第35話


大剣を構えるガレスに俺は突っ込んでいく。


剣の扱い方なんて、まともな戦闘経験がない俺にはもちろんわからない。


なのでこれまでの若者たちとガレスとの戦いの見様見真似でやるしかない。


俺は両手で握った剣をガレスに向かって横薙ぎにした。


ガァン!!


「うお!?」


ガレスが俺の降った剣を大剣で受け止めた。


思ったよりも鈍い音がなり、ガレスの巨体が後ろに傾く。


これまで俺より力もスピードもありそうな若者たちの剣を受けてびくともしなかったガレスの体が傾いたのは、俺からしても予想外だ

った。


油断していたのだろうか。


それとも足でも滑らせたか。


わからないが、ガレスの重心がずれていない今がチャンスだと思った。


「うおおおおお」


俺はさらにガレスの懐に踏み込み、そのぐらついている巨体に向かって剣を振り回しまくった。


ガァン!!


ゴォン!!!


ガゴォオオン!!!


「ぐっ…ぐうっ」


立て続けに鈍い音がなった。


ガレスは後ろによろけながらも、俺の攻撃を防いでいた。


体の動きや剣の握り方で攻撃の軌道がバレているのか、ガレスは先回りして大剣を俺の剣の軌道に滑り込ませている。


ベテランの技を見せられている感覚だ。


このままだと永遠に攻撃を防がれると思い、俺はフェイントを使ってみることにした。


「右薙……と見せかけて下から切り上げ!!!」


「…っ!?」


ガァン!!!


バリィイイイイイン!!!


これまでとは違う、甲高い粉砕音が訓練場に響いた。


俺のフェイントに一度は引っかかったように見えたガレスは、咄嗟の判断で大剣を回転させ、その腹で俺の切り上げの攻撃を受けた。


するとたまたま脆い部分に当たったのか、ガレスの大剣にヒビが入り、粉々に砕けて破壊されてしまった。


「え…」


「なん、だと…?」


俺もガレスも呆然と立ち尽くす。


「うおおおおお!!!」


「マジかよ!!!」


「剣が壊れたぞ!?」


「なんだ今の武器破壊の技か!?」


「信じられねぇ……!あいつ互角に渡り合ってるぞ!!」


戦いに夢中になっていて気づかなかったが、何やら周りはかなりの盛り上がりを見せていた。


俺とガレスの戦いを見ていた他の冒険者志望の若者たちは、かなり動揺しているようだった。


「あ、あいつ……この中で一番動きが速いぞ…」


「体格も全然違うのに……力負けしてねぇ…」


「むしろ押してなかったか…?」


「何者なんだあのおっさん……」


「あんな俊敏に動けるおっさん見たことないんだが…」


あちこちから若者たちの驚いたような声が聞こえてきた。


俊敏?


俺の動きはそんなに良かったのだろうか。


彼らの見様見真似でがむしゃらに剣を振っていただけなので、側から見たらさぞみっともなく映っているだろうと思っていたのだが、そんなふうに評価されて俺は戸惑ってしまう。


「おい」


「は、はい…」


と、ガレスが俺を呼んだ。


俺は恐る恐るガレスを見上げる。


「お前、何者なんだ…?」


「え…?」


ガレスは破壊された自らの大剣と俺を交互に見ながらそういった。


「武器を破壊されたのは久々のことだ……一体何をした…?」


「す、すみません……何か悪いことをしてしまったでしょうか?」


「いや……違う。俺はお前の力に驚いている。この剣はな……上級モンスターとの戦闘でも使えるように俺が特別な鍛冶屋に打たせた特注品なんだ。ちょっとやそっとのことじゃ、壊れねぇ。お前のそのパワーの源はなんだ?」


「パワー…?いや、正直わかりません。俺はただ必死に剣を振っていただけで……あの、特注品の剣を壊してしまってすみません…」


「…なんだよそれは。調子狂うなぁ」


ガレスはガシガシと頭を掻いた。


「お前みたいな妙な奴に会ったのは初めてだ」


「え…?」


なんかいきなり変人認定されてしまった。


ガレスは俺を訝しむような視線で見てくる。


「その歳にしてとてつもないパワーがあり動

きも早い。なのに戦闘経験はなさそうだ。動きを見ればわかる。はっきり言って素人のそれだ。次の攻撃の軌道がバレバレなんだ。だが速さがあるから対応に手間取った。お前の動きを見てからでは間に合わないから、俺は攻撃の軌道を予測してお前の攻撃を防いでい

た」


「は、はぁ」


これは褒められているのだろうか。


それとも貶されているのだろうか。


「普通技術とパワー、速さは釣り合いが取れているものなんだがな……お前の場合、非常にアンバランスだ。体のポテンシャルに技術が全く追いついてきていない。お前みたいなやつは見たことがない」


「す、すみません…」


「いや、褒めているんだぞ?ポテンシャルはあると言っているだろうが。技術がついてこれば、お前は一流以上の冒険者になれるだろうな」


「じゃあ、ありがとうございます?」


「……やはり調子が狂うな」


ガレスがガシガシと頭を掻いた。


「それだけの力を持っていて驕りもなし、か。わけがわからん。お前みたいなタイプは今まで見たことがない」


「まぁ、それは、俺も若くはないので」


「ふむ、そういうことにしておこう」


ガレスが半分になった大剣を、鞘に収めていった。


「ともかく、合格だ。お前にはとんでもない

ポテンシャルがある。技術を磨けば間違いなく大成するだろう。俺から言えるのはそれだけだ」


「ありがとうございます!」


よくわからんが、合格したらしい。


ひとまずこれで冒険者になれたぞ!と俺はガッツポーズをとる。


戦い方は素人だと言われたが、伸び代はあると保証もされてしまった。


俺は街を出る前にイレーナに言われたことを思いだす。


やはり彼女の言った通り、俺には冒険者の適性があったのかもしれない。


「あ、あんた…そんなに強かったのか…?」


「なんなんだよ、こんなおっさんに…俺たちが負けるなんて……」


「お、おじさん……もしかしてすごい人だったの…?そ、そうならそうと言ってくれればいいのに…」


試験を合格で終えた俺が若者たちの元に戻ると、どうやら戦いを見ていたらしい先ほどの三名の若者に出会った。


試験が始まる前は明らかに舐めた態度をとっていた三人は、今は俺を畏怖するような目で見つめてきていた。


俺はビクビクした三人に