第17話「マウントですか?」

 昼休みになり、弁当を持っていつものベンチに向かっていると後ろから足音が聞こえてきた。


「なんでついてくる」


 肩ごしに振り返り花咲は、新川に尋ねる。


 いつもなら教室で食べている明がついてくるので、怪しんている。

 こういう時はなにか良からぬことを考えてるに違いないのだ。


「今日は話すことがあるから」

「話すこと?」

「あまり教室で話すとかんばしくない」

「あ〜、アニメの話」

「そうアニメの話」

「稀に毛嫌いしてる人いるからな」


 そういう人は凄い視線を向けてくる。


 最悪口に出して拒絶をしてくるから困ってしまう。

 いるかいないか分からない以上けんめいな判断。


「自分がやってるゲームアプリもアニメ描いてる絵師さんと一緒なのに、これはこれとか言ってらち明かないし」


「そんな人はほっとけばいいんだよ」


 なにを言われるか分からないので、別々に行くことにしている美沙がこちらに気づいたようで目をパチパチとしている。

 明がいるので不思議そうな表情の美沙は「あれ、新川君。珍しいね」俺達が近づくとそう言った。


「凪に話があって」

「へぇ、そうなんだ」

「……」


 明に軽く会釈する高林さん。この二人はまだ距離があるな。

 いや、まぁ仲良くされても複雑だけど。


「アニメってどの話?」

「春クールアニメ」

「今季アニメか」

「それの撮り鉄がヒロインのアニメあっただろ?」

「あったようなないような」


 正直全部が全部見てるわけじゃないからうろ覚えである。

 自分が分かるから相手も知ってるでしょ的なノリは止めていただきたい。


「いや、あるわけ。そのアニメに登場するカーブが河古の田中の急カーブなんだよ」


「ふ、ふ〜ん」


「鈍い反応だな」


「気のせいじゃないか?」


「信じてないようだから映像見てもらおう」


「あ、いえ、結構で――」


「そう言わずに見てくださいよ」


 新川は自分のスマホを花咲の目前へと動かした。


 花咲の視界は画面でいっぱいになる。


 彼は気にする素振りを見せず「はいはい、分かりましたよ」と新川の腕を掴み、画面が見やすい位置へと動かした。


 なぜか美沙が近くに寄ってきた。どうやら気になるらしい。


『……まったく。土砂降りなのによくもまぁ待てるな』


『だって、ここに電車が来るから』


『そりゃ、終電でもないんだからダイヤ通り来るでしょうね』


『ほら、もうすぐ来るよ』


『よく分かるな』


『架線が鳴いてる』


『鳥が鳴いてるんじゃないのか?』


『耳掃除した方がいいんじゃない』


『昨日したからっ』


『しっ。気が散る。黙ってて』


『お前から話しかけてきたんだろ』


『……』


 なにか言ったような。電車の走行音に掻き消されて分からなかった。


『ホントに来たよ……』


「え、お、終わり!?」と、中途半端なところでスマホをしまう明に美沙が驚がくしている。

 見せといてそれはあんまりである。


「続きはアプリで」

「いつからアプリ側の人間になったんだよ」


 慣れを感じたぞ、慣れを。

 さては、そのアプリ紹介したら〇〇プレゼントとかやってるんじゃなかろうか。


「なった覚えない。つか、本題から逸れてるし」

「本題?」


 俺としたことが見当違いだった。

 いやに真剣な表情の明にちょっとだけ罪悪感。


「俺が見せたのは、このカーブ見に行こうって意味。アプリ側の一味とかではまったくない」


「カーブ?」


「んで、次の休み行ってみないか?」


「まぁいいぞ。どうせ暇だし」


 なんか俺の疑問はスルーされたけど、この際どうでもいい。

 用件はどうやら済むようだし。


「ドタキャン無しだからな」

「しないけど」

「じゃあ、そんなわけで俺はこれで」

「五時間目遅刻すんなよ」

「凪じゃないから平気」

「俺は一度も遅刻したことないっ」

「それは素晴らしい。マウントですか?」

「投げかけといて行っちゃったね」


 新川の背中を眺め、美沙が紙カップの野菜ジュースを吸う。

 ベンチの背もたれに背中を預け、花咲は「やっと飯食える」と嘆息して彼女に応えた。


「ねぇ、凪。さっきの続き観たい」

「いや、観たいと言われても……」


 今さっき飯食えるって安堵してみせたばかりというのに。

 この子は空気が読めないのかな……。


「今日バイト休みだよね?」

「休みだよね?」

「……休み……」

「じゃあ、凪の家で鑑賞会ね」


 一応空気は読めたらしい。

 ただアプリで観た内容だけで続きが気になるほどだったかと言えばそうでもなかった。


「そこまで観たいか?」


「あそこ観たら前後どうなってるのか気になるでしょ」


「気になる」


「別に構わないけど」


 多数決で負けているので許可を出さざるを得ない。

 断る理由が特別無いのがまた悲しい。


「すっぽかすの無しね」

「すっぽかしたくても自分ん家だから」

「すっぽかすつもりだったの?」

「例えばの話」


 もったいぶって話を優先したのは甘えだろとノドまででかけていた花咲は、自分の弁当にから揚げが入っていたため飲み込んだ。



 ☆ ☆ ☆



 アニメを観る時間的に夕飯は俺ん家で食べる話になったので、現在スーパー。


「この時間になると値引き第一弾が開始されるよね」


 カートにカゴをセットし、花咲が誰に言ってるのかと美咲の隣に並ぶと彼女が目配せをしてきた。

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