師がそんなことを言い出した。

 噂には聞いていたが、なかなかのノルマの軽さ。

 ただちょっと水深が深い。泳げない人にはキツいかも。

 そう思い花咲は、莉音奈の後ろにつく。

 これなら有事にも対応できるだろう。


「よぉーい始め」

「おっしゃ、泳ぐぜ」

「バタ足はすんなよ」

「……」

「言ってるそばからっ。顔に水かかるの嫌な人もいるんだからな」

「バリアでも展開しておけ」

「あ、お前炎上ぉ」


 SNSにでも上げてるのかこれをっ。

 むしろ今いるやつらから砲火して炎上しそうだけど。

 抜かしていくクラスメイト達をちょびっと羨ましく思いつつ、高林さん……を……。

 溺れかけてる!


「……っ! ……! ……」

「だ、大丈夫か!」

「はな……さき……君!」

「変なところ触ったらごめん」


 莉音奈の返答を待たず花咲は、彼女の腰辺りに手をあて、深くないところへ運ぶ。

 まさかこんなに深いとは。俺でもギリギリだった。


「もう足つくぞ」

「コクコク」


 なん回も頷く高林さんの腰から手を話す。

 柔らかいながらも細かった。

 水着の質感も中々くるもんがある。


「そこの二人。端で往復でも大丈夫だぞ」

「誰に言ってるんですか?」

「……ぇ……?」


 小さく声が漏れたような。近いっ。

 身体寄せてたの忘れてたっ。


「あと動いてないやつらいないだろ。いいから早く端にいけ。危ない」

「分かりました」

「……優しい……」


 端へ向かう中高林さんが呟いた。今の投げやりな言葉を聞いてどうしてそうなるの。

 もしかしてこの子騙されやすいタイプ?

 よく今まで騙されてないな。


 それとも俺には言ってないだけで……。止めよう。

 考えるのを止めて高林さんと共に端へ到着した。


「ありがとう」

「どいたま」

「端を往復。捕まってもいい?」

「大丈夫だと思うぞ」


 これってダイエットによくあるやつじゃん。

 最近ちょっと腹が出てきたところだったから丁度いい。

 プールサイドで見学じゃなくて助かった。


 テントがあることによって日光は防げるが、照り返しはどうにもできない。

 しかも、湿度が高いから体操着はびしょ濡れよ。


「……ごめんね、花咲君……」

「ん? なぜ謝る」

「……泳げなくなった……」

「大丈夫。そこまで泳ぐの好きじゃない」

「……コク……」


 それよりも重要なのは自由時間があるかどうか。

 次回から明と遊べるのか否かが不透明……。

 出来ればあってくれっ。


「そういえば顔は水につけられるのか?」


 その前に思い至ってしまった。

 水が嫌いならそこをまず直さないと次に進まない。


「つけられない」

「じゃあ、まずそこから頑張ろう」

「……分かった……」

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