第48話「耐性がなさすぎるっ」
なにが大丈夫だよ。海老の天ぷらが旨いから今日は大目に見ておくけど。
年越しそばを年をまたがず堪能し、本当に年を超えて味わってぬくぬくしたあとみんなと約束をこじつけた初詣会場へ足を運んだ。
日付が変わったばかりで人だかりができている。なにやってんだみんなして。
こうやって周りが何かをしてる中一組だけ違う行動してると浮くんですけど。
「寝ちゃったかな」
「まぁ、普段なら夢の中のはずだから」
俺はこの時間深い眠りについている。
なんでも十二時を超えると成長ホルモンが出ないとかなんとか番組のコーナーで取り上げられてた。
「ホッカイロ持ってない?」
「寒いのか」
「手がかじかんだ」
「しょうがないな。持ってない」
「持ってないんかいっ」
人が大勢いるといえど、みんな声はあまり大きくは出していない。
夜中とは思えない大声に周囲からエラい視線。
写メだけは撮らないでほしいね。
「そ、そういえば凪の手って温かかったよね?」
「雨の日なんかは湯気出るな」
「おー! じゃあ、ポケットに一緒に手突っ込んでればぬくいかな」
「ぬくいだろうけど、誤解されること必至よ?」
「別に普通じゃない? 最近は付き合ってなくてもこういうことするらしいし」
「好き同士じゃなくても?」
「イエス・アイ・ドゥ」
ホントか? 絶対好きなのに関係崩したくなくてそういうことにしてるだけだろ。
ただね寒いのね……。
「美沙がいいなら俺は別に構わないけど」
「じゃあ、遠慮なく。おおー、温かい」
手を突っ込んでくる。冷たっ。
冷え切っていらっしゃる。
「冷たい手だな。ホッカイロで温めてればいいんだよ」
「そろそろ来てもおかしくない時間だよね?」
地味に話のキャッチボールが出来てないよな。
もう片方の手でスマホを見る美沙。
「呼んでパッと来れる時間じゃないからな」
「来年は事前にいっておくよ」
ジャリ……。近距離でなにかが砂利をかむ音。
そこへ視線を移すと重装備の明がいた。
「あけおめことよろ」
「ことよろ〜。紗衣氏よろ」
「雑ですねっ」
「まぁまぁ、まだ夜中だし近隣の人に迷惑になるから」
「すみません……」
俺と美沙はすでに迷惑をかけてしまったからなんとも言えないけど。
とここで高林さんと目が合った。
「……あけまして……おめでとうございます……」
「おめでとうございます」
「ことよろ」
ペコリと頭を下げる高林さん。かわいいな相変わらず。
大きな瞳に吸い込まれそうになって目をそらす。
マフラーもまたそれを強調させてる要因だな。
「あけおめ。マフラー暖かそうだな」
「……コク……」
「あけおめ〜。高林さん」
「……コク……」
「というわけで、全員揃ったわけで――
「ちょっと待ってください」
紗衣ちゃんが美沙の言葉を遮ってなにやら慌ててる様子。
はてさてなにがそんなに紗衣ちゃんを取乱させるやら。
「なに紗衣氏?」
「花咲君のポケットに小堀さんの手が入ってるんですけどっ」
「あっ……」
物でも落としかのような落ち着きぶりに「え、なんですかその反応」と紗衣ちゃんは美沙に牙を向いた。
ゆっくりとポケットから手を出す花咲達に新川が紗衣から小突かれて問いかける。
「本当に付き合ってないんだよな?」
「付き合ってないから。手が寒かったの」
「だからってポケット突っ込みます?」
何言ってんのこの人というように紗衣ちゃんは自分のこめかみあたりをポリポリ。
実際にそうしていたのだからそうなのである。
早く温まりたいのも相まって紗衣ちゃんに少しイラ立ちを覚えてならない。
「最近は付き合ってなくてもこういうことするんじゃないのか?」
「……する……」
「しますけど、こんな見えてはしないです。多分」
話が違うじゃないか。
花咲は「美沙さん?」とウソをついた張本人に身体を向ける。
「さぁ、お参りしておしるこもらいに行こうかな」
華麗にスルーっ。歩いていく背中を追ってやろうじゃないか!
