第38話「これはトップシークレット」

「どうします?」

「俺も動物公園賛成かな。時間的に」

「分かりました。行きましょう」


 ホントこの兄妹は仲良いよな。

 羨ましい。俺も妹欲しかった。

 バスに乗ってとある動物公園。


「暑いですね……」

「夏だからな」

「辛くなったら帰りましょう」

「紗衣ちゃんがそれでいいなら」

「大丈夫です」

「見たい動物は?」


 入り口でとったパンフレットを眺め花咲が問う。

 にしても、今日の日差しはジリジリ肌を焼きにきてる。

 やっぱり断われば良かった。


「やっぱトラです。あとミーヤキャット」

「そ、そうなのか?」


 紗衣の言葉ににわかにし難いという要素を持った首を傾げる動作をする花咲。

 マストでトラとはならないと思うけど。

 これは個人的なチョイスの領域なので口に出さないでおく。

 トラのところへ向かうと地面に腹をつけていた。

 大変だな、トラも。


「ありゃ」

「人間もトラも暑さには勝てないな」

「食物連鎖はトップに君臨しても自然は脅威ですよ」

「ま、そんなわけだからミーヤキャット見終わったら涼もう」

「そうですね」


 ものの数分で移動し、動き回るミーヤキャットをこれまた数分で可愛い可愛いと盛り上がって移動。

 そして今動物園に来て観覧車に乗っている。


「高いですね」

「地味に揺れてね?」

「怖いんですか?」

「俺ジェットコースターの方が怖い」

「あ〜、分かりますっ」


 とそんなことを話していたら、あっという間に地上に到着した。

 あれ、これえらい早く回ってる?

 さっき乗ったばかりだったはずなんですけど。

 暑い外を瞬時に離脱し、土産売り場。


「涼しい……」

「生き返ります」

「なに買うか」

「無理に買わなくていいんじゃないですか?」

「そうはいかないだろ」

「私はお土産は大丈夫なので今日出かけた記念にこのぬいぐるみを買ってください」


 棚から取って抱いたミーヤキャットのぬいぐるみ。

 そのやり口は卑怯。買わないわけにいかない。


「紗衣ちゃんがそれでいいなら」

「わーい、ありがとうございます」


 ぬいぐるみは買うとして土産屋を一周して見て周ってみた。

 なんでこんなに高いの? 紗衣ちゃんが土産諦めるの分かったかもしれない。



 ☆☆☆



 とあるジメジメの昼間。美沙からメッセが来た。

 拒否権など存在しない世界に迷い込んだのかと思うほどの圧。

 外で待ってると言われた。

 こんな暑い中ほったらかしにできない。


「暑いんだから中入ってれば良かったのに」

「理由つけてこないでしょ」


 襟を掴んでパタパタ。洗濯洗剤の匂いなのか香水の匂いなのか香ってくる。

 バレてる。あとブラひも見えてるしっ。

 わざとやってるのか?


「現地集合だっけ?」

「あ、話そらした」

「そらしたわけじゃないよ」

「はいはい。デパートの駐輪場で待ち合わせ。中々みんな揃うことないから半強制にしたの」


 自転車を走らせながら話をしてしばらくデパートに到着した。

 駐輪場にはすでに莉音奈と新川。

 こういうときは遅れないのかよ。


「ごめん、遅くなった」

「……大丈夫……遅くない」

「むしろまだ余裕あるよ」

「家が近いから先に着いちゃったっていう流れだわ」

「そうだよな明は」

「おいこら。どういう意味だ」

「先に着いてるなんてほぼないってこと」

「……おう」


 言い返す言葉が見つからず意気消沈の新川。

 なんかこっちが悪いみたいじゃん。


「みんな揃ったことだし、アクセサリーショップ行くよ」

「……コク……」

「身につけなくていいか?」

「なんだどういう意味だこら」

「他意はねぇよ」


 エレベーターに乗り二階。アクセショップに入ったところで新川が拒絶にも取りかねないことを言い出した。

 思わず食ってかかってしまったね。


「……彼女? ……」

「……う、うん……」

「やったじゃんっ」

「じゃあ、今後は色違いにしないとね」

「免除してやらないのかよ」

「だってハブってるみたいじゃん」


 どんだけ友情の証拠を残しておきたい。

 そういうので現さなくても崩れたりしないって。


「……ウサギ……可愛い……」

「ホントだっ。これにしよ」

「こっちの意見はっ」

「そんなのあってないようなものでしょ」

「ひどい話よ」


 なんのために来たのか謎だが、呼ばれないよかマシか。

 それを購入し、美沙の働くファミレスへ移動。


「なんかバイトしてるところにプライベートに来るって新しいね」

「確かに」


 メニューでも見ておくか。

 たまには食べたことないもの頼んでみようかな。


「……」


 少し隣から風が来た。高林さんがメニューを見てるようだ。

 割と近いことね?


「……なんか近くない?」

「え、悪い」

「新川君じゃない。この二人のこと」

「あ、俺ら?」


 やっぱり近いか。しらばっくれておこう。


「うん、近い。出張でなにかあった?」

「なにもない」

「……コク……」

「そっか。気のせいか」


 バイトを一緒にしてると連携取れていいね。

 ただ相手が幼なじみだから誤魔化しきれてないかも。

 一回ホテルで一緒の部屋になったっていうのはトップシークレットにすべきだよね。

 普通ならなにかあったとしか思えないもの。

 頼んだものが来るまでの間別の話題をふるのに勤しんだ。


「お待たせしました」

「あ、智香」

「ともだち?」

「うん。そちらは?」

「新しいバイト。林さん。シフトかぶったらご享受よろしこ」

「はーい」

「「……」」


 ん? なんか今高林さんと林さんが目配せしたような。

 気のせいか? ……。はっ!?

 まさか一目惚れしたとかっ。そこに出くわすって中々の奇跡でね?

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