第20話「なんとなくお察し?」

 他愛のない会話を維持しながらキッチン。

 用意されていた朝食を温めリビングで実食している。


「おばさんの作る料理は何でも美味しいね」

「伝えておくよ」

「……」

「どうした高林さん」


 莉織奈がさっきからスマホに目を落としていたことに気づいた花咲が気にかける。


「あたし達……仕事……」

「お、マジか」

「あ、気にしないで行ってきて。鍵渡してくれれば施錠します」

「サンキュ。じゃあ、よろしくな」

「うん、任せて」


 笑顔の幼なじみを背に我が家を出た。

 高林さんの誘導で近くの会社へやってきた。

 インターホンを押す。


「おはようございます。なんでも屋です」

「ありがとうございます。入ってください」

「失礼します」


 社内に入ると、事務系ぽい女性が出迎えてくれた。

 凛としているというのが合ってるのかわからないが、凄く大人な雰囲気を感じる。


「今日は、封筒に紙を入れてもらいたくてお呼びしました」

「分かりました」

「疲れたら休憩を挟んでいただいて結構ですので、十七時までお願いします」


 女性は、歩きながら説明してある部屋のドアを開けて俺達を案内した。

 室内は会議室ぽいイスや机が二組。


「……大丈夫です……」


 君は慣れてるからね!

 集中力が持つんだろうけど、初体験の俺がやったら一時間持つかどうか。


「新入りさんですか?」

「あ、はい、そうなんです」

「てっきり彼氏かと思いました」

「それは、男女で来てるからですよ」

「なるほど」


 口では納得した風をかもし出しているが、表情はまったく信じてないそれだ。


「留めるのはなにで留めるんですか?」

「専用ののりがあるから。え〜と、これ」


 なぜかポケットからのりを取り出す。

 礼を言ってそれを受け取る。ちょっと温かいっ。


「ごめんね。今どき手でやるとか思うかもしれないけど」

「いえ、こういう黙々とやる作業好きなので」

「おぉ、尊敬する」

「会議室でやっていいんですか?」

「うるさいとあれかと思って、いつもここを使ってもらってるの」

「そうなんですね」

「じゃあ、またお昼に来るから」


 と言って、依頼主は会議室の出口へ向かう。

 もはや普通に仕事をやりに来たものではないだろうか。

 いや、これをやる前に仕事をしているわけだけども。


 仕事の仕事? どう説明したらよいか。

 難しいと考えていたら会社の人が急に振り返った。


「二人きりだからっていけないことしないようにね」

「だから、そういう関係じゃありませんっ」

「君面白い」


 人の顔を指差し笑う女性が出ていった。

 昼は違う人が来てほしい。


 ――そうは問屋が下ろさず。

 同じ人が昼休みを知らせにやってきた。


「どう? 進んでる?」

「はい」

「お腹減ったでしょ。お弁当持ってきたよ」

「ありがとうございます」


 なんて気の利く人。

 てっきりなんか買ってきなよって言って金を渡されるかと思った。


「俺もここで食べたいんだけどいい?」

「ど、どうぞ」


 認めるしかない。断る理由がまずない。

 分かっているのかいないのか読めない人。


「早速なんだけど、ニンジンあげる」

「苦手なんですか?」

「……あたしも……」


 二人は、花咲の弁当の裏返したフタの上に煮もののニンジンを置いた。

 美味しいのに……。甘いのがダメなのか?


「甘苦いのが苦手でさ」

「……コクコク……」

「あ、生ならいけるんじゃないですか? あまり味しませんよ」

「マジか」

「マヨネーズつけたらこっちのもんですよ」

「今度やってみる」


 中々楽しめた昼食だった。悪意だけはないんだな。

 固定観念は良くないわ。


 ――帰り。高林さんを送ったら高林さんの母親が紳士的と褒めてきた。


「うちの旦那よりいいわ」

「中々できることじゃないよ。ウチの旦那なんて教え込んでやっと送ってくれるようになったから。女の人と付き合ったりしていない限り自然にできないと思う」

「……」

「反応しようよ」

「どう反応したらいいか分からなくて」

「……クション!」


 奥の部屋の方から男性のくしゃみ。

 大層大きなくしゃみだこと。

 近くで聞いたら耳がキーンって鳴りそうだ。


「なん年も一緒にいるとね、お互い恥じらいが無くなっちゃうのよ」

「……花咲君……」

「あ、そろそろ俺帰ります」


 裾をクイッと掴まれた。

 もう帰っての意味と取った俺は、自転車にまたがる。


「おっと、ごめんね。今日は送ってくれてありがと」


 親は口数少なくないんだよな。誰似なんだろ高林さん。


「いえいえ、お気になさらず」


 高林宅を後にした。自転車を走らせ自宅へ戻る。

 そこにはなぜかまだ美沙がいた。


「あれ、どうしたんだ?」

「諸事情あって今に至ります」

「んー、なんとなくお察し?」


 恐らく美沙が俺ん家を出ようとしたところでお袋に捕まったのだろう。


「恐らく凪が考えてるそれと同じだと思う」

「用があったらごめん」

「いや、何もしなかったから凪ん家泊まったんだよ」

「そうか」

「お、帰ってきた」


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