第65話「……勘……」
「……ケガ……」
「お、おう」
「……顔ケガしてる……」
「マジか」
莉音奈の指摘に上体を起こしその場に座る。身体が痛くないのヤバくね?
「……コロコロ……転がってたから……」
「一部始終見てた感じ?」
「……コク……」
トリプルで最悪だわ……。そんなミラクルありかよ。
「……たまたま……通りかかった……」
高林さんで良かった。他の奴らだったらとんだ笑い物になっていることだろう。
しかも、車で来ていた。ちょっと乗せてもらいたいな……。
俺の愛車も連れてくれると嬉しい。
「……乗る? ……多分自転車も……大丈夫……」
「いや、言っても自転車前輪がやられてるよ?」
やんわり断られてる?! ここは一つ情に訴えましょう。
俺は、自分史上最も目をうるうるさせ「お願いします」と懇願した。
「愛着わいてるのね」
「はい……。いてて」
「オッケー」
「ありがとうございます」
ふぅ……。これで大変な思いせずに帰れ……いや、我が家に帰るのは今日は得策じゃないかも。
高林さん家に泊めてもらおう。
「あの、今日泊めてもらえないですか」
「……なんで?」
ルームミラーでこっちを見る高林さんのお母さんの目が鋭くなった。
そうだよな。い、一応ダメ元で理由を言ってみるか。
「友達のキスシーンを見てしまってこのまま帰ってどこかで合うのが耐えられないんです」
「あー、そういうこと。まぁ、断るつもりはなかったけど」
「あ、ありがとうございます」
あの眼光の鋭さは一体なんだったのか。
許可してくれなさそうなそれだったはず。
理由が高林さんのお母さんの心を動かしたとか?
「……転がった理由? ……」
「たまたま見ちゃって」
「……そう……」
――土手を離れ、高林家。
自転車を車から下ろし、花咲は莉音奈と共に高林家の敷居をまたいだ。
「泊まるのはいいが、変なことしたら分かってるだろうな?」
事務所の奥に進んだら、高林さんのお父さんが牽制してきた。
変なこととは一体どういうことを差してるのか分かりきっているが、ネタで聞きたくなるのが高2男子の好奇心。
……抑えろ抑えろ。せっかく泊めてくれるのに自分の失言で水の泡だけはアホすぎる。
「はい、大丈夫です。なにもしません」
「なら良し」
良くはないだろ。俺がそう思うのは違うかもしれないけど。
父親感出すのか出さないのかはっきりしてほしい。
「……よるご飯……なに食べる? ……」
「泊めてもらうからおまかせします」
「……分かった……ハンバーグにする……」
さては、最初から決まってたな。高林さんの作ったハンバーグ。
今から楽しみだ。花咲がワクワクしていると、服を掴まれた。
「……材料……買いに行こう……」
「オッケー」
そういえばそうですよね。急に俺がお願いしたから。
なんか高林さんとプライベートで買い物行くってレアだね。
チャリが壊れていることから歩きでスーパー。遠い。
でも、嫌じゃない遠さ。高林さんと二人で歩くとか特別感あってヤバい。
「カゴ持つよ」
「……コク……」
「高林さんって料理上手いけどいつから料理やってるんだ?」
とかなんとか聞いたけど、カゴ持つときに手触れて答えが入ってくるか分からないっ。
冷たい手をしていた。あと柔らかかった。
手冷たい人は心が温かいって言うよね確か。胸がドキドキだよ!
「……上手くない……六歳から……」
「早いな〜」
「……花咲君も……上手い……」
「簡単なものしか作れないよ。あと上手くない」
「……豚と……とり……牛……どれ? ……」
牛肉がいいけど、人の家で作るのに高いの買うのも違う気がする。
……おし、豚肉にしよう。
「豚肉にしよう」
「……コク……」
「あと泊めてもらえるお礼になにかデザート選んでくれ」
「……いいの? ……」
「もちろん。好きなの選んでいいぞ」
人数分のひき肉をかごに入れ、デザートコーナー。
ここのスーパーは、デザートの品揃えが豊富。高林さんは、ジーとそれを眺めている。
いちいち可愛いな。無表情なのになんでこんなに可愛いのか。
「……モンブラン……」
「美味しいよな。モンブラン」
「……コク……」
デザートが決まり、買い物を終えた俺達は、高林家に舞い戻る。
高林父が高林さんのエプロン姿に父の顔をした。
邪魔しちゃ悪いからキッチンの奥にいよう。
「……油ひいて……火をつけて……」
「分かった」
「……熱されたら……タネ入れる……」
パタパタ成形しながら指示を出してくる。
なんか同棲してるみたい。ドキドキしてきたっ。
「そろそろいいと思う」
「……コク……」
ジューといい音に食欲をそそられる。
どんどん入れていく高林さん。
え、こんなに入れたら忙しいっす!
「……あたしも……確認する……」
「良かった。一人じゃこれ焦がすぜ」
「……近く寄る……」
「お、オッケー」
「……他意はない……」
改まってそう言われると少し傷つく。
触ろうと思えば触れる距離なのに触れないってもどかしい。
絶妙に身体が触れ合わないって凄くない?
「……ソース……どうする? ……」
「お任せします」
「……コク……」
頷くと、高林さんはハンバーグを皿に持っていった上で冷蔵庫でなにやらなにかを取り出して戻ってきた。
「便利アイテムっ」
それは、市販のハンバーグソース。これがまた美味しいのなんの。
ケチャップとソースのかけ合わせをいけるけど。
「……コク……。美味しい」
「ご飯進むよ」
「……いっぱい食べて……」
「程々にしておく」
前科があるからセーブしとかないとあとが大変。
――とかなんとか思ったのに、ハンバーグが美味すぎて食べすぎちゃった。
ご相伴に預かった風呂から出て、高林さんの部屋に入ると、美沙で経験した良い香りに胸の高鳴りが止まらない。
「……? ……」
「ちょっとな色々あって」
入り口で固まった花咲に首を傾げてみせる莉音奈。
それに、なんとかそれっぽく答える彼は部屋の中央へ歩む。
「……スマホ……鳴ってた……」
「サンキュー」
「……小堀さん……」
「バックに入ってるのになんでわかるの?」「……勘……」
「あ、はーい」
一瞬そういう能力を持ってるのかと思ってしまった。
そりゃそうですよね。分かるわけがないのよ。
[美沙:質問していい?]
[花咲:なんだよ改まって]
[美沙:部屋に行ったら真っ暗だったからなんでかなと思って]
[花咲:ちょっとバイトで]
[美沙:へぇ、そうなんだ]
[花咲:ごめんな]
[美沙:じゃまた今度ね]
胸が締つけられる。ウソをつくのってこんなに体力を要するのか。
「……」
「どうした?」
「……つらいこと? ……」
「大丈夫。自爆だから」
「……コク……」
隣に座る莉音奈に花咲は、今のことを話そうとしたが抽象的な言い方で留めた。
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