第33話「ヤンデレチックな瞳」

「お、さっそくか」


 明の妹である紗衣ちゃんからメッセが来ていた。

 なんか新鮮かもしれない。

 普段たいじしてしか会話したことがない人とそれ以外でやり取りしてる。


[紗衣:送ってみました]

[凪:おう、サンキュ]

[紗衣:今どこですか?]

[凪:北海道]

[紗衣:ほ、北海道。なんでも屋さんて大変なんですね]

[凪:いや、多分こういうことしてるのはうちのところだけだと思うぞ]

[紗衣:なるほど。まさか北海道まで行ってるとは思ってなかったのでメッセージ送ったんですけど]

[紗衣:疲れていたらごめんなさいなので、おやすみなさい]

[凪:ありがと。おやすみ]


 なんて良い子なんでしょ……。

 気遣いができるなんて。

 明と同じ親から生まれたとは想像できない。



 ☆ ☆ ☆



 北海道を転々として依頼をこなすこと三日が経過した。

 現在は栃木県。とあるラーメン屋。

 ここで今日は昼食をとることになった。


「……どれがいい? ……」

「初めてきたところは醤油ラーメンとか言うのを小耳に挟んだけど、俺はどこ行こうが味噌ラーメン・餃子」

「……分かった……」

「へぇ、意外。花咲ってマイルールあるタイプなんだね」

「意外ですか?」

「うん。決められないかと思った」


 あまり絡んだことない人に言われるとムカつく。

 ちょっと図星なのがまたそれに拍車をかけている。

 ラーメン屋とかは決まってるけど、メニューが多かったりジャンルが多いと優柔不断になってしまう。


「どうなんですか。決まったんですか?」

「私は花咲君と同じの」

「ちなみに俺も」

「味噌ラーメンと餃子四つかい?」

「あ、はい。お願いします」


 俺たちが中々注文しないので、しびれを切らした店主らしき人物が誰に言うでもなく尋ねてきた。

 そうですよね。お昼時で忙しいの忘れてましたよ。

 客商売とは凄いもので迷惑をかけられた客にさえちゃんと食べ物を提供した。


 あのあとほどなくしてラーメンと餃子がやってきた。

 ニオイからして美味い。だからか目立つ餃子の形っ。

 超いびつというかとてもラーメン屋さんが作ったとは思えない。


「美味しかったか?」

「はい、とても」


 なして俺を見る。店主は、俺の答えにニコリと笑みを浮かべた。


「そうかそうか」

「今日は、餃子を包むのと接客で良かったんですよね」

「あぁ、問題ない」

「じゃあ、私と旦那は接客始めちゃいますね」

「えっ!? まだ俺食べて――」

「花咲君に食べてもらいなさい」

「……くぅ!」


 悔しそうな表情をして俺の前に餃子を置く高林さんの父さん。

 やっぱり今の時代はかかあ天下なんだな。

 醤油は自分の使お。


 形はいびつながらも味は超うまい餃子を食べ終え、他の客がいなくなったのを見計らって厨房の中に入る。

 へぇ〜。意外と厨房の中って店の全体を見渡せるんだ。


「んじゃ、そんなわけでよろしく」

「……あの……」

「どうした、少年」


 花咲が店主に遠慮がちに声をかけた。

 そんな彼に店主はラーメンを盛りつけながら答える。


「素人が包んでいいんですか?」

「大丈夫大丈夫。ウチチェーン店じゃないし。型にはめてやってるわけじゃないから。それに形がいびつな方があじがあっていいだろ」


 笑みを花咲に見せ、完成したものを接客に渡す。


「まぁたしかにそうですね」


 適当に相づちを打ち、餃子の皮を手に取った。

 なんかこの手触り懐かしいな。

 小さいとき親と一緒にひき肉をコネコネして作ったっけ。


「ところで、君達はカップルなのかい?」

「……唐突ですね」


 まるで今までの話をクッションにでもしたかのような問いかけでしたよ。

 苦笑する花咲を構うことなく店主は「どうなのよ」と作業そっちのけで尋ねてきた。


「違います。カップルじゃないですよ。バイト仲間です」

「いや、ウソだね」

「ウソじゃないですよ」

「二人の行動で分かる。観察眼は良い方」


 だとしたら気のせいも良いところじゃん。

 どうしたら俺と高林さんが付き合ってるように見えるか。

 メガネかけた方がいいんじゃないかね、この人。


「……バイト仲間……」

「あ、そう。あまり言うとセクハラになっちゃうから止めておくよ……」


 ――あー、やりにくかった!

 ずぅーと俺らをまさに観察してくるから。

 ちゃんとそこでバイトしてたらセクハラで訴えてるところだ。


 ホテルに到着し、チェックインを済ますと、なぜか受付さん? がキーカードを二枚しかくれなかった。

 え、俺ハブり?


「なんか三部屋予約してたんだけど、手違いで二部屋しか取れなかったの」

「だから莉音奈と花咲君で一部屋。俺らで一部屋ということで」

「そ、それは良くないんじゃ……」

「大丈夫。信じてるから」

「まさかは起こるわけないでしょ。ね?」

「もも、もちろんですけど。なんで他の組み合わせにしないのかなと」

「そんなの決まってるだろ。莉音奈が嫌がるからだよ」


 年頃女子来たっ。やっぱり高林さんも女の子っすか。

 最近ではそういうこと気にしない女子も増えてきたって聞いたけど。


「かと言って私とリーが一緒で男二人が同部屋でも気まずいでしょ?」

「はいっ」

「おい少年。即答は傷つくぞ」

「あ、すみません」

「……目立つ……」

「あらホント」

「行くぞ」


 逃げるようにロビーを後にする。

 SNSにあげられていなければいいが、内容まで投稿されると芳しくないんだよな。

 学校で釈明するのが容易じゃなくなる。

 周囲を警戒しながら泊まる部屋に到着した。


「……着いた……」

「あぁ」

「……」

「うわ、凄い良いところ」

「……コクコク……」


 珍しく高林さんが大きく頷く。

 それもそのはずで部屋の豪華さが想像以上。

 出張で泊まるにしてはクオリティが高すぎる。

 ……ん!?


「べ、ベットが一つ」

「……ダブルベット……」

「サイズが?」

「……多分……ツインベッドが……ベットが二個……」


 そっちにしてほしかった……。

 これのことあの人達は認識して俺らを同じ部屋にしたのかな。

 知らなかったらあとが怖そう……。

 ブブッ。お、紗衣ちゃんかな。


[紗衣:お疲れ様です?]

[凪:え、なんで分かった?]

[紗衣:勘です。そろそろ落ち着いた頃かなと]


「……誰……」

「友達のいもう……と……」

「……そう……」


 そう言って高林さんがテーブルに荷物を置いた。

 ここ、怖かった……!

 まさか高林さんがヤンデレちっくな瞳を作れるなんて。

 今日もやっぱり睡眠はとれなさそうだ。

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