第21話「絶対領域が凄い刺激っ」

 話し声がリビングまで聞こえてきたのかお袋がそこから出てきた。

 エプロンをつけていることから夕飯の準備をしているらしい。


「ただいま。ダメじゃないか。美沙監禁しちゃ」

「人聞き悪いわね。話ししてたらこんな時間になっちゃったの」

「変なこと言ってないだろうな」

「言ってないよ? ね?」

「はい」

「ほら、言ってない」


 圧力を感じるやり取りだった。こりゃなんかを話してますな。

 つか、幼なじみなんだから隠してることもそんなにないと思うんだけど。


「一応信じておくよ。ていうか、美沙帰った方がいいんじゃないか?」

「そうね。足……」

「なんか言ったか?」

「足どうしてかなと思って」

「わけ分からん」

「大丈夫。一番ウチがわけ分からないから」

「……あははは」

「おし、ホントに美沙帰ろうぜ」


 あること無いこと話し膨らむのを避ける。

 このままでは収集つかなくなりそうだ。


「あ、うん」

「じゃあ、また学校でな」

「うん」


 玄関のドアとともに美沙の背中が見えなくなった。

 なんだろ、この気持ち。切ない? モヤモヤ?

 よく分からん。



 ☆ ☆ ☆



 アキラとともに出かける日になった。

 自転車を歩道橋の下にある一角に止める。


「ここに止めていいのかよ」

「ダメとは書いてないだろ」

「まぁ、そうだけど」

「よし、ついてきてくれ」

「あ、ここじゃないんだ」

「お前アニメ良く観てたか。どう見てもここじゃないだろ」

「そうでしたそうでした」


 危ない危ない。明のスイッチを入れてしまうところだった。

 短くため息をついて明は、「この歩道橋からの眺めだから」とそれを指差し言った。


「はいはい、すみませんでした」

「上りの電車だからこっちだ」

「アニメ好きなら分かるだろ」

「そこまで推してるアニメじゃないし」

「じゃあ、帰ろ」

「あー、ウソウソっ」

「ったく。長居はしないぞ」

「え〜」

「え〜じゃ無しに。休みの日になん時間も無駄にしたくないんだよ」

「分かったよ。一本で決める」

「そうしてくれ」

「……」


 真剣な表情になった。

 チュンチュンと鳥が鳴くような音が下方から聞こえてくる。

 数秒後遮断器が下りた。だから無言になったのか明。

 警告音が小さくなる。


「おっしゃ来たっ」

「意外と迫力あるな」

「結構音とか凄いんだよ」

「おし、いくぞ。腹減った」


 電車が最後尾の赤いライトを見せながら去っていく。

 花咲はそれを見ることなく、歩き出した。

 電車過ぎ去ってるのにいつまでも突っ立ってる意味はない。


「どんだけ冷めてんだよ」


 スマホをしまい、新川が慌てて彼の後を追う。

 他に歩行者がいるからここではスルーしておく。

 冷めてるとか言ってる以上俺がマイナスなイメージを負うのは必至なのよ。

 花咲はそう決めて下までいくまで口をつぐみ、追ってきた新川が下りきってから彼は口を開いた。


「冷めてはいないから」


 一つため息をついて花咲の言葉を受け入れる新川は、自転車にまたがった。

 嘆息される筋合いはないんだがね。


「地元で昼食うか」

「そうだな。そのまま帰れるし」

「帰る気満々かよ」

「さっきも言ったけど、休日の時間を使ってるんだから少しでも早く帰りたいんだっつの」

「どんだけ疲れてるんだよ」

「人並みに」

「ところで、なんで振ったんだ?」


 歩道橋を離れて地元へ向かう中、明がさも自然に問いかけてきた。

 もはや質問の仕方も強引ではないか?


「なんの話だ?」

「高林さんのこと振ったんだろ」

「明がなんでそのことを知ってる」

「小堀から聞いた」

「なんですぐ言いふらすかなっ」


 近所のおばさん方じゃないんだから。

 ていうか、高林さんの気持ちも考えてもらわないと!

 仲間内だけとかそういう問題ではないよね、こういう場合。

 あとで、美沙にはしっかり言い聞かせよう。


「なんで振ったんだよ!」

「まだ高林さんのことよく分かってないのに。あと好きじゃないのに告白を受けるのは失礼だろ」

「そんなもんかね」

「そんなもん」


 出逢って間もない人と付き合うって中々リスキーだと思うのは俺だけなのかな?

 先頭を走っていた明がファミレスにかじをとったので俺もそれにならう。

 外にいい匂いが漏れてる。腹減った……。


「食べきれない量頼むなよ」

「大丈夫だって。ダメだったら持ち帰るから」


 端から持ち帰ること考えるなよ。

 高校生になったんだから自分の食べ切れられる量くらい分かろうぜ。

 店内に入り、来客を知らせるチャイムが鳴ると奥からウエイトレス……が……。


「いらっしゃいま、せ……」

「え?」

「な、なんかすまん」

「故意に来たわけじゃないみたいだから許す」

「いっぱい頼むわ」

「ありがとう」


 比較的小さな声で美沙が俺の謝罪を受け入れてくれた。

 そんな彼女は席に案内し、お冷を出してすぐ去っていく。

 ここの制服エロい……。


 踵を返して離れていった美沙の来ていた仕事着が割と短いスカートだった。

 大丈夫なのか、これ。くつ下とスカートの間の生足。いわゆる絶対領域が凄い刺激っ。


「……」

「ヤバいな、あの制服」

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