第34話「リスキーもリスキー」
夏の日の出は早いもので、午前三時を半分を過ぎたまでというのに、もう外は明るさをわずかに感じるそれである。
なんで前は普通に眠れたのか不思議でたまらない。
寝返りでこっちを向く高林さんにドキッとして、はたまたよそを向いたときに背中のブラホックの浮き加減にこれまたドキッとして。
精神衛生上よろしくなさすぎる。
ちょっとトイレにでも行こうかな。
最悪はトイレでウトウトしてしまおうと考えて花咲が立とうとしたら、彼とは反対側が突如明るくなりその光は天井を照らした。
な、なんだ?
「……どうしたの……?」
「た、高林さん。起きてたのかっ」
「……違う……目覚まし……」
「え、音なんてして……。あ、今の光がそうか」
「……イヤホン……」
「あ、なるほど」
アラームをイヤホンして利用する人初めてみた。
電気をつけると、耳からイヤホンを取って専用のケースに入れる高林さんはベットを降りる。
ていうか、早くね。アラームを設定する時間間違えたのか?
「……飛行機……時間……」
「昨日言おうよそれは」
「……ごめんなさい……」
まさかしっかり者の高林さんがそんな誤りをするなんて思いもしなかった。
ペコリと頭を下げ、謝意を表してくるのでそれを受け入れる。
飛行機の時間は我慢にも変えられないからな。
花咲が、そう思いながら上着に手をかけ半分脱ぎかけたところで
「……びっくりする……」
と、莉音奈はゆっくり半回転した。
なんのためらいなく脱いでしまった。
耳の上部が赤くなっている。
「悪い。無神経だった」
「……先着替えて……」
「わ、分かった」
もうねこういうときはスピードが命。おちおちゆっくりしていられない。
ささっと持ってきた服に着替える。人生で一番早く着替えたよ。
「着替え終わった。俺違うところに行っ――」
「後ろ向いてて……」
早朝にバイト仲間の着替えする音を背中で聞くってどんな修行っ。
従うしかないから大人しく動くけど、スルスルと布が肌に擦れる音。
少しだけ目の端に映るようにすればバレなくね?
ていうか、高林さんは俺の背中を見ているのだろうか。
リスキーもリスキー。
恐らく高林さんの父上にバレたあかつきには始末されるに違いない。
それでも見たいと思うのが男。都合の良い鏡があればな。
――やっぱりうん。ぎこちない感じになるよね。
一瞬高林さんの母上にバレかけたがセーフだった。
「……同じところ……回ってる……」
ラストの出張地の沖縄に向かう飛行機に現在搭乗中。
そんな機体は同じところを回ってるらしい。
なにかイレギュラーが発生したのは間違いないな。
「なにかあったっぽい」
「……コク……」
「でもまぁ、100%安心できるから大丈夫」
『お客様にご案内いたします。当機は先行の飛行機が非常事態を宣言しましたのでしばらく上空を旋回いたします。お急ぎの……』
機長の優しいアナウンスに安堵する。
いつもとは違う動きをされるとやっぱり不安になるものよ。
「多分バードストライクだろ」
「……バード……鳥? ……」
「鳥がエンジンに入ったかなんか異常が出たかだな」
「……」
「大丈――ガタンっ。
大丈ばなかった!
不安そうな瞳で見つめてくる高林さんを安心させようとしたら浮遊感とともに衝撃。
突如として機内は女性・子どもの悲鳴でにぎやかになった。
沖縄空港周辺は積乱雲が出来やすく気流の関係だがなんだかで機体が一気に高度を下げてしまうことがあるらしい。
もちろん運行上問題ないパターンがほとんど。
俺の腕を握って超まばたきをする高林さんの手をさする。
気休めだが、落ち着くはず。
「……ありがとう……」
「絶対大丈夫だから」
高林さんが頷いたのを確認し、機内にある機体の現在地を表現するテレビを見てみる。
沖縄と書かれたところへテレビの機体の機種がそこへ向いていた。
お、ということは、着陸する方向に傾いたってことだね。
それを裏づけるようにアナウンスがかかり大きな鉄の塊は武事に車輪を地面につけることが出来た。
地上独特のゴーという音が薄れ、なん回か小さな遠心力を感じたあと機体は動きを止める。
「……着いた……」
「なんかもう行く前から疲れた」
添乗員に見送られしばらく空港内。
肩を落とし、ため息をつく二人。
それを見た莉音奈の母は
「お父さんにバレる前に腕離しておきな」
と苦笑して二人に助言した。
「っ……」「おわっ」
無事につけるか不安だったのが延長して腕組むことで落ち着きを保てていたらしい。
パッと腕から手を離されたので衝撃がすごかったっ。
「どうした?」
すんでの差でしたわ! キョトンとした表情をしていることからぱっぱをかけてはいないようだが。
「い、いやなにも」
「……コク……」
「なんか様子が変じゃん」
「いや、いつも通りよ。遅れて着いたんだから急がないと」
「おっとそうだな。急ごう」
スタっと歩き出す高林さんの父を横目に高林さんの母が俺たちにウインクした。
助かったマジで。
仕草で礼を示し、高林さんの父に追随する。
ていうか、よくウインクできるな。
両目つぶっちゃってなにやってるか伝わらないパターンが大半なのに。
タクシーを使い、今日の依頼主の元へ。
そこは、慣れ親しんだ緑の風景。
依頼主に挨拶すべくタクシーを降り、沖縄独特の建物へ向かう。
「あ、こっちこっち」
と思ったら、横から声。振り向くと四十代くらいの男性が俺らに手招きをしていた。
その人の背景にツルが見える。
ないしはヘチマ?
「おはようございます」
「えんど遥々ようこそ」
「ありがとうございます」
「今日はゴーヤの収穫を手伝ってほしいです」
残念! ゴーヤだった。
ツル科の植物としては合ってるけど。
「分かりました」
「軍手とハサミです」
かごに入っていたそれを装着。
呼びかけられたときはあまり後ろが気にならなかったけど、ピントをゴーヤ畑へ移すと見渡す限りツルツルツル。
まさかこの量を全部収穫してくれと言うのだろうか。
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