第80話「凪のこと大好きだから」
部活に入ってないのに最近肌が焼けてきている。
中庭で飯を食ってると直で太陽の光を浴びるからできれば中で食べたいという二~三ヶ月前の俺の意見は通らなかった。
その結果が小麦色の肌である。
背中に汗が流れるのを感じながらお茶で喉を潤す。
「あ、ちょっといいですか?」
さぁ食べようかなと箸を白米まで伸ばしたところで紗衣氏が制してきた。
待てと言われた犬の気持ちが今はよく分かる気がする。
「どうした?」
「実はあたし面接受けることになりました」
「おお。どこの面接受けるんだ?」
「この間言ってたハンバーガーショップです」
「受かるといいな」
「はい」
この感じで不合格だったら誰も合格できないでしょ。
スマイルが売りなわけだし。
――ヤバい、いつ受けに行くか聞いてなくてめちゃくちゃ気になるんですけどっ。
メッセで聞けよと思うだろうが、それはプライドが許さない。
気が気でないことが悟られる
「ねぇ、さっきから自滅多いよ?」
「す、すまん」
「紗衣ちゃんのことが気になるんでしょ?」
「そりゃ一応」
はっきり気にならないとは言わない絶対っ。
一応ねぇとつぶやく美沙。
五回以上自滅してるのにどの口が言ってんだということだろう。
「聞いてみればいいんじゃない?」
「いや、それだと気になってるみたいで嫌だ」
「現に気になってる」
「悟られるのがしゃく」
「めんどくさ」
自覚はあるけどいざ言われると腹立つな。
そう思いながらさらに自滅回数を上げていく俺であった。
☆☆☆
詳細は本人から聞けといううざいコメントをもらった。
まぁこちらをイラつかせてくる時点で合格してるのだろうけど。
前半の授業なんてこれっぽっちも頭に入ってこなかった。
赤点になった暁には巻き込もう。
そんなことを決意して中庭へ足を運ぶ。
到着すると、すでにいつもの面々が揃っていた。
「遅いです」
「四時間目の授業が中々終わらなかったんだよ」
「抜け出してください」
「無茶を言わないでくれ」
紗衣ちゃんが俺に牙を向けてきた。
これは、さらに俺の紗衣ちゃんに対する好感度下がりましたね。
「冗談です」
「悪質な冗談だな」
「ささ、座ってください」
「りょーかいですよ」
紗衣ちゃんに促され、持ってきた布に座る。
もうねアスファルトが熱すぎて火傷しちゃうんですわ。
「じゃあ、みんな揃ったのでこの間の面接の結果を報告します」
合格したんでしょ。
こんな上機嫌な様子で不合格を報告されてもいたたまれないだけ。
「合格しました」
「「……」」
「え、無反応?!」
逆にそれで反応があると思ってる紗衣ちゃんに驚きなんですけどっ。
みんなの顔を一様に見渡して最後俺を見る紗衣ちゃん。
兄を見なさい兄を。
「良かったな、受かって」
「あ、ありがとうございます」
「新川妹なら受かると思ってたよ」
「……コク……」
「名前で呼んでくださいっ」
もうこのやり取り飽きた……。
ていうか、高林さんも美沙に追随すると同じとみなされるぞ。
「今度寄ってみるよ」
「是非。あ、でも、一週間くらいしてからで。慣れてないと思うので」
「オッケー」
高林さんに関してはスルーするんかい。
――しくった。壮大にしくった。
紗衣氏をハンバーガーショップにバイトさせたら気軽に立ち寄れなくなるのよ。
明にさり気なく休みの日聞くしかない。
今日は無性にハンバーガーを食べたくなったので寄るけど。
「いらっしゃいませっ」
「さっそく来たよ」
入店してすぐ元気な声。
まるで長く勤めてるクルーかと思うほどのボリュームでしたよ。
「ありがとうございます!」
「お、おう」
ヤバい、笑顔が眩しい。笑顔の破壊力って凄いな。
これ以上見ていると、紗衣ちゃんを意識してしまいそうなのでちゃちゃっと頼んで帰ることにした。
あー、危ない。ドキドキ胸が高鳴っている。
帰宅してしばらくはその状況が続いていたが、母のテンションのウザさによって落ち着いてきた。
夕飯を摂り終え自室。
ゆっくりしようとベットに寄りかかったらスマホが震えた。
はかったように来たな、おい。紗衣氏からだ。
内容見ようとしたら電話の表示。
『もしもし?』
『今日はありがとうございました』
『どいたま』
『どうでした?』
『ファンができそうなくらい笑顔が眩しかった』
『あ、ありがとうございます。えへへ。またのご利用をお待ちしております』
『りょーかい』
『では、また学校で!』
『う、うん。また』
照れてる照れてる。
こっちもちょっと照れが伝染したけど、そんなことは気にならないくらい優越感というか。
ショップで素でドキドキさせられたからな。
