第93話「行事ごとにお金使うのは普通じゃない?」

「逃げてないし」


 なんで同じの食べるって言ったら逃げることになるんだよ。

 一緒の方が揉めなくて済むじゃん。

 時間もかからないし。


「そういうことにしとくよ」

「納得いかないっ」


 言い方がなんかイラつく。

 さも私は間違ってないけどみたいな振る舞いよ。


「私親子丼」

「俺もそれにする」

「残念。一つしかないです」

「チッ……」

「半分個する?」


 いたずらっ子みたいな目をして提案してきた。

 彼氏いるんだから止めた方がいいと思うんだけど。


「腹減る」

「理由がなんか嫌」

「足らないから。う〜ん、からあげ弁当にしよう」

「ほんとに良いのそれで」

「これしかないだろ」


 再確認してくる意味ないし。

 ドレッシングの和風でも買っておこう。ここのからあげは少し薄い。

 平日はあまり弁当を置かないのかも。

 いまフードロスが騒がれている世の中だからな。


「今日は、売れ行きいいね」

「元々そんな無かったんじゃないか?」

「まぁ、平日だし」

「夕方の値引きハンター狙わないんだな、ここは」

「地域によって買う買わないあるんじゃない?」

「困る特色だな」


 グゥ……。ヤバい、美沙に聞こえたかもしれない。


「……そろそろ行こうか」

「うん、腹減った」


 やっぱり聞こえてたよね。

 苦笑いを浮かべる美沙と共に会計を済ませ、美沙宅。


「ちょっと待ってね、今味噌汁作るから」

「え、今から?」

「うん、すぐ出来るから」

「インスタントだろ?」

「そんなわけないじゃん。ちゃんと一から作るんだよ」

「暇になるから俺も手伝う」

「……テレビ観てて」

「頑なだなもう……」


 渋々イスに座る。スマホでも見てるか。

 ……あ、美野里さんからだ。


[千和:質問です]

[花咲:はい、なんでしょう?]


 実はさっき会計したレジじゃないレジに美野里さんがいた。

 なんとなく質問の内容が分かった気がする。


[千和:二人は本当に付き合ってないの?]

[花咲:付き合ってないって。家が隣ってだけ]


 もうなん回聞くのよ……。

 短い間に早々関係変わらないって。


[千和:それで一緒にお弁当買う?]

[花咲:そういう形があったっていいじゃないか]

[千和:いや、ダメって言ってないよ]

[花咲:ごめん、強く言った]

[千和:うぅん、平気]


 反比例したスタンプなんですけどっ。

 平気っぽくないそっぽを向いた顔のスタンプ。


[花咲:スタンプが平気って受け取れないんだけど]

[千和:冗談冗談]

[千和:花咲君のこと信じるね]

[花咲:助かるよ]

[千和:じゃあ、また学校で]


 よし、終わった。

 スマホをスリープにし、背もたれに背中を預ける。


「幼なじみって難しいよね」

「うわっ!」


 後ろから声が聞こえ、肩を思わず跳ねさせてしまった。

 いつからいたんだろ……。


「出来ました」

「お、おう。サンキュ」

「やっぱり味噌汁は必要だよ」

「まぁ、あって越したことはない」

「で、美野里さんとはどんな仲なの?」


 美沙さんアンタもか。

 弁当のフタを開け、そう訊いてきたので「知り合い」と答えておいた。


「あのやり取りで友達って答えないって凪……」

「あ、友達友達」

「いや、もう無理でしょ」

「なんかグイグイくるタイプ苦手かもしれない」

「バランスだよね」

「そうだな」


 モグモグしながらスマホを見だす。

 行儀悪いと言いたいところだけど、そんなことを言ったら大多数の人を敵に回しそうなので伏せておこう。


「お母さん二十時くらいに帰ってくるって」

「良かったな、早く帰ってきて」

「……うん」


 残念そうな顔するなって。

 おばさん見たら涙ちょちょぎれるぞ。



 ☆ ☆ ☆



「トリックオアトリート」

「……え?」


 ハロウィン当日。

 美沙の家に集合してすぐ紗衣ちゃんが物欲しそうな瞳を向けてきた。


「お菓子ください」


 さらには手のひらを差し出してきた。

 自分で取りましょうよ……。


「テーブルに置いてあるよ」

「知ってます」

「凪ワザとやってんのか?」

「なにが?」

「お、おい。マジかよ」


 結局呼んだ明が渋い顔をした。

 やっぱり呼ばなきゃ良かったかな。


「トリックオアトリートって言われたらお菓子を渡すんだよ凪」

「じゃあ、どれがいい?」


 どれにするかは個人の自由だからな。

 手のひらにお菓子を乗せて選んでもらうことにする。


「凪君で」

「お菓子って言ったでしょ」

「……キャンディで」


 紗衣ちゃんは悔しそうに俺の手のひらからキャンディを取った。

 一瞬身の危険を感じた。震えにも似た感覚。


「じゃあ、お菓子一通り食べたらコスプレしよっ」

「……は?」


 表情がコロコロ変わるな。

 美沙の一言で紗衣ちゃんは俺の前では見せたことのない顔をした。


「紗衣落ち着けって」

「落ち着いてるし」

「コホン……。衣装はみんなの用意したから」

「どこに金使ってるんだよ……」

「行事ごとにお金使うのは普通じゃない?」

「……普通……」

「だよねっ」


 高林さんいつ来たんだろ。

 はしゃぐ美沙と無表情の高林さんはなんで仲が良いのか不思議である。

 両極端な気がするんだけど。女子のそういった仕組みはいまいち分からん。


 ――お菓子を食べるのもそこそこに、コスプレ衣装に着替えた。

 そこで一名「おい、小堀」と異を唱えるもの。


「なに?」


 気分を害したのか美沙が怪訝そうな表情を見せる。

 俺に向けたものじゃないのにショックを受ける自分がいた。

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