第5話


「え、なにこれバグった…?」


俺のステータスを表示した半透明のウィンドウが突然暗転した。


と思ったら、急に背景色が変化し、文字のフォントが変わった。


ステータス画面が全体的にカッコよくなっている気がする。



シークレットステータスが解放されました。


ステータスが更新されました。



目の前にはそんな文章と共に、完全に新しくなった俺のステータス画面が浮かんでいる。



「え、これが俺のステータス…?」


新しくなったステータスを見て呆然とする俺。


それもそのはず、更新された俺のステータスは、各種パラメータの数値が大幅に上昇していたからだ。


いや上昇なんて生ぬるい代物じゃない。


ほとんどドーピングに近い。


具体的には桁が六つほど変わっている。


最初の数値はなんだったのだろうと言いたくなるほどの変化だった。


あんなに弱そうだった俺のステータスが、今では王城でみた二人の勇者のそれよりも圧倒的に強そうに見える。


「これが俺の本当のステータスなのか…?」


突然のことすぎて何が何だかわからない。


俺はもう一度上から下まで自分のステータスを丁寧に確認してみる。


「真の勇者…え、俺ってやっぱり勇者だったの?」


王城でみた時はなにも書かれていなかったはずのジョブの欄に今は『真の勇者』という文字が表示されていた。


それから魔法や加護の欄にも色々と強そうな文字列がたくさん並んでいる。


「女神の加護……完全治癒…聖剣召喚……これもさっきまでなかったやつだよな…一体なんなんだ?」


状況から推測するに、先ほどのYES or NOの選択肢によって俺のステータスが変わってしまったと考えるのが妥当だろう。


もしあそこで NOを選んでいたら俺は元の弱いステータスのままだったのだろうか。


そう考えるとゾッとする。


「やっぱり俺は勇者だったのか…」


システィーナは異界から召喚される人間は例外なく『勇者』であり特別な力を持っていると言っていた。


てっきり俺だけは例外なのかと思っていたがそんなことはなかったようだ。


だが、なぜか俺の力はシスティーナからは見えづらい形になっており結果として俺は見限られ、彼女の手から離れることになった。


それがいいことなのか悪いことなのか、現時点で判断はつかない。


ただ、だいぶステータスの見栄えがよくなったことで俺の気持ちも上向いてきた。


「このステータスがどれぐらいのものなのかわからないけど……あれだけ褒められてたあの二人の勇者よりも数値上は強いわけだし、かなり強い部類だと信じたい」


加護や魔法に関しては、まだこの世界の知識が乏しい俺には判断が難しいが、それでも俺のステータスの数値はシスティーナに誉められていたあの二人の勇者よりも桁が三つほど大きかった。


比較対象が少ないので断言はできないのだが、かなり強い部類のステータスなんじゃないだろうか。


「なんかいける気がしてきた」


城を追い出され、なにもないままで異世界に放逐されてどうしようかと思ったが、なんだかなんとかなるような気がしてきた。


「まずは寝床と食料の確保だな」


俺は一度足を止めて王城の方を振り返ったが、すぐに首を振って前を向き、城下町へ向かって歩き出す。


新しくなったステータスをシスティーナに開示すれば、王城で面倒を見てもらえるかもしれないと一瞬考えたが、すぐにその考えを打ち消した。


あんな理不尽な形で追放してきた連中の元にお世話になりに行きたくないというささやかなプライドもあるし、何よりシスティーナは信用できない。


彼女の元にいるよりも、自分で生きる道を模索した方がまだマシだと俺には思えた。


最優先は、寝床と食料の確保。


それができたらこの世界でお金を稼いで自立する方法を模索しよう。


そんなことを考えながら俺は意気揚々と城下町へ降りていった。



そして数時間後。



「腹へった……寝床もない…どうしよう…」


日が沈み、城下町によるがやってくる中、俺は寝床も食料も確保できず、絶望の淵に立たされていたのだった。

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