第102話「ヤキモチ焼いたとか?」
会って早々うるさい二人だ。
それに比べて高林さんはやっぱり可愛い。
「そんなことないヨ」
「目を逸らすな片言止めろ」
「あ、あははっ」
二人を見ていた美野里さんが笑いだした。
それに美沙が振り向く。
紗衣ちゃんに対する視線ではない。
良かったひと安心。
「み、美野里さん。そんなに面白かった?」
「うん、面白い」
「もういい。俺が凪の隣行く」
「あ、拒否します」
「……酷い」
「……指定……されてる……」
「だってよ」
「へーい。あ、新幹線来た」
明に視線を合わせると、ゆっくり新幹線が入ってきた。
風が髪をなびかせる。女子ってなんでこんな良い匂いするんだろうね。
スキール音がした後扉が開いた。
「新幹線新幹線〜」
「ちょっと距離空けようぜ」
「そうだね」
子どものようにはしゃぐ明から離れながら車内に入る。
独特の臭いを感じつつ指定された席に着き、美沙達はイスを反転させた。
え〜、前向いとけよ……。
「知ってたか? 進行方向と逆向いてると酔うって」
「大丈夫。私酔わないから」
「右に同じ」
不発。長時間向かい合わせでいると最悪なんですけど。
二人は、俺の思惑など気づいてる素振りもなく同意見であることを揉めている。
まったく、よそでやってほしい。
「今日も平和だね」
「賞取れるかも」
「頑張って」
「にしても、腹減った」
胸の前に握りこぶしを作る美野里さんに突っ込もうとしたら明が首を挟んできた。
空気の読めないやつ。美野里さんは気にしてないみたいだけど。
バックをまさぐりだした明を睨む。
「……」
「ん? どうした高林さん」
「……目……怖かった……」
「ちょっと明がムカついてな」
「……コク……」
「俺にムカついた? なんで」
少しは察しろよ。なんでこいつに彼女ができたか不思議だ。
取り出した菓子袋を開封し、手を突っ込む明。
どうしよ、こいつの行動全部鼻につく。
「なんとなくだよっ」
「え〜……」
不満そうに眉を寄せる。一旦落ち着こう。
車内で暴力ふるったら修学旅行どころではなくなる。
「二人って仲良いよね」
「どこを見たらそうなる」
「え、仲良いって思ってたの俺だけ……?」
「俺も思ってるけど。今のやり取り見てイコールにはならない」
「あ、そういうことね」
ショック受けるなよ、気持ち悪い。
安心したか明は、菓子をボリボリ食べ始める。
俺らも食うか。バックの中から菓子を取り出す。
美野里さんの分も買ったけど、よく考えたら買ってきてる説濃厚なんでね?
「美野里さん持ってきた?」
「……うっかり忘れてきた」
頬を掻き、恥ずかしそうにしている。
買ってきといて良かった。
「ありゃ。……食べるか?」
「え、いいの?」
「元々美野里さんの分だからこれ」
「私の分」
菓子を受け取り、そう呟く美野里さん。
胸に菓子を抱えている。
「俺らだけ食べるのは気が引けるし」
「ありがとう」
「どいたま」
席が隣で距離が近いというのもあり、笑顔に息を呑む。
ブブッ。ん? メッセか。
スマホを取り出し、画面を見ると、なぜか高林さんだった。
[莉音奈:優しい]
[花咲:一人だけなにもないんじゃ嫌じゃん]
[莉音奈:うん]
わざわざメッセを送ってくるからなにかと思ったよ。
内容を確認する前に高林さんの顔を見たけど、無表情を崩してなかったし。
ヤキモチ焼いたとか?
――新幹線特有の止まり方をし、風景が動かなくなった。
自意識過剰なことを思っている間に到着しちゃったよ。
お菓子の味なんて無味かと思うほど。
「やっと着いた〜」
「なんかずっと進む方向と逆向いてたから変な気分」
前に座っていた二人が立ち上がる。
どっちの話もスルーしておこう。その方が平等だし。
両隣の女子二人は、無言で歩き始める。
腰が痛い。長旅は、将来しない方がいいかもしれない。
「だから言っただろ。止めろって」
「帰りは、前向く」
「ていうか、腹減ったことね?」
さっきお菓子食ったじゃん。スルーしようスルー。
これからのことを決めていくことの方が先だ。
「これからどうするか」
「ここから自由って言ってたよね」
「腹減ったな〜」
「……調べる……」
「私も」
「腹減った」
「うるせぇな。さっきから」
ちょくちょく間に入ってきやがって。
まだ十時過ぎだぞ。昼飯にしてはまだ早い。
「だって、菓子食って余計腹減っちゃった」
「あ、分かる。あるよね」
「だべ、めっちゃ減る」
「花咲君提案があります」
そう言って美野里さんは、手を上げてきた。
恥ずかしいから止めてほしい。
「先に飯にするんだろ」
「半分正解」
「……」
初めて美野里さんに怒りを覚えた。なにが違うと言うのだろう。
駅から離れ、近くの広場的なところで立ち止まる。
「半分は、佐世保バーガーを食べに行くが正解。これなら修学旅行っぽいでしょ」
「……う、うん?」
そうだろうか。
ハンバーガー食べることが学びに繋がるとは思えないんですけど。
「私は、どっちでもいい」
「……コク……」
ダメだ。視線を合わせて出た言葉が関心がない。
……はぁ、行くか。どこか行ってから昼にしたかったんだけど。
「行くか」
「おし、そうと決まればタクシー!」
「うるさいっ。目立つだろ」
一台も車が通ってないのに手を上げて大声を出すか普通。
テンションがいつにも増しておかしくなってやがる。
「今呼ぶね」
「あ、人数的に乗れるの?」
「大型車あるんじゃない?」
美沙にそう言って美野里さんは、スマホを耳に寄せた。
無かったらどうするか。
「シェアサイクリング無いかな」
「見た感じないぞ」
「諦めて新川君歩いていけば良いんじゃない?」
「ぶっ!」
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