第98話「嫌な予感がしてならない」

「ていうか、落ち葉拾いってやる意味あるのかな?」


 これ以上友達の話をしたくなかったので、話題を変える。

 上からまた落ちてくるのに掃くのはあまりに無駄だと思うんだけど。


「正直言ったら必要ないと思う。でも、校内美化の一環だから」

「ですよね〜。にしても、焼き芋食いたくなるな」

「お腹減ってるの?」

「まぁ割と」

「あと少しだから頑張れ」

「その後少しが長いんだよ」

「う〜ん……。どんまい」

「美野里さんはよく頑張れるな」

「実は半分適当だったり」


 舌をチロっと出し、おどけてみせる。

 まぁ、まともにやってたら気が滅入ってしまう。


「ところで、さっき焼きいも食べたくなるって言ってたよね」

「言った」

「ウチのスーパーの焼きいもいかが?」

「ちゃっかり……」

「えへへ。でも、美味しいのは本当」

「いや、疑ってはないよ」

「今度の休み一緒に食べない?」

「……木曜は平気だと思う」

「じゃあ、木曜の放課後ウチのスーパー行こう」

「オッケー」


 美野里さんは、断らせない達人か?


 ――時は巡って、木曜日。

 焼きいもを購入し、イートインスペース。



「ここで食べるの?」

「うん、暖かいし」

「美野里さんが良いなら良いんだけどさ」

「冷めないうちに食べよ」

「お、おう」


 めっちゃ他の店員が見てきてるけど。

 気にしすぎか? 美野里さんは売り場とは逆を向いてるし。


「ここ学校から離れてるから大丈夫だよ」

「そ、そうだな」


 そのことを気にしてるわけじゃないって!

 素で言ってるのか、この人は。


「はい、半分」

「サンキュ。お、蜜が凄いっ」


 めちゃくちゃ輝いてる。


「でしょ? ウチのスーパー美味しいって評判なの」

「これは、評判になるのも頷けるよ」

「あざーす」


 別に美野里さんを褒めたわけじゃない。

 久々に焼きいも食ったけど、やっぱり美味いな。

 残り数口。そろそろ帰宅を催促しよう。


「食べ終わったらどうする?」

「逆にどうする?」

「お開きかな」

「りょーかい」

「最近暗いし送っていくよ」

「優しいね」


 もっと遊びたかったか、美野里さんは眉を八の字にしている。

 すまん、美野里さん。休日は休むためにあるんだ。



 ☆ ☆ ☆



 紅葉撮影当日。

 高林さん父の車の後部座席。


「……この間……」


 紅葉の凄いところまで走行中高林さんが口を開いた。


「この間がどうかした?」

「……コク……。……スーパーで……美野里さんと……いた……デート……?」


 珍しくアクセントのある言葉だった。

 もしかして怒ってる?


「違う違う。あれは、焼きいも食ってけって言われて食べてた」

「……あのスーパー……美味しい……」

「浸透してんだな。やっぱり」

「……コク……」


 怒ってるような感じはどうやら気のせいだったのかもしれない。


 ――揺られながら撮影場所へ到着。


「まず背中合わせに立ってもらって」

「はい」


 依頼主の通りに高林さんと背中を合わせる。

 温かい。くっついて取れなくならないかな……。


「お、いいですねっ。……次は手を繋いでもらって」

「えっ。分かりました」

「……冷たい……」

「ごめん……。高林さん?」


 恋人繋ぎにしてきた。

 高林さんの温もりをより感じる。


「いいねいいねっ。ハグもいきましょ!」

「……これも……仕事……」

「それは、そうだけど。高林さんはいいのか?」

「……大丈夫……」

「そ、そうか」


 手を離し、向き合ってハグ。

 心なしか回した腕に力がこもっている。


「痛かったら言ってな」

「……丁度いい……」


 こっちも丁度良い感じに高林さんの胸が当たっている。

 普段の行いを神は見ているらしい。


 ――帰宅中高林さんがどこか機嫌良さげに見えた。

 長くいると微細な変化にも気づくようになるのかな。


「修学旅行があるって本当ですか?」


 実は昨日『……そろそろ……修学旅行……』と、帰宅の都につく道中高林さんに教えられた。

 積立金払ってるんだからウチのクラスだけ行きはぐるなんて無しにしてほしいのだが。


「……本当」

「忘れてました?」

「まさかそんなわけ無いだろ。言いがかりだって」

「そうですか」

「基本自由行動オッケーだから。一週間後な」

「先生お菓子はいくらまでですか?」

「好きなだけ」

「アタリメはおやつに入りますか?」

「人それぞれっ」


 酒飲む気かよ!

 あとアタリメって臭いこもるんだぞ。

 酔ったらどうしてくれるんだ。


 ――衝撃の事実が判明し、準備どうするかと悩んでいたら放課後になっていた。


[明:今度の休みお菓子買いに行こうぜ]

[紗衣:お菓子?]

[明:修学旅行があるんだよ]

[紗衣:あ、そうなんだ]


 キラーンと光るスタンプもセット。

 嫌な予感がしてならない。


[美沙:私も行く]

[莉音奈:あたしも行く]

[美沙:凪? 見てるのは分かってるよ]


 怖いな……。

 ギョロっと目のでかいスタンプを貼ってきた。

 ていうか、既読がつくんだから見てる見てないは分かって当然だろ。


[花咲:行くよ。みんな送るの早くてさ]

[美沙:おじさんかっ]

[花咲:やかましい]


 ん? 個人メッセに新着を知らせる赤丸がついていた。

 お察しお察しですわ。

 流れ的に紗衣ちゃんだろう。


[紗衣:お察しかと思いますが、デートしてください]

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