第9話「Gのおかげでキュンときました」
そんな幼なじみとの分かれに寂しさを抱いているのを察知してか道中一言も話しかけてこなかった。
あ、高林さんは自分からはあまり話すタイプじゃないか。
「着いた」
「え、もうっ」
距離にして500メートルくらい。
高林さんがアスファルトに足をつけたそこには、おしゃれなアパートがあった。
いつも通ってる道なのに分からなかった。
「……たまたま……今日の依頼主が……近い家の人」
「なるほど」
たまたまかな。高林さんのお袋が気を遣ってくれたような気がするけど。
前回も近かったし。
「……103号室……」
「階段登らないのはありがたい」
「……コク……」
該当室にたどり着きインターホンのボタンを高林さんが押した。
お馴染みの音が聞こえて数秒。
「はい」と男性の声が耳に入る。
優しそうな声色。
「……なんでも屋です……」
「あ、お世話になってます。またちょっと汚くなってしまったので、お片付けお願いします」
「かしこまりました」
ガチャと解錠音が聞こえ、ドアが開くと、男の人が出てきた。
声のイメージと容姿のイメージがここまで一致する人を初めて見た気がする。
「俺はこの後用事があるので失礼します。合鍵を渡すので作業終わっても帰ってこなかったらポストに入れておいてください」
「はい」
律儀に頭を下げ、依頼主はでかけていった。
そしてあらわになる惨状。
優しいイメージとはかけ離れた部屋。
そうゴミ屋敷と言って差し支えない。
悪臭こそしないものの足のふみ場は玄関からないぞ。
「にしても、凄いな」
「……一ヶ月半前……片づけた」
「マジか。それでこの状態……」
なんでこうなってしまうんだろうな。
ストレスとか? 俺もあまり片付けるの得意じゃないけど、ある程度汚くなってきたら我慢できなくなる。
「……コク……。ニ・三時間くらいかかる」
「二人で一緒のところやろうぜ。一人でやってるの辛い」
「……コク……。どこからやるの」
「玄関から」
「分かった」
「後ろにゴミ袋置いておくぞ」
「コク。調子悪くなったら言って」
「了解」
自分達の後ろにゴミ袋を置き、作業に取り掛かる花咲と莉音奈。
彼が目の前のゴミをせっせと袋に入れていくが、減っていかない。
足で踏み固められて圧縮されてしまっているようで、ゴミを取って取っても目前のそれは減少しているように見えないのである。
……玄関片づけて終わるのもワンチャンありえたりして。
「進まないな」
「……玄関にないものあるから……」
「そうなんだよな。ペットボトルは分かるかもだけど、フライパンは無いよ」
「……流れ着いたのかも……」
「ありえる」
「フライパンはツルツルしてるから」
「普通シンクの下の収納にしまっておくよな」
露出しとくから邪魔になってキッチンから離脱させちゃうんだよ。
それでまさか調理はしないだろうけど。
やけにホコリを被ってないところが怖いところ。
「めんどくさくなるって」
「そんなもんかね……」
極まってるな。少し扉開けて収納すればいいだけだぜ?
どうしてそれがめんどくさくなるのか。
「……収納……ない」
まさかそんなことある?
シンクがあるなら水のパイプが下に通ってると思うんだけど。
そこを点検するのに扉を作っておかないと見れないよね?
面白い構造してるな、このアパート。
「へぇ〜、先に浴室やっちゃう?」
「……うん」
「了解」
ゴミ袋を持ち、浴室へ入る。
高林さんが、少し返事が遅れた理由が分かった。
浴室の方が玄関よりも数倍やばいかもしれない。
使うものなのかゴミなのか分からない代物がいっぱい。
「これはひどい」
「片付けても片付けてもこうなる」
よくもまぁ、めげずに依頼受けるな。
報酬があるからぎりぎりやる気を維持できるが、これがなにもなかったらボイコットする確実に。
「どうやって風呂入ってるんだろうか」
「……近くの銭湯……」
「あ〜、そういうこと。でも、だからってシャンプー置くとこに調味料置かねぇよ」
「日付は大丈夫だから他の捨てる」
「分かった」
「カビはえてる」
そりゃ、そうだよね。こんな湿度の高くなるところに置いてれば。
たまに、テレビで調味料を風呂場に置く人がいるとかやってたけど、本当にいると思わなかった。
「換気扇くらいせめてつけてほしいな」
「……壊れてるって……」
「……大家に言おうぜ」
「……コク……」
なんで高林さんが頷く。
あ、でも、大家さんに言おうにもこの有様じゃ無理か。
「早いとこ終わらせてここから出ようぜ。身体に良くない」
「……コク……」
一度に大量にゴミを取り、ゴミ袋に入れていく。
湿気があるから物によってはヌメヌメしてるんですけど。
「あー、鼻が変な気がする」
「制服クリーニング出すべき」
「そうだな」
「きゃあー!!」
「お、おっと……?」
高林さんが悲鳴を上げたと思ったら、自分の胸に衝撃が走った。
視線をそこに向けると、高林さんが口をパクパクして余裕がない様子。
「ごごご、」
「も、もしかしてG?」
「……コクコク……」
怖さが勝ってるのか身体をさらに密着させてきた。
頷くことによって高林さんの髪から良い香りがする。
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