第84話「なにかを悟る美野里さん」

 ――悲報。完全に大人に振り回される。

 気がついたら次の依頼主のところに着いていた。

 にぎやかで建物の背が高い。どうやら東京みたいだ。


 あまりに昨日動いたから新幹線の中で寝てしまっていたためか頭が回っていない。


 在来線を一本乗ってやってきたのは秋葉原。

 この文字でようやく頭が回転してきた。


 次の依頼主は一人暮らしらしくゴミを片付けるのを手伝ってほしいとのこと。

 到着し、中へ入れてもらうといわゆるゴミ屋敷予備軍であった。


「……足の踏み場がない」

「……取捨選択……」

「みんな必要でして」


 片付けできない人はみんなそう言うんだよね。

 いる・いらないで決めないといつまで経ってもゴミが減らない。


「……必要……不必要……決めてください……おも入れがあるとか抜きにして……」


「こういうのは瞬時に決めないと」

「わ、分かりました……」


 出来てたらこうなってないだろうけど。

 高林さんは、ゴミ袋を広げて近くにあったものを拾い上げる。


「……これは? ……」

「これは……」


「……不必要……」

「あー……」


「迷ったらもうすでにそれは、使わないものです」

「確かに言われてみれば使ってないです」

「……これは? ……」

「いります」


 ――高林さんの取捨選択により、あらかた部屋のゴミが片付いた。

 あとは、元に戻らないように収納の技術を伝授すれば終わりである。


「……物にお家を……決めてあげます……」

「なるへそ」


「まず一番使うものから決めていきましょう」


 ――きれいになっていく過程は割愛。

 リバウンドしないことを祈りつつ、見違えるほどきれいになった依頼主の部屋をあとにする。


「……このあと……自由で……良いって……」

「マジかっ。じゃあ、俺はアニマップ行くけど。ここで別行動するか?」


「……一緒に行く……」

「なんかほしいものあるのか?」


「……コク……」

「そうか」


 出来れば一人で行きたかったが仕方ない。


 高林さんを引き連れ某ショップ。

 いっぱいいる。夏休みを初めて憎く思った。

 止めておこうかな。


「どうする、高林さん」

「……? ……」


「いや、人いっぱいいるから」

「……大丈夫……悪い人……ばかりじゃない……」

「お、おう。分かった」


 いつの間にあの一件を克服したし。

 中に入っていってしまう高林さん。

 心配なんですけど。


 高林さんは、ゲームコーナーに上がった。

 歩いていく先は……え、RPGやるの? イメージだとほのぼの系やりそうなのに。


「……花咲君……」

「ゲーム探してるんだ」

「……じっと見てた……」


「すみませんでした」


 ――高林さんは幸運をもたらすらしく欲しかったゲームを手に入れられた。

 家帰ったら早速やろう。


 ガシッ「……っ!」


 汗を拭い自転車を自宅の駐車スペースに置いたら腕を何者かに掴まれた。

 良いことがあると悪いことが起きるパターンっ。


「有無を言わずついてこい」

「は? 明なんのつもりだ!」


「どうどう」

「びっくりしたんですけど。普通に来いよ」


「逃げるだろそれだと」

「ほぉ〜。紗衣氏絡みか」

「分かってるならついてこい」

「はぁ……。分かったよ」


 なぜ歩きよ。

 どう転がっても逃れられないので大人しくついていく。

 あと腕にあざがつくから。こいつ地味に握力が強い。


「手放してくれ」

「逃げる気だからダメ」


「逃げねぇよ」

「……」


「ふ、バカめっ」

「あっ」

「チッ……」


 瞬発力もあんのかよ!