凄く恥ずかしかったんだからなっ。
――あのあと問い詰めたけどあしらわれてしまった。
おしるこを食ったあと即解散。したが美沙となぜか高林さんは残ってくれている。
「ちょっと眠い」
「ちょっと?」
なんだかんだ言って寝てないんだよ。
しかも、今は餅を作るイベント(自宅にて)の真っ最中。
毎年俺と美沙で餅をこねあげている。
「……すぅ……」
美沙の発言に突然耳の調子が悪くなって聞き返してまもなく。
寝息が隣から聞こえてきた。
下はアスファルトよっ!
「高林さん! 立ったまま寝たら危ないよっ」
「……コク……」
「もち米がもう少しで炊きあがるから」
「……コク……」
「我慢できなかったら俺に捕まって寝てもいいからな」
「……大丈夫……」
「そ、そうか」
あー、メンタルが。
花咲がショックを受けているのが分かりやすかったのか美沙がそっぽを向いて肩を震わせる。
「お、もち米きた」
「ホントだ。凪しゃもじ準備して」
美沙のやつバレてないと思ってんな。
さも平静を装ってる。
「はいよ。熱いから気をつけろよ」
「大丈夫慣れたから」
仕方ない。今日はあえてスルーするか。
粒状態のもち米を餅つき機に入れることしばし。
しゃもじと少しの水の調整でコロコロクルクル回るもち米。形がなくなり丸い物体が不規則に動く。
「……お餅……凄いね……」
「機械でこんなに丸くなるなんてびっくりだよな」
「……コク……」
「そろそろひっくり返すよ」
「オッケー。せーの」
二家族の中で息の合うのが美沙。
本当は男同士でひっくり返すこの作業だが、親父連中はてんでダメだった。
何回餅をアスファルトさんに食べさせたことか。
「お、今年はいい感じに仕上がったんじゃない?」
「もち米が残ってない感じはする」
「……息ピッタリ……」
高林さんがいつものように平坦な口調でそう言った。
素直な感想なのだろうができれば言わないでほしかったね。
「ホント夫婦みたいよね」
ほら変なこと言い出した。
なにかとありゃ美沙と俺を結びつける。
「幼なじみってそんな感じだろ。一緒の時間長いし」
「な、凪丸めて。きなこ・大根おろし・あんこ・納豆あるから均等にお願いします」
美沙のやつ毎回口ごもるんだよな。
こういう話に耐性がなさすぎる。
だからババァが面白がってちょっかい出してくるんだよ。
「了解」
「……手伝う……」
「ありがとう」
「この丸めるやつ泥を丸めて泥団子作ったの思い出すわ」
「あー、やったやった。食べるふりみんなしてるのに誰かマジで食べちゃったりしてな」
「うんうん。懐かしい」
黙々と作業俺向いてるかもしれない。
今のバイトもやりがい感じるけど。
ブブッ。やめてよこのタイミング。
めちゃくちゃ手が汚れてるんですけど。
「……タオル……」
「さ、サンキュ」
「誰誰? ねぇ女?」
「なんでそんな目が怖いんだよ」
「いや、アニメでこういうキャラいたなって」
「いるけどやめて?」
「怖かった? 怖かった?」
「そりゃ怖いよ」
「よしっ」
「よしじゃねぇよ」
花咲はガッツポーズする美沙に突っ込みスマホに視線を落とす。
[紗衣:今日どこか出かけたいです]
[花咲:ちゃんと寝たか?]
[紗衣:はい、寝ました。大丈夫ですか?]
[花咲:大丈夫。どこ集合?]
[紗衣:温水プール施設で大丈夫です?]
[花咲:了解]
スマホをしまってため息。
夜中あったばかりなのに、出かけるってどんだけアクティブなんだよ。
「紗衣氏? 紗衣氏?」
「そう紗衣氏」
「お正月早々感心するね」
「美沙もついてくるか?」
「え、なんで?」
「ちょっと間接的に親友の妹ととしか見てないアピールしたい」
「別にいいけど、嫌がられる分対価は後でしっかりもらうから」
「分かった」
交換条件を呑み紗衣氏のところへ。
とその前に高林さんを送り届ける。
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