第78話「するやつはぶん殴れ」
「大丈夫。うぷっ。それは、この歳で」
「うぷって言った人の話はにわかに信じられないわ」
「横になる」
座ったらマジで吐くやもしれん。
心配してるようでしてない美沙を尻目にカーペットの上に身を預ける。
「なんでそんなに食べたの?」
「ホルモン噛んだら飲み込むタイミング分からなくてずっと噛んでた」
「あ~。誰と行ったの?」
「紗衣ちゃん」
別に隠す必要もないかなと思ってオブラートに包まなかった。
眉をしかめる美沙。気にしない気にしない。
誰と行っても自由なのだから。
「なにもされなかった?」
「されてません」
「ならいいけど」
「そういうことは好きな人にするもんだ」
「一昔前の人?」
誰とでもするのもどうかと思う。
ていうか、美沙はそういうことをしてしまうタイプなのか。
なんかショック。
「そういえばさ今日高林さん見かけた」
「そりゃ町は狭いからな」
「でね、私服が凪の趣味に近かったの」
「俺の趣味に近い?」
女子に自分の好きな服を着させる趣味はない。
ただそうなった経緯は伝えておこう。変に詮索をされたくない。
「うん。凪なら選びそう」
かくかくしかじかなぜそう至ったのか説明した。
美沙が横たわる俺の横に来て腹を押さえてきた。
「私にも選んで?」
「お、おう」
ダメと言わせる気などみじんもないようだ。
押されたらBBQが自室に展開してしまう。
「やったぁ。じゃあ、今度の休みが合ったときお願いね」
「りょ、りょーかい」
☆☆☆
早々休みが被ることなんて無いと思っていたらすぐ休みが被った。
登校から下校までずっとはしゃいでいる美沙に少し嬉しくなってる自分がいる。
「遠慮なく凪が好きな服選んでね?」
「分かった」
似合う服ってことでいいんだよな。
ちょっとニュアンスが違うから聞いておこうと思ったけど止めた。
思わぬハプニングが起きるとも限らない。
余計なことを口にしないのが仲良くする秘訣。
他愛もない話をすること数十分。
おなじみのデパートに着いた。
「やっぱ二人で来ると着くのが早いね」
「まぁ楽しいからじゃない?」
「うわ、自分で言う?」
「なんだ楽しくないのか?」
「もち楽しいよ」
眩しい笑顔を浮かべられてしまった。
ツンデレだったらこうならないのかな?
「うし、行くか」
「ラジャ」
話に花を咲かせてる場合じゃない。
デパート二階。服屋。女たらしと思われてないよな……。
毎回別の女子連れてるんだけど。知り合いがバイトしてませんようにっ。
「じゃあ、コーディネーターさんお願いします」
「オッケー」
美沙のイメージって活発な感じだから……。
肌の露出が少しあった方が似合いそうだと思う。
「凪ってそういうの好きなんだ」
「美沙に合うと思って」
「ボーイッシュ私好きじゃないけど凪コーディネーターが推すなら買いましょう」
「え、いいのか?」
「選んでほしかったから」
「そ、そうか」
そんなストレートに言わなくても。答え方が分からないっ。
顔赤くなってたら最悪。
「じゃあ、買ってくるね」
「俺もついていく」
「あ、一人じゃ嫌なの?」
「そうともいう」
「はいはい」
あしらわれたっ。
クソッ。いつか照れさせてやるっ。
――やっと我がクラスにプール授業がやってくる。
なんでウチらのクラスだけこんなに遅いのか。
そんなに泳げるわけではないが、朝から楽しみだ。
「なんか良いことあった?」
赤信号で止まって横に並んだ美沙が俺の変化に気がついた。
さすが幼なじみというべきか。
「今日プールなんだよ」
「あ、やっと始まるんだ」
「長かった」
「今年は暑いもんね」
「あまりに遅いよな」
「あと少しで夏休みだよ」
これも担任の意向とかだったら密告案件だな。
あの人ならやりそう。体育の先生と繋がってたり。
「なんの話だ?」
学校に着くなり美沙のクラスに行くと、明が話の内容に興味を示した。
たぶん自分のことを言ってるように思ったのだろう。
はぐらかすとめんどくさいのでさっき喋っていたことをそのまま伝える。
「良かったな。プールあって」
「ホントだよ。このままウチのクラスだけないのもワンチャンあったかもしれない」
「ありえなくない話だから困るよな」
「いや、ないでしょ」
美沙さんここで真面目回答はおよしよ?