 逃げ切れなかった……。

 さっきよりも力強い。


「痛いんだって!」

「自分が悪いっ」

「あざ出来たら責任とれんのか?」


「とれない」

「ふざけんなよ」

「おし、ついたぞ。じゃあ、そういうことで」


 油断するくせに反応が早いな。

 ていうか、浴衣? 紗衣氏が買うのか。


「逃げたら俺がヤバいことになるから」

「知らねぇよそんなの」

「ん?」


「痛いっ。分かったよもう」

「ったく。じゃあな」


 将来こいつDV男になりそうだ。

 痛む腕を擦りながら目の前の自動ドアをくぐる。


「いらっしゃいませ」

「あ、どうも」


 なんか高いの買わされそうだから避難避難。

 店員さんを華麗にスルーして店奥へ進むと、紗衣ちゃんがいた。

 ん〜、どうしよう。帰ろうかな。


「あ、花咲君」

「お、おう。なんか連れてこられたけど」


 きびすを返そうとしたところで首をこちらへ向けてきた。

 実は入店から見ていたパターンあるな。


「ちょっと浴衣を選んでほしくて」

「こんなやり方しなくても呼んでくれれば行くから」


「……」


 睨まれた。お見通しらしい。

 紗衣ちゃんからこの視線初めてだ。

 完全に睨みきれていないのがまた可愛い。


「ん、どれがいいかな」

「適当に選ぶのなしですよ」

「それはないから安心して」

「……はい」


 にわかに信じがたいとでも言いたげな間だ。

 まぁいい。紗衣ちゃんにはザ・浴衣が合うと思う。


「え、シンプル」

「紗衣ちゃんはこれが一番似合う」


「断言しましたね」

「これは自信ある」

「……分かりました。買ってきます」


 俺がチョイスした浴衣にあまり良い感想を持たなかったみたいだが、紗衣ちゃんはレジへ歩いていった。

 ていうか、選んでほしくて俺をらちってきたのにその対応はあんまりだと思う。


 やっぱり親友の妹止まりだな。



 ☆☆☆



 夏祭り当日。よく考えたら美野里さんと高林さん達初対面なんですよ。


「……誰ですか?」

「あ、クラスメイトの美野里です〜」


 紗衣ちゃん大丈夫かな。不安に思っていたらあっという間に夕方になっていた。


「はぁ〜」

「仲良くしてやってくれ」


「うん!」

「……はい」


 フレンドリーって凄いな。

 こっちの心配を吹き飛ばしてくれたぜ。


「そろそろ行こう」

「そうだな」


「……あ、あの。凪君どうですか?」

「似合ってるぞ」


 袖をもって両腕を広げてくる紗衣ちゃんに感想を言ってやった。


 ウソは言っていない。

 ちょっと食い気味に言ってしまったのが紗衣ちゃんのなんらかのスイッチを押してないことを祈りたいものだが。


「えへへ」

「私はどう?」

「美野里さんも似合ってる」


「ありがと」

「……花咲君……」

「高林さんも似合ってる」

「……」


 一番可愛い高林さん。もうねずば抜けてるわ。

 口には絶対出さないけど。


「ホント可愛いね。高林さんよろしくね」

「……コク……」


「なにから食べる?」

「はい」


「わざわざ手をあげてくれるんだ」

「焼きそばがいいです」


「お、いいね」

「どうですか?」

「俺は大丈夫だぞ」

「……平気……」

「じゃあ、決まりですね」


 というわけで、みんなで購入し、食べながら次のものを選ぶ。

 いっぱい人いるな〜。夏祭りってチャラい子もいるんだよね。


 ちょっとオールバックにしておこう。

 あとみんな可愛いからナンパ師に目をつけられると厄介。

 男一人に女子三人はキツいって明さんや!


「……凪君はなにが食べたいですか?」

「俺からあげとバラ肉と煮イカ」

「ほとんど肉っ」


「いや、夏祭りってそういうのが大半じゃん」

「俺のあげろと言われても、ちょっと時間がほしいですけどね」


「じゃあ、こうしよう」

「からあげと煮イカとかき氷。わたあめを今からみんなで回ろう。あらかじめ買うもの決めていった方が時間も限りあるしいいでしょ?」


 頭いいというかしきりのうまっ。

 これは名案っすわ。これなら俺もみんなを警護できる。


「異議なし」

「ありがと」


「このあと花火あがるじゃん。それまでに買っちゃった方がゆっくり見れるから」

「美野里さん。頭いい」

「そう?」


 歩き出す女子達。高林さんは美野里さんの意見に賛同しているのだろうか。

 メッセで聞いてみよう。


[花咲:決まっちゃったけど高林さんは美野里さんの意見に賛成してるか?]


[莉音奈:大丈夫]

[花咲:ならよかった]


 スマホをしまい三人の女子の背中についていく。

 目的の品々を購入して花火がよく見えるところで食べることにした。


「なにから食べる? なにから食べる?」

「落ちつけ」


「落ちついてるよ」


 どこがだよっ。

 子どもみたいにはしゃいでいたじゃないか。

 かき氷から食うって言うぞ。


「大人な花咲君はなにから食べる?」

「煮イカ」


「あ〜、そうだね。固くなっちゃうもんね」

「……コク……」

「あの〜」


「なんでしょう紗衣さん」

「拒否権は……」


「みんなで同じの食べようよ」

「……はい」


 美野里さんが凄いのか紗衣ちゃんが美野里さんのテンションに圧倒されてしまってるだけなのか。

 どちらにしても美野里さんのコミュ力? はやはり高いな。


 美沙よりもフレンドリーかもしれない。


「……そろそろ花火……」

「えっ……。あ、ホントだ。紗衣ちゃん。ちょっと話したいことがあるの。一緒に食べよ?」


「あ、いや、みんなで今食べるって」

「思い出したことがあってさ」

「……手短にお願いしますね」

「う〜ん。善処するよ」


 急になにかを悟ったように美野里さんが紗衣ちゃんを引き連れどこかへ行ってしまった。

 女子だけで大丈夫かな……。


「……もう始まる……」

「マジか」


「……からあげ……」

「あ、サンキュ」


 ベンチに置かれた二人分。随分しっかりしている。

 自分らの分は持っていくとは抜かりないな美野里さん。

 食のことに関しては注意を払おうと思ったときだった。

 大きな破裂音とともにひときわ明るくなり、歓声があがる。


「あがったな」

「……」


「まさか二人で見ることになるとは思わなかったな」

「……」


「写メ撮っていいか?」

「……大丈……ぶ」


 かすかに大丈夫と聞こえた気がしたので聞こえたことにしてスマホを内カメラにしてパシャリ。

 うん、無表情。花火をバックに撮ったけど、高林さん花火に負けてない。カギつけとこ。

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