第3話「変な時期に転校してきたのがまさかの!」
そこには、可愛らしいいかにも女の子が書きました感のある丸文字で
『申し訳ありません、急用ができましたので失礼します。冷蔵庫の中に本日の朝食がございます。またのご利用をお待ちしております』
と書いてあった。
急用って言ってもまだ五時三十分だけど。
どんなスピードで作ったら粗熱をとって冷蔵庫に入れられるんだろ。
つか、何時に急ぎの用が出来たのやら。
花咲が手にした朝食は、ウインナーと目玉焼き。
それを電子レンジにかけご飯を盛る。
恐らく四時台には起きてないと熱をとって冷蔵庫に入れることは難しいはず。
しかも、ベットの高林さんが寝ていたところはぬくもりを感じなかった。
「……旨っ」
なにこれ。普通のウインナーだけど、それを忘れるくらいの味付け。
目玉焼きの黄身はしっとりと俺好みの硬さ。
これもリサーチしたようだ。
親のウインナーも目玉焼きもなにも味付けをしていない。
だから俺が毎朝リクエストしていたそれをどうやら親は高林さんに依頼していたようだ。
はあー、旨かった。朝から幸せな気分である。
またなんでも屋依頼してくれないかな。高林さんの他の料理を食べてみたい。
ピンポーン。来客を知らせるチャイムが鳴った。
花咲が身支度を済ませ、玄関の鍵を解錠して外へ出る。
「おはよー!」
「おっす」
春の日差しとともに彼の目に映ったのは、前髪を真っ直ぐに揃え、後ろで結いた髪がわずかに頭頂部から見えかける少女。
こいつは、俺の幼なじみで
昨日の夕方メールが来て、美沙の特徴をザ・普通と記したと思うが、やはりそれがピッタリ。ツンでもなければデレでもない。
俺との関係性も男女の友情が成立してるし。
親友という位置づけではあるけどね。
そんな我が幼なじみは、朝からテンション高めに自転車にまたがり、俺に満面の笑みを浮かべる。
友達といえども可愛いと思うことはある。
「来年は同じクラスがいい」
「そうだな。ニ年はクラス替えがあるらしいからいまから祈っておくよ」
「あたしも祈っておこ」
高校に入ったばかりなのにもうクラス替えのことを話す二人は和気あいあい楽しく通学路を走り抜けた。
別クラスの美沙と別れ、自分の教室へ足を踏み入れる。
うるせぇな。一段とみんな声がでかい。
「ヤバくないっ」
「ウチのクラスに転校生か……」
「変なタイミングに転校してくるよな」
「なにか諸事情があったんでしょ。聞く機会あると思うけど、そういう話はご法度だからね」
「分かってるよ」
クラスメイト達は各々自席につかず、ぺちゃくちゃと興奮したように口を動かしていた。
転校生? いくらなんでも早くないか。
せいぜい秋だよな。
「お、凪。おはようさん」
「おっす」
花咲が教室に入ると、手を上げ近づいてくる一人の男子生徒。
こいつは朝から元気だな。
中学三年から仲良くなったのだが、随分と前から接したかのような距離の近さ。
ちなみに、友人というべきか親友というべきか絶賛悩み中。
名前は、
性格も明るいからこの人の親御さんは素晴らしいネーミングセンスの持ち主だね。
「今日も小堀と仲良く登校か?」
「もはや毎日の日課」
「それで付き合ってないんだからな」
毎日一緒に登校してるから付き合ってる判定は、いい加減誤った認識って気づいてほしい。
いくら俺達が小一から一緒に行動してるからって考え過ぎもいいところである。
「まぁあれよ」
「どれよ」
「男女にも友情成立しちゃうタイプなんで俺ら」
「ホントかよ、お前」
「ウソはつかない。ただ俺も男だからな。幼なじみが相手といえどドキッとすることもある」
「大変だな、なんか」
肩に手を置き、明がうんうんと頷くので同情してくれるなと言わんばかりに振りほどく。
「ところでこの賑わいは転校生が来るからだよな?」
「あ、逃げた」
「逃げてねぇから」
「はいはい。ウチのクラスに来るみたいだぞ」
「マジか」
ホントはウチに転校生が来ることは分かっているが、しらばっくれる。
ここで知ってる風な答え方してまた美沙の話題に戻られてもめんどうだ。
「入学式終わってまだそんなに経ってないのにな」
「事情があるんじゃないか?」
「はーい、席ついて」
扉開き、パンパン手を叩いて入室してくる担任。
それにともない花咲は、新川と分かれ自席へついた。
「HRを始める前に今日はお知らせがあります」
「転校生でしょ?」
「やっぱりウチなんだね」
「そうなんですっ。入ってきてください」
担任に呼び込まれ廊下から入ってきた女子。
それは、花先が面識ある人物だった。
た、高林さん!? 同い年なんだ。
昨日何も言ってなかったのに。
「……高林……莉音奈です。……よろしく……お願いします」
「みなさん。仲良くしてください。それでは、空いてる席座ってください」
「はい」
☆ ☆ ☆
詳細を聞こうと高林さんに近づこうとしたが、転校生あるあるの質問攻めにあっているため近づけなかった。
諦めて昼食。いつも俺は中庭で美沙と一緒に食べている。
「売店のパンってそんなに美味しいの?」
横に座って太ももに弁当箱を置いている美沙が、不思議そうに首を傾げ、俺のパンを眺めている。
「なんか家庭的で美味い」
「ちょっと頂戴」
「ほい」
「サンキュ」
美沙の口元にパンを持っていってやると、女子にしては大口で頬張った。
あー、そんな食う?
「ホントだ美味しい。凪の言ってる意味分かるっ」
「だろ」
紙パックの野菜ジュースをチューと飲みながら頷き、ある程度それを飲み込んだ美沙は口を開いた。
「んで、凪のクラス転校生来てんだって?」
まぁ、そうよね。この話しはしてくると思ってた。
あんだけ朝から騒いでいれば察するだろ。
「そうなんだよ。朝から大にぎわいだった」
「こっちのクラスにも聞こえてきたよ」
「その転校生まさかの知り合い? でさ。びっくりした」
「なんで疑問系?」
高林さんとの馴れ初めを説明した。
すると、美沙は、パアッと表情がさらに明るくなる。
こんなに食いつくと思わなかった。
「なになになにっ。もっと詳しく!」
はむっと用意していたご飯を頬張る美沙。
今の説明で飯を食うなよっ。からあげよりベストマッチなのかこの話は。
「一緒に夕飯作って」
「うんうん」
「同じ風呂に順番に入って」
「そりゃ一緒に入らないでしょ」
「一緒の布団で寝た」
「凪の親やるねっ」
「こっちは気遣って大変だったんだよ! 初対面の相手と一夜を共にして」
「あー、それもそっか」
「とか言いつつ、ドキドキしてたくせに秒で寝たけど」
「はははっ。凪らしいね」
「どういう意味だっ」
とぼけて美沙はそっぽを向いた。
だいたいこんなこと早々無いんだから俺らしいとかおかしいから。
「おーい、凪ー!」
心の中で突っ込んでいたら新川が手を振りこっちに向かって走ってきていた。
察するに良いことを言いに来たのかもしれない。
表情というかオーラ? が柔らかい気がする。
「……はぁ……はぁ……」
花咲と美沙が座っているベンチに到着するなり、肩で息をしている新川。
こいつが走ってくるなんてあまりないけど。
いつもはのんびりというかマイペース。
「うるせぇぞ、明。恥ずかしいから人のこと大声で呼ぶな」
「はぁ……はぁ……。今はそんなこと……捨ててる」
「いや、日本語おかしくねぇか?」
「と、とにかく。話しを……聞いてくれ」
「お、おう」
「マスターアイドル……ゲーム。三作同時発売、決定!」
「なに!? 何月っ」
「三ヶ月後!」
「おし、バイトする!」
そう二人に宣言し、花咲は美沙が試食したところを躊躇なくかぶりついた。
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