必須項目だし、絶対やらなきゃいけないのも知ってますからね。
急に曲がったこと嫌い出してくるの止めてほしい。
「……予鈴……」
「あ、ホントだ」
「じゃあ、良いプールを」
「なんじゃそりゃ」
訳の分からない見送りをしてきた美沙に突っ込み我がクラスに戻ると、みなプールへ行く気満々だった。
危ない余裕ぶっこいて本鈴ギリギリまでいたら出遅れるところよ。
ナイス高林さん。
してSHRを経てプールの授業。
ひんやり冷たい。浸かってるだけでも良いね。
プールらしいまともな課題を終え自由時間。
美野里さんとボールを使ってたわむれている。
「ここちょっと深いよね」
「平均身長基準だからじゃない?」
「なるほ――あ、足つった!」
「え!?」
ボールを受け取ってまもなく美野里さんがもがきだした。
急いで近寄り美野里さんの脇あたりに腕を通す。
……良かった。プールサイドの近くで遊んでて。
「おい、大丈夫か!」
「あ、すみません先生。この子引き上げてください」
「お、おう。分かった」
プールサイドの座るところに肘をかけ、俺は頑張って美野里さんの身体を先生の元へ上げる。
「お前彼氏か?」
「違います」
「そうか」
変な質問に答えた直後するりと美野里さんの身体が俺の腕から抜けていった。
……一安心。
「大丈夫か?」
「右足がつっちゃって」
「おい、お前」
「……」
正直俺もギリギリなところだった。
わずかにふくらはぎがつる前触れを示してきていたから。
「おーい」
「……」
「花咲君」
「ん?」
「先生が呼んでる」
「あ、すみません」
安心しすぎて右から左に音が抜けていたかもしれない。
謝ると先生が保健室へ連れて行けと命じてきた。
「え、荷物は?」
「取ってきてやれ」
「変態呼ばわりされたら困ります」
「するやつはぶん殴れ」
「無理です」
「いいから取ってこい」
「分かりました」
わりと良くないことをさせてると思うんですけど。
イジメられた日にゃこの先生を恨もう。
意を決して女子更衣室。入ってすぐ左らしいのでそれを拝借。
一応名札を見ようかな。……よし合ってる。
違うやつのだったらそれこそヤバい。
「取ってきました」
「おし、じゃあ頼んだぞ」
「はい」
心臓がバクバクいってるのをスルーして先生に返事をした。
ほぼほぼ裸な状態だから美野里さんの肌を感じる。
「ごめんね、花咲君」
「気にしない気にしない」
もはや自分に言ってる。
気にしたらヤバいことになることは考えるに容易い。
「ありがとう」
「変なところ触っちゃってたらすまん」
「大丈夫」
「なら良かった」
「今度さ奢らせて?」
「いや、いいよ」
保健室へ向かう中美野里さんが詫びをしたいと言い出した。
貸しを作りたくないのだろう。
気持ちは分からなくない。けど、こういうのはお互い様じゃん。
「命の恩人」
「大げさだって」
「いやいや。花咲君がいなかったらもっとひどいことになってたかもしれないでしょ」
「……どうしても奢らなきゃ気が済まないのか?」
「うん。させてくれるまでずっという」
それは嫌すぎる。仕方ない。飲んでおこう。
「分かった。奢られます。スイーツ奢ってください」
「え、スイーツ?」
「あぁ」
「了解。じゃあ、バイトがお互い休みの日ね」
「サンキュ」
「お礼を言うのは私だからっ」
そんな半ギレぽく言わなくても。
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