第97話「幼なじみだからってプライバシーを侵害してもいいわけではない」

 舌なめずりをし、ソースを取る美野里さん。

 ヤバい、口元に視線がいってしまうっ。

 なんとか我慢し、次の場所。居酒屋もどき。


「なんかレトロな感じ」

「ここ先生達がやってるところだって」

「どおりで大人が多い」


 保護者が集まっているのか先生達が集まっているのか、大人がいっぱいいる。

 入ったらマズかったかな。酒の臭いがする。


「なに食う?」

「う〜ん、もつ煮込みは?」

「お、いいね」

「それ定食もいけるよ」


 近くにいた店員が首を挟んできた。

 商売上手だな。


「どうする?」

「お願いしちゃお」

「オッケー。お願いします」

「もつ煮定食が二つで」


 程なくして到着。やけに本格的だ。

 しっかり煮込まれている様子。


「いい臭いだね」

「さっきお好み焼き食べたのに腹減った」

「あ、ごめん。それはない」

「え〜……」

「ぷふっ……。冗談だよ、食欲そそるね」

「もう……」


 わざと肩を落としてやる。

 なにが面白いのか説明してもらいたいもんだ。


「そういえば、ホルモン食べられる?」

「いや、苦手」

「なんで?」


「飲み込んでいいタイミングがよく分からない」

「やっぱりみんなそうなんだ」

「美野里さんは、いけるのか?」

「もち、私も無理だよ」

「食べ終わったらどこ行く?」


 はい、スルー。じゃあ、なんでもつ煮頼むなんて言い出す。

 人のこと言えないけど。


「スイーツ」

「いっぱいあるけど」

「クレープ屋さん」

「お、いいね」

「おー、カップルか?」

「いや、違います。行こう美野里さん」

「……うん」


 もう少しで酔っ払いに絡まれるところをすんでのところで回避。

 場所をクレープ屋に移した。


「甘いものってお腹いっぱいでも食べられちゃうね」

「別腹だよ」

「花咲君は甘いの好きなの?」

「大好きとまではいかないけど好き」

「やっぱりそうなんだ」

「やっぱり?」

「幸せそうに食べてたから」

「マジか。自分では出してないつもりだったんだけど」


 ていうか、なにを見てるよ。急に身体が熱くなってきた。


「だだ漏れでした」

「だだ漏れか……」

「別にダメなことじゃないじゃん」

「そうか?」

「そうそう。あ、もう終わりの時間」


 時計を見て、美野里さんが悲しさを混ぜた声色でそう言ってきた。

 大人達がいつ会えるかどうかを約束しながら教室を出ていく。


「文化祭だから終わるの早いんだっけ」

「今度美味しいスイーツ食べに行こうね」

「おう。……はむ」

「ハムスターかっ」


 残りのクレープを口に突っ込んだら、芸人顔負けの突っ込み。

 だって時間だもん。早く帰りたいじゃん。


 ――後片付けが終わり、自宅までの帰り道。


「……」

「……」

「……」

「……」


 なんか空気がピリピリしている。

 やり過ごそうと俺がしらばっくれていたら、「はい、ストップ」と明との分かれ道で美沙が待ったをかけた。


「……」

「今日ばかりは新川妹と意見が同じ」

「珍しいな」

「誰のせいっ」

「……え、俺のせい?」


 てっきり明のせいかと思った。……なぜ?


「そうだよ。どうして来てくれなかったの?」

「右に同じです」

「どうしてって、美野里さんと周ってたからだよ」

「別に一緒に来れば良かったじゃん」

「ふ、二人は付き合ってるんですか?」


 聞きたくないけど、聞きたいと言わんばかりの表情で問うてきた。

 しつこいな……。


「いや、全然」

「まさかの即答」


 今度は驚いた顔。忙しいな、相変わらず。


「ていうかさ、もう美野里さんも友達の一種なんだから。隠す意味ないよ」

「……小堀さんの……言うとおり……」


 その前に友達の一種ってなに?

 しかも、高林さんもそれに同意するの。


「逆に凪が美野里さんのこと意識してるんじゃない?」

「間違ってもそれはない」

「へぇ、好きな人でもいるの?」

「ノーコメントで」

「その答えは、肯定にも取れ――「さぁ、帰るよ」


 自転車を走らせる。美沙さんマジ女神!


「ちょ、気になって今日寝不足になっちゃいます」

「大丈夫。今日は寝れるよ」


 空気の読める幼なじみでありがたい。

 帰り道の異なる紗衣ちゃんに帰宅を促し、俺達は帰路についた。



 ☆ ☆ ☆



 秋が深まってきた。

 町の街路樹も赤くなり、前々から言われていた依頼が近いのではと高林さんにメッセ。

 程なくして返答が来た。


[莉音奈:今度の土日]

[莉音奈:行く。空けておいて]

[花咲:了解]


 スマホの画面を見ていたら、リビングの窓の外でなにやら動くのが目に入る。

 美沙か。親がうるさいから気づかれる前に家への侵入を防ぐべく外へ出た。


「良く分かったね」

「外見えるから」

「そこは、ウソでも臭いで分かったからとか欲しい」


 俺は犬かよ。美沙の残念なところだ。そういう要望は彼氏にすべき。


「はいはい。ところでちょっといいか?」

「流すの止めてくださらない。なに?」

「今度の土日先約あるから家空けるけど、勝手に入って家探しするなよ?」

「許可取ればいいんだ」

「入らないでくれ頼むから」

「頼まれちゃしょうがない」


 うんうん頷く美沙。これは、聞いちゃいないな。

 鍵でもかけておこう。幼なじみだからってプライバシーを侵害してもいいわけではない。


 ――今日は、朝から校内美化で落ち葉拾いをすることになった。


「一緒に集めよぅ」


 やっぱり来た。嫌な気分ではないが、いつも俺のところにやってくるのは良くないだろ。


「おぅ。でも、いいのか?」

「なにが?」

「友達とやらなくていいのかなって」

「大丈夫大丈夫。今やらないからって関係が崩れる仲じゃないから」

「親友ってことか」

「そういう感じ」


 その親友は一人じゃないのかな?

 あ、俺と違ってみんな一人だけしか親友いないわけないか。

 いけないいけない。悲しくなってきたかも……。

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