第53話「えん罪もえん罪」
寒いって言ったからって42度にすることないじゃんな。
熱くてすぐ入れなかった。
しばらく湯冷めはしないかもしれない。
んでもって、部屋に戻ったらスマホが明かりを点滅させていた。
誰だろ。スマホを手に取る。
[美沙:今度の休み合った日チョコみんなで作らない?]
美沙からだった。スタンプが壁からちょっと顔を出すチワワ。
可愛いなこれ。
[花咲:それを個人メッセで言われても]
[美沙:とりあえず凪の耳に入れてからかなと思って]
[花咲:俺なに様なんだよ]
[美沙:賛成? それとも賛成?]
[花咲:選択肢が二択なようで一択なんですけど!]
[美沙:あら、ごめんなさい]
そっぽを向いたようなスタンプ。
謝る気ないなら謝らないでもらいたいね。
[花咲:一緒に作ったらだめって決まりないしいいんじゃないか]
[美沙:じゃあ、みんなに言っとくね]
それを見て、花咲は布団にくるまり眺めていたためそのまままどろみの中にダイブした。
――約束をした当日。ピリピリとした違和感を感じ目を開ける。
半分覚醒しだしたときに感じたのよ……。
見られてるときになんかピリピリとくるときはないだろうか。
そんな違和感。
「おはよう」
「なんで美沙がここにいる」
スカートはいてこいよっ。なんでショーパンかな!
……ショーパンもありか。スネからの太もも。
もしかしたら隙間からパンツ見えたりして。
「リアクションが期待したのと違うっ」
「そう言われてもな……」
「もっとびっくりしてよ」
「いや、これが初めてならそりゃ驚いたけど。そう何回もやられると驚きも失せるよ」
「こんなこと何回もやってないけど?」
「正直ドキドキはしてる」
パンツが見えるか見えないかでな。
幼なじみのと言っても女は女である。
あと足がきれいで触りたいくらいだ。
「だよね。顔赤いし」
「んで、なんで美沙は俺の部屋にいるんだ?」
「鍵持ってるって前にい――」
「そういう意味じゃない」
「どういう意味じゃあ。ていうか、そろそろ起き上がったら?」
「分かった」
くそっ。まだパンツ見れてないのに。
「そういうわけでどういう意味」
「なんでここに来たのかって話。どうやって来たかって聞いたんじゃない」
「あ、そういう……材料買いに行こうって言いに来た」
「だったら普通に起こそうぜ」
「それじゃつまらないじゃん」
「面白さは別にいらないんじゃないか?」
「そんなことないから。あ、そうだ。みんなと一緒に行くんだった」
「おいおい、ゆっくりしてる場合じゃないじゃないか!」
「あ、いや下で待っててもらってるから」
「もしかして鍵みんないる前で開けた?」
「……」
美沙は表情で驚いたことをアピール。
花咲はそれに額に手を当てため息をついた。
「そんなあからさまに“は!?”って顔しなくてもいいけどな」
「まぁどんまいだよね」
「諦めるの早いな」
「じゃあ、まぁそんなわけで下で待ってるから」
「了解。じゃあ、あと三時間くらい待っててくれ」
よし、もう一眠りするか。
あまりに来なければ俺抜きでいくだろ。
「二階から落とすよ?」
「冗談だから」
「まったく……」
思いの外ガチに聞こえたからこれ以上冗談を言うのはやめておいた。
自分の部屋から飛び降りた形でケガとかどんな憶測が学校で飛び交うか分かったもんじゃない。
着替えて階下。俺を見るなり明が疑問を呈した。
しかもなぜか紗衣ちゃんに振り向いて。
「合鍵とか今の幼なじみは距離感どうなってんだ?」
「なんであたしに振り向くの」
「凪に聞いたところで意味ないだろ」
「お隣さんで家族ぐるみの仲だから合鍵もらってるの」
兄妹感で会議してると、美沙が首を突っ込んできた。
なんでそれを言っちゃうかな〜。
今までバレてなかったのに。
「俺は許可してないんだけどな。親が勝手にやったことだから」
「あー、それはうん。なるほどだわ」
「急に納得するなよっ」
納得されるのはされるでなんか嫌だわ。
「……」
「そろそろ行こうか」
「……コク……」
――美沙の掛け声で一行はスーパーへ。
カートにカゴをセットしてなぜか俺が押すことしばし。
サービスカウンターを通り過ぎ、バレンタインの専用ステージ。
「この時期になると特設がにぎやかになるよね」
「いや、よねと言われても今回が初見だから」
「あ、そっか」
「良かったですね。まだチョコづくりセットありますよ」
そう言って紗衣ちゃんがそれをカゴに人数分入れていく。
まだいいって言ってないけどね?
やっぱり妹属性備わってる感じ?
「それがやっぱり無難だよね」
「もらう側歴長いもんな」
「なんだ作ったことある口なのか」
「そんなわけ無いじゃん」
「作ったことあったらどうしようかと思った」
ホッとする花咲に「おいこら安堵すんな」と肩を叩く新川。
その手を掴み人間のキャパを少し超えるくらいの方向へ回転させる。
悶える新川を尻目に美沙に向きなおって花咲はボソッと「にしても、自分で作るのか」つぶやいた。
「今は自分にっていう人多いみたいだよ?」
「へぇ〜。だからみんなで作ろうって話になったのか」
「そうそう。その方が一石二鳥でしょ?」
「好みの形とか味とかわかりますし」
「今年はノーカウントってことか」
「まぁそうだね」
「……カウントしても……良いと思う……」
「え、本命ってこと?」
「……違う……」
「違うのかいっ」
バカ野郎。明に高林さんが本命なんて渡すかよ。
ていうか、彼女いるだろ。裏切り者が!
「義理チョコとしてカウントしていいってことじゃん」
「あ、そゆことね。一瞬期待しちゃったよ」
「うちの兄がバカですみません」
「……大丈夫……」
高林さんって無表情のわりに冷淡ではないんだよな。
不思議。ものすごい不思議。誰か研究して発表してくれないかな。
紗衣ちゃんの謝罪に吹き出しそうになるのを我慢し、さっきのチョコづくりセットを購入して美沙宅。
「型とか私の家のほうがいっぱいあるから急きょ私の家で作ることにしたから」
「それを小堀家リビングで言うか?」
「事後報告が一番つなぎとめるのに最適」
「別にそんなことしなくても逃げないと思うぞ?」
「まぁ細かいことはいいでしょ」
「女子の家上がるの初めてだから緊張する」
「え、初めてなの?」
「大抵の男子は初めてだから」
「俺がレアケースなんだろうな」
「……縛れてる? ……」
後ろを向いて高林さんが莉音奈エプロンのヒモ見せてくる。
なにこれ。新婚さんみたいじゃん!
「うん、大丈夫縛れてる」
「……コク……」
「あたしも見てもらっていいですか?」
「かた結びになってる。見えないからしょうがないけど」
と言って、花咲は紗衣のエプロンのヒモを正しく結ぶ。
「あ、ありがとうございます」
「おいこら変態」
「なんだよ。人聞きの悪い」
えん罪もえん罪である。
どうかと聞かれて違ったら普通触るでしょ。
やってませんは通じないってか?
「あんまりそうやって女子の身体に触れるような作業しないほうがいいぞ」
「見てくれって言われたから」
「なにも結び直さなくてもいいだろ」
「新川君妹の顔見たら?」
「は? ……なんて顔してんだお前」
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