第19話「生まれて初めて夜から朝に変わる空を見た」
頷く高林さんを眺め、俺は一番味の染みている真ん中から食べることにした。
――危惧していたことは本当に起きてしまうものなんだろうか。
AM2時。明が勧めてきたアニメを観ていたらこんな時間になってしまった。
「こんなに続いてる作品だと思わなかった」
「もう二時じゃん」
「……眠い……」
「布団出すから待ってろ」
「……コク……」
目を擦り、高林さんがつぶやいたのでこれを皮切りにした。
問題は布団の量だけど。記憶が正しければ二個だったような。
「あ、ベットがない」
「変わったところを探すクイズ一人でやってたの」
「お、おう。そうか」
それは余計な突っ込みを入れてしまったようだ。
そういうのは心の中でやってもらいたい。
「今勘違いしてる。要は違和感を抱いていたってこと」
「苦しい言い訳ありがとう」
「言い訳じゃな――」
「三つも布団あったかな」
「……布団二つでいい……」
「お、いいね。凪ソファで寝ろだって」
「突然ハートをえぐってきたなって」
もうガラスなんだから俺のハート。粉々にする気か。
「……違う……」
「え、違うの?」
「川の字で寝る……」
「トリッキーなことを言い出した、この子」
高林さんを指差し、俺を見る美沙。
お前にだけは言われたくないと思うぞ。
事実トリッキーであるが。
「真ん中花咲さん」
「なんか面白そう」
「……布団は小堀さん側で……」
ここは譲れないとばかりに声を少し大きくして提案してきた。
ハートクラッシャーですわ、この子。
「久しぶりに凪と一緒の布団で寝るのか」
「いやだったらいいぞ」
「大丈夫」
「高林さんは平気なんだよな?」
「……コク……」
「そ、そうか」
こんなに近距離に異性がいるのになんの迷いもなく頷いたし。
男として見られていないのかもしれない。
「いびきがうるさかったらごめんね」
「大丈夫大丈夫。俺の方がうるさいから」
「そしたら鼻つまむから大丈夫」
「いや、おかしいおかしい!」
「私のもつまんでいいから」
「結構です。もう寝るぞ」
「……おやすみ……」
「私はまだ眠くないんだけどな」
「……」
「すぅ……すぅ……」
なんなのこの子っ。
ほんとに今さっき眠くないとか言ってたのに寝息を横で立てている。
自分の意思とは無関係に夢の世界に入れるとか羨ましい!
☆ ☆ ☆
朝八時。外は明るくなっており、小鳥の鳴き声が耳に気持ちいい。
生まれて初めて夜から朝に変わる空を見た。
感想を言うならば本当に地球は丸まっているのだなとクサいことを言えるくるい凄かった。
こんな今後の人生でもう幾度もしないであろう経験させてくれた両隣の美少女ニ名には感謝してもしきれない。
睡眠時間をかっさらっていかなければと付け足すけど。
「ね、眠い」
「あははは。イビキかいてたよ?」
「うそ。マジで!」
「うん、ウソ」
「美沙さんよ。いい加減にしなさいよっ」
「めんごめんご」
「……布団で挟んで押入れに入れてやろうかな」
「か、監禁されるっ」
「……ん……」
いつもと違うにぎやかさに目をさましたか、莉織奈が眉を八の字にした。
そして間髪入れず徐々にまぶたを開ける。
「あ、起きた」
「むしろ起こしたって言った方が適切じゃないか?」
「まぁ、こんだけ騒がしくしてればな」
「……こぼ……り……さん?」
「うん、そうだよ。おはよう」
「おは……よ……」
むくっと上半身を起こした高林さん。
まさか朝が苦手だとは新発見だった。目を擦り眠そうにしている。
「高林さん。おはよう」
「……っ」
瞬きが高速になり首を傾げている。
どうやら俺が寝起きにいるのがおかしいと思ったらしい。
ちょっと軽蔑の眼差しが混ざっている。
「高林さん起きたことだし朝ご飯食べようか」
「……なんで……いるの?」
「なんでってここ凪の家だよ?」
「……あ」
美沙の指摘に高林さんが俺の部屋をぐるりと見渡し小さく声を上げた。
意外と朝弱いんだ。新たな発見。
「朝苦手なんだね」
「……苦手……」
「え、じゃあ、この間はどうして起きれたんだ?」
「……寝てなかった」
「凄いな。俺にはできない」
「さり気なく話し進めてるけど、わりとヤバいこと言ってるよねっ」
「美沙が期待してることじゃないぞ。親が依頼して一緒に寝ただけだから」
「あ、なんか聞いたことあるかも」
「だろ?」
まさか今説明すると思わなかった。
あのときは一つの布団に二人だったけど黙っておこう。
「でも、やっぱり変だよ。凪の部屋で二人で寝たとか言ってなかった?」
「だからなんでも屋はなんでもするんだって」
「なるほど〜とはならないよ?」
「もういいよ、それで。とにかく飯を食うぞ」
こういうのは時間が解決するだよ。根気よく話題をすり替えていこう。
高林さんも同様のようで「お腹……減った……」
とちゃっかりすり替えを実行している。
「ていうか、今なん時?」
「九時すぎ」
「じゃあ、おばさんでかけちゃった?」
「物音しないからいないと思うぞ」
「久しぶりに会いたかったな……」
「隣なんだからいつでも会いに来ればいいじゃんか」
「まぁ、そっか」
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