第79話「……もしかして起きてた?」
――保健室に着く頃にはほぼ回復していた。
仮病を疑われたが、あの溺れかけ方はガチだと思うのでフォローしておいた。
そしてバイト休みの被った今日。
ちょっと楽しみにしていたスイーツを食べに行くことになったが、どういうわけか高そうなお店に連れてこられた。
しかも食べ放題。
「……助けた対価大きくね?」
「いいのいいの。食べ放題だから元を取れば万事解決」
「元を取るほど食べれないって」
「うん、知ってる。一緒に食べるってことがもう対価だから」
満面の笑みで言われたら良い方向の答えを返すしかないじゃん!
しかも、タブレット式のメニューをこちらへ渡してくる始末。
頑張って食うしかないか。
聞いたことがあるような無いような名前のケーキ? をランダムに注文していく。
「あ、紅茶お願いします」
「セルフ?」
「あ〜、そうみたい」
指を案内掲示に向けて頷く美野里さん。
お初入店なのね。しょうがない。話すこともないし行ってくるか。
美野里さんの望んだ紅茶と自分のコーヒーを持ってテーブルに戻る。
食べ放題ってメニューが早く来るイメージあるよね。
もうケーキ達が姿を現していた。
「あ、美味しそう」
「ホントだ。でも、できれば空腹じゃないときに食べたかった……」
「たぶん食事系も食べ放題に入ってるよ」
「え、来たことあるのか?」
「いや、友達が言ってた」
「じゃあ、頼も」
主食がスイーツじゃないんでね。
カレー。いや、オムライス……。
ていうか、二択!?
「なんかオムライス美味しいらしいよ」
「マジか」
騙されたと思って注文してみるか。
カレーは良し悪し分かれそうだけど、オムライスは聞いたことがない。
あれって中身がピラフかチキンライスの差くらいだと思うんだけど。
美味しいのには変わりないけどね
「お待たせしました。オムライスです」
下がるウェイトレスを見送りオムライスへ目線を落とす。
ザ・オムライス。食べてみる。
ふむ。やっぱりチキンライスプラスタマゴっすね。
空腹だから美味いが、推すかと言われたら少し怪しいところ。
「美味しいでしょ?」
「あぁ、美味い」
「スイーツ店だけど食事系も美味いところって凄いよね」
「まぁ確かに」
「あたしはカレーの方が推してるけど」
しれっと言ってのける美野里さん。
オムライスを食べ終え、ケーキ。
食後のデザートってどうしてこう美味そうに見えるのだろうね。
「……」
「どう?」
「美味しい」
「あ、そんなに? 美味いと言わず美味しいっていうくらいなんだ」
「マジで食べたら分かる」
「う、うん」
驚く暇あるなら早く食え。
感想を共有できないじゃんか。
俺からの催促を受け、美野里さんはパクっと一口。
数秒後眉が上がった。
「美味しい」
「だろ? これなら元取れなくもないかもしれない」
――人生で今後更新しないであろうケーキを食べた気がする。
当分スイーツの食べ放題は行くまい。
ある日の昼食。紗衣ちゃんがバイトやりたいと言い出した。
「紗衣ちゃんがバイトか」
「あ、しない方がいいですか?」
「いや、それはない」
「もう少し言い淀んでください」
ウソは良くない。どろぼうの始まり。
無言の拒否をしてやると、紗衣ちゃんがお茶を口に含んだあとベンチに弁当箱を置き、目前でしゃがみ込んだ。
ほんのりとシャンプーの香りか香水の匂いが鼻孔をくすぐりドキッと胸が早くなる。
「なにやったら良いと思います?」
「なんで俺限定」
「みんなにはもう聞きました」
美沙にも聞いたってことか。
ていうか、美沙はなんでなにもとがめない。
「うーん、ハンバーガーショップとかいいんじゃないか?」
「あ〜、いいかも」
「……コク……」
「理由はなんです?」
「フレンドリーで笑顔がチャームポイントだから」
「……」
めっちゃ顔が赤くなった。
ちょっとストレートに言い過ぎたか。
でも、納得してもらうにはこのくらい言わないと無理だと思う。
「でもまぁ、決めるのは本人だよ紗衣ちゃん」
「いえ、やってみます」
あと、バイトに入ってくれれば遊ぶのも減ると踏んでるのも一理ある。
どうにかその気になってくれたらしく赤面のままマジなトーンで紗衣ちゃんは宣言した。
――貴重な高校生の休日が俺にもまたやってくると思うと楽しみで仕方がない。
バイトが終わり日課となっている高林さんを自宅まで送り届けて帰ろうとしたら呼び止められた。
「……夏休み……出張ある……」
「オッケー」
「……大丈夫? ……」
「予定とか?」
「……コク……」
「全然空いてるから」
「……」
ヤバい、悲しくなってきた。
ま、まぁ、高林さんと遠出するし。
無言無表情の高林さんにいてもたってもいられなかった俺は、分かれの挨拶をして足早に帰宅の都に着いた。
「……ぅ……すぅ……」
自室のドアを開けると、人のベットで猫のような背中を丸めた寝方をした美沙が寝息を立てていた。
一瞬入る家間違えたかと思った……。
無防備な寝姿の美沙の近くまで歩み寄る。
あ、写メろう。少し暗いバチは当たるまい。
一応消音にしておく。バレたら絶対めんどくさい。
カメラを起動する。こうまじまじと見ると可愛んだよな。
パスワード付けておこう。見るだけでいやされる。
……ちょっと頬を撫でてみよう。
「…………むにゃ」
「……」
良い夢でも見ているのか幸せそうな表情をしている。
優しく撫でれば分からないはず。
……うわ、スベスベしてる。ずっと撫でてたい。
「んん……」
「起きろ美沙」
「凪?」
「俺の部屋だからな」
バレてからでは遅いからな。起こしましたよ。
寝ぼける美沙に揺さぶりをかけ、まどろみから引っ張り出す。
「……おかえり」
「おう、ただいま」
上体を起こす美沙が目をこすり、俺に顔を向けてきた。
なんか顔赤いな。……もしかして起きてた?
い、いやまさかな。
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