第74話「お兄ちゃんにだけは言わないでください」

[花咲:え、どの辺?]


 近くって定義が曖昧。ただ高林さんがメッセをしてくるのは理にかなっているというか。


[莉音奈:今は後ろ]

[花咲:えっ?]


 慌てて振り向くと、なぜか制服のままの高林さんが足をアスファルトにつけていた。

 今ばかりは見える生足にドキッとこない。


「どうした?」

「……パートナー……」

「もしかしてどこかで見てた?」

「……コク……」


「あ、だから制服なんだ」

「……コク……肩出しのときは……日焼け止め塗る……大丈夫……」


 その手があったか。でも、ちょっと相手のことを考えてなかった。

 そこが落ち込んでる理由なんだけど。

 高林さんのフォローを無下にはできないし受け取っておこう。


「なぐさめてくれてありがとう」

「……コク……」

「送るよ」

「……ありがとう……」


 今さら生足にドキドキしながら高林さんを家まで送り届け、俺も自宅へ帰還した。



 ☆☆☆



 いつもの知り合い(女)までもエロくなるのが夏の唯一のデメリット。

 目のやり場に困るというか、変に意識してしまう。


 ちなみに、美沙の今日のブラはサマーマジックで魅力的に見える。

 それと格闘すること四時間。昼食になりいつものベンチ。

 めちゃくちゃ精神的に疲れた。


「どうしたの凪。太陽光で溶けそうになってるけど」

「……ちょっとな。スネ毛は燃えたかもしれない」


「元気そうでなにより」

「そりゃどうも」


「ていうか、夏は中で食わないか?」

「あたしは無理。学年違うところに入るとかそこまで勇者じゃないし」


 人のこと追いかけ回す度胸あるんだからそのくらい朝飯前じゃないのか。

 近頃の一個下はよく分からん。


「……」

「ん?」


 高林さんと目が合った。やばい、かわいい。

 高林さんで飯食えそう。


「……」


 スマホを取り出し、視線を落とす高林さん。

 それと同時に俺のスマホが震えた。

 目の前にいるのに口頭で言わないのだから大事な用事なのだろう。


[莉音奈:あたしも依頼していい?]

[花咲:全然いいぞ]


[莉音奈:ありがとう。今度の休みお願いします]

[花咲:オッケー]


 これは確かに誰かに聞かれたら騒ぎになるね。

 賢明な判断。


 ――今度の休み当日。

 美野里さんと行ったところ行ってくれと言うのでデパート内の服屋にやってきた。


「……花咲君……選んで……」

「インスピレーションでいいか?」

「……コク……」


 やっぱり高林さんは、スカートだよね。

 イメージ的にロリータみたいな服が似合いそう。


「……それ? ……」

「似合う」


「……コク……買う……」

「あ、ちょっ……」


 行ってしまった。高林さんにしては珍しく動きが早い。

 着てきてくれた日は写メろう。


「……」

「ん? どうした?」


 戻ってきて見つめてくるので、問うと後方へ目配せをする高林さん。

 知り合いでもいたのだろうか。


「……紗衣ちゃん……」

「たまたま来たんじゃないか」

「……ずっと……つけてきてた……」

「忠告しに行こう」

「……こっち……」


 高林さんに先導してもらって紗衣ちゃんの進路を断つ。

 これはいわゆるストーカーにあたるのではないだろうか。


「なにか言うことは?」

「お兄ちゃんにだけは言わないでください」

「じゃあ、もうこういうことやらないか?」


「もちろんです!」

「なら、今回は許す」

「ありがとうございますっ」


 恐らくまた日数が経ったらやるだろうから一割たりとも信じちゃいない。

 だが、TPOを考えて建前で謝罪を受け入れた。

 目立たないうちにこうべを下げる紗衣ちゃんを尻目に服屋をあとにする。

 一度明にはクレームを入れた方がいいかもしれない。

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