お返し的なやつだ。ガチャ。
「おい、なに堂々と入って――」
「……」
一瞬なにが起きたのか分からなかった。
ふわっとシャンプーのような香りがしたあとわずかに身体に衝撃。
抱きつかれたらしい。ぬくもりを感じる。
「どうした?」
「ん〜とね、ハグ」
「それは、分かるけど」
「充電ともいう?」
いや、知らんし。どこかで聞いたような返し止めろよ。
間近にいる美沙のつむじを見ながら変なことを言う理由を考え――いや、分からないから困ってるんだわ。
「んで、くっつく意味は?」
「明日のお昼に詳しいことは話す」
「今言ってほしいんだが」
「やだ、今はくっついていたい」
「……」
正直こっちとしては胸が当たってるから止めなくてもいいけど。
詳しいことを知りたい。
――一体なにがしたかったのか美沙はしばらくして帰っていった。
次の日にはもういつも通りで。
「おはよう」
「おう、おはよう」
「今日も暑いね」
「せめて温度が低ければ違うのにな」
こんな感じで他愛もない話をして登校し、これまたいつも通りに時間は進み昼食。
待っていたような待っていないような。
中庭に着くとやっぱり俺が最後だった。
「お前ら終わるの早くね?」
「そっちが遅いんだよ」
「それはどうしようもない」
「まぁそうだな」
「どんなやり取りしてるの。……食べながら聞いてほしいんだけどさ」
俺と明のやり取りに苦笑いを浮かべたあと、美沙は一つ前置きを作って白米を食べ、えんげした後口を開いた。
「私付き合うことになったから」
「……はぁ!?」
「いやいや、誰と?」
「ま、まさか凪君とっ?」
「うぅん、違うよ」
びっくりした。昨日のハグが告白かと思った。
ていうか、美沙に彼氏とかそうか……。
「バイトの子なんだ」
「あるあるだな」
「……」
「……あ」
「凪君っ」
俺としたことが。
来るであろうことがすぐ来てしまって手がおぼつかなくなってしまったらしい。
様子をうかがってきていた紗衣ちゃんが俺の箸を拾ってくれた。
やっぱり想ってくれてる人の方がいいのか?
でも、俺の中で紗衣ちゃんは親友の妹だし。
この気持ちのせいにして紗衣ちゃんの好きに応えてしまってはあまりに紗衣ちゃんが可哀想。
――いつの間にやら放課後になっていた。
まったく五時間目以降の記憶が曖昧。
なんとなく自転車にまたがったらスマホが震えた。
あ、高林さんだ。
[莉音奈:紗衣ちゃんのバイト先行こう]
[花咲:うん]
優しいな、高林さんは。なぐさめてくれるようだ。
顔を上げ周りを見渡すと高林さんが自転車を押してこちらへ近づいていた。
良くされると好意を抱いてしまうね。
平常心平常心。
「……行こう……」
「オッケー」
「……ポテト……食べる……」
「そうだな。シェイクも飲もう」
「……」
そんなわけですぐ紗衣ちゃんがバイトするハンバーガーショップに足を運ぶことになってしまった。
入店すると、紗衣ちゃんがスマイルを提供してくれた。
今日ばかりは癒やされる。
シェイクとポテトを購入し、高林さんとテーブルを囲む。
「美味いな」
「……コク……」
「シェイク染みる」
「……今日……泊まる? ……」
まっすぐこちらを見る瞳。
なんでこんなに俺はブルーになってるんだろうな。
世の中幼なじみ(女)持ちはみんなこんな胸中になってるのか?
早々にポテトとシェイクを完食し、高林家。
「詳しいことは莉音奈から聞いたわ。ゆっくり傷を癒やしなさい」
「ありがとうございます」
「……」
約一名協力的じゃない人いるけど。
めっちゃ怖い視線くるし。
「……お父さん……」
「……」
一言で高林父ノックアウト。
ヤバいな、娘って。最強?
――翌日。高林家でメンタルを回復し帰宅したらメンタルを弱いものにした人物が俺の部屋でくつろいでいた。
なんなの、こいつ。
「あ、凪。どこ行ってたの?」
「まぁちょっとな」
「……答えになってないから」
そう言いながら目にも止まらぬ速さで接近してハグをしてきた。
柔らかいものが胸に存在を主張してくる。
引き剥がすのが惜しい。
美沙と言えど男には無い柔らかさなので。
「凪の匂い」
「え、臭い?」
「うぅん。えへへ〜」
「ど、どうした。つか、付き合ってるなら止めたほうが良いぞ」
紗衣ちゃんよりスキンシップ激しい。
彼氏いる人の行動ではないよね。
そろそろ剥がさないと。
「幼なじみはノーカウント」
「なんじゃそりゃ」
「特別ってこと。あと私幼なじみとして凪のこと大好きだから」
「は、はぁ!?」
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