第37話「男女がどこか出かけるならそれはデートです」
「兄妹ってこんなもんだって」
「はい、そうですか」
語気を強め、花咲はあからさまに怒りをあらわにする。
しかし、声を大にする人が珍しいスーパーでは視線を集めてしまい彼は一点を見て周りの目を気にしないように卵を取った。
「卵は家にあるぞ」
「さっきも言ったろ。人の家の物は使わないって」
「真面目だな、もう」
「真面目とか不真面目とかそういうことじゃないから」
「分かった分かった」
「明から言い出したんだろ」
「そうだっけ?」
とぼける明に呆れつつ自分の買い物をして新川宅へ帰還。
じゃんけんをして二番手に調理をすることになったので明の姿をただ見ているのだが、出来ないように見えて実は出来る明に不安を抱かずにはいられない。
「普段からやってるのか?」
「人並み程度には」
「マジか」
「意外ってよく言われる。ていうか、調理実習のときやってるの見てたろ」
「あのときはほぼなにもしてない」
「よく見てるな〜」
「親友なもので」
「……ぽ」
新川は手を顔の前に覆ってみせる。
恥ずかしいのはこっちなんですけど。
あと妹が兄を見る表情の限界超えてるのは触れてやるべき?
うん、止めておこう。触れないほうがいいときがあるよね。
「いいから早く作れよ」
「料理は焦ったらダメ」
「はいはい、キモ」
あー、キチぃ。
俺が現実を教えてやらなくてもむしろそれ以上の辛辣な妹の言葉によってショックを受けている。
キモいって単語って破壊力あるな。
「ピーマンにニンジンキャベツ……。焼きそばか?」
「正解。シンプルが故に味が出る」
「市販のソースと麺使ってか?」
「ノンノン。隠し味だよ花咲どの」
「あ〜、そういうことね」
人差し指を揺らし、サムライのような口調。
言い方がウザい。だから紗衣ちゃんからキモいって言われるんだよ。
ノンノンが最高に腹が立つ。
「よし出来た」
「おぉ〜」
茶色い麺を皿に盛っていく。
キッチンで作られるさまを見るのってなんでお腹減ってくるんだろう。
人数分盛った後リビングに戻って箸をとり、麺をすすった。
……。鼻を抜けるソースの香り。
フルーティーだが、市販のものだから評価をしていものか疑問なんですけど。
ていうか、隠し味は?
「美味い」
「そうですね。美味しい」
「だろっ」
「だけど、普通」
「ですね」
「ショック!」
新川は二人の評価を受け、額に手をあて天を仰ぐ。
そしてすぐ自分で作った焼きそばを食べてうなだれた。
そっとしておきましょう。
「さて、俺も作るか」
「お願いします」
「う、うん」
視線を頭頂部に感じるっ。
明には悪いことをしてしまったかもしれない。
見られながら料理するってこんなにやりづらいとは。
――結局調理が終了するまでずっと見られていた。
ラーメン屋さんのように盛りつけをして、レンゲを添えて明と紗衣ちゃんの前へ持っていく。
「出来たぞ」
「わ〜い、チャーハンですね」
「オイスターソースを入れるとはな」
「隠し味が隠し味になってないけど」
ホントにたまごを炒るタイミングから出来上がりまで見られていたから本来なら見せないはずの隠し味投入シーンを大公開していた。
隠し味って内緒にして当ててもらうのがセオリーではないの?
「こういう時のあるあるだんしょ」
「あるあるです」
「そうか」
兄妹意見一致するタイミングここじゃなくてもいいじゃん。
不満そうな花咲をスルーし、彼が作ったチャーハンを口に入れる。
「「……っ……」」
なんかシンクロして顔を合わせたよ、この兄妹。
マズいってくるのはほぼないとは思うけど。
「なんか美味いっ」
「これは、最高です」
「おう、マジか」
今日が初挑戦ということは伏せておく。
騒がれるのが目に見えている。
自分でも食べてみますかね。
……おー。オイスターソースアリだね。
レパートリーに入れておこう。
「というわけで、勝者花咲君。もれなくあたしとデート権がついてきます」
「辞退は可能?」
「凪。行ってやってくれ」
「最初から出かけたいって言えばいいのに」
「それだとなんかつまらないじゃないですか。あと丁度お昼でしたし」
「なにが丁度なの?」
「と、とにかくデート行きたいです」
「そのデートってどうにかならない?」
「男女がどこか出かけるならそれはデートです」
「決まってるのか」
「決まってませんっ」
自信ありげに言うもんだから世間でもそうなのかと思ったら違ったらしい。
かぶりを振りそれでいて自信のある表情をしていた。
行動と言葉が相反してるんですけど。
「減るもんじゃなか」
「行かないとは言ってない」
「え、辞退するって言ってませんでした?」
「あ、この件はなかったこ――」
「すぅみません。どこ行きます?」
図星をつかれ花咲は、紗衣に破談の意志を頭を下げて伝えようとして彼女に遮られた。
チッ。逃げ道は完全に絶たれたようだ。
「まったく……。近場にしてもらえると助かる」
「じゃあ、化石博物館ですね」
「え、興味あるの?」
「ないです」
これまた素晴らしい笑顔。この子のこういうはっきりしたところ見習いたい。
「別のところ行こうぜ」
「花咲君が良ければ」
「俺は全然大丈夫だけど」
「どこ行きますか?」
「この時間だと動物公園がいいじゃないか?」
「お兄ちゃんには聞いてない」
「……」
提案をしただけなのに突っぱねれ明はショックを色濃く出しながら焼きそばをすする。
かわいそうに。てか、こういうふうにあしらわれるの予見できなかったものか?
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