第16話「告白ってこんなスピーディっ?」
――ということで、時は来た。今日は美沙の面接の日。
普段あまり緊張してる風に見えないながらもさすがにソワソワしている。
「落ち着かねぇな」
「だって面接だよっ」
「だからってウロチョコすることないだろ」
「凪はどうだったの?」
「俺のときはアバウトだったかな」
「羨ましいっ」
面接会場近くの公園のベンチでこの一連のやり取りをしてるもんだから隣にある屋根付きベンチにいる若い奥さんに写真を撮られている。
硬いことを言えば一般人を勝手に撮るのは肖像権の侵害なのだが、裁判を起こすほどお金がないので諦める。
「あ〜、もう十分前っ」
「頑張れ!」
「ありがと。……すぅ……はぁ……」
深呼吸をしながらバイト先となるであろう建物に向かう美沙。
正直アルバイトの面接は挨拶・対応力重視だと思うから。
極端に切り返しが出来ない限り合格出来ると思うんだよね。
本人には言わなかったけど。
さて、男子高校生が一人公園に取り残されましたけど。
なにをしてたら正解なんだろうね。絶妙に中途半端な時間の十六時四十分。
さっきの若い奥さんプラス赤ちゃんは帰ったからそこで横になる手もある。
ガチ寝しそうなんだよな。……ま、いっか。
靴を脱ぎ、ベンチに体を預ける。
うわ、気持ちいい。これは、寝てしまう。
美沙に目覚まし代わりになってもらいますかね。
そう勝手に決めて花咲は目を閉じた。
――なんか世界が揺れている。凄いゆっくり揺れている。
二の腕部分に誰かの手が触れてる気がす……あ、そうだった!
目を慌てて開くと、真っ暗でシルエットというか体の線のみがぼんやりと認識できた。
恐らく美沙だと思う。
鼻を刺激する臭い的に美沙しか考えられない。
「美沙?」
「あと誰がいるの」
「だよな。んで、どうだった?」
「即日合格だった」
「良かったな」
「ホント良かったよ……」
「じゃあ、帰るか」
今日の夕飯はいつもよりもうまく感じそうだ。
体内時計的ななにかが空腹であることを知らせてくる。
花先がお腹を押さえながら立ち上がると、美沙が「ちょっと待って」と制止し、「お礼ラノベでもいいかな」と続けた。
「全然構わないけど、今じゃなくても良くね?」
「いや、忘れちゃうから」
「そこは覚えとけよ」
お礼すること忘れるとかホントにする気あんのかよと疑う案件である。
苦笑いを浮かべ突っ込む花咲に美沙は暗くて表情が見えずしょんぼりしてしまう。
「行くなら早く行こうぜ。あんまり遅いと絡まれるかもしれない」
「ありがとっ」
「こっちが奢ってもらうから礼言うんならあれだけど、そっちが礼言うのは違うでしょ」
「いいのいいの」
「いいならいいけど」
自転車を走らせること数分。エンターテイメントショップにやってきた。
一冊分タダで読めるっていうのは学生にとってありがたいものはない。
六百円〜七百円は結構痛手なのだ。
「さすがに全巻まとめ買いとかは止めてね」
「俺はそこまでクズじゃないから」
「……え?」
瞬きをパチパチと繰り返し、小首を傾げる美沙。
まるで花咲がクズであることに気づいてないかと言うような仕草に「なんでそこで聞き返す」と彼は美沙をジト目で見る。
「いやいや、なんでも。クズって気づいてないんだって思っただけ」
「……」
帰りましょう。言葉のストレートパンチを受けました。
「あー! ごめんっ。冗談冗談!」
「まったく……」
もの凄い力で引き戻される花咲は、引き戻した本人にぶつかる。
二の腕柔らかいな。半分わざとぶつかりにいったので、多分美沙は痛くないだろう。
「どれがいい?」
「気になってるのがあったんだよ」
「新刊?」
「新刊といえば新刊」
「あー、先月出たやつね。新刊のところにあるからいいんじゃない新刊で」
「そうだな。んじゃ、それでお願いします」
「了解であります」
敬礼をして見せ、レジへ踵を返す美沙を追いかける。
やっと飯が食えるぜ。
☆ ☆ ☆
今日はバイトが休みだった。六時間目が終わり、清掃タイム。
これを乗り切れば下校である。
まさか連休になるとは思ってもみなかったので、機嫌が浮ついてしまう。
朝掃除してしまえば楽なのに。
とか今は言ってるが、朝になったらなったで帰りに掃除した方がいいとボヤくんだろうな。
花咲が同じところでほうきを動かし、心ここにあらずになっているのを美沙が発見して脇腹をつついた。
「痛っ! なにすんだよっ」
「ちゃんと掃除してよっ。そこゴミ無いでしょ」
「あー、ごめんごめん」
「仕事増やさないでよね」
そう言って美沙は、ほうきを持ち片方の手を廊下側の壁につけた。
突っ込むべきか突っ込まないべきか。
……まぁ、突っ込まないのは可哀想か。
「お前も手動かせっ」
「チッ、バレたか」
「もう早く終わらせて帰ろうぜ」
「そうだな」
珍しく明に諭され、早々に掃除を切り上げ帰りのSHRを挟んで下校。
途中まで帰り道が同じの高林さんとまったく帰りの同じ美沙と共に通学路を逆走している。
前の信号が赤になり、自転車を止めると、ブレザーの裾を弱く引っ張られた。
「どうした高林さん」
「……好きです……付き合ってください……」
「えぇー!?」
聞こえてしまったか美沙が高林さんを大声を上げなら二度見した。
そりゃ驚くよ。なんか他人事のように思ってしまうが、なんて答えましょう。
正直高林さんと出逢ってまだ数ヶ月しか経ってないのに付き合うのは違うと思う。
あと、好きじゃないのにオーケーするのも高林に失礼な気がする。
「ごめん、高林さん」
「……コク……」
「えぇー!?」
「おい、美沙。さっきからえーえーうるさいぞ!」
「だって告白ってこんなスピーディっ?」
「いや、もうちょいかかると思うけど」
「でしょ? ていうか、高林さんもよくへいぜ――って、いないし!」
「やっぱりショックは受けてたのか」
「普通受けるからっ」
帰宅の都につく道中みっちりと告白してフラれてショックを受けない人なんていないことについて説かれまくった。
今日だけは高林さんが憎いっ!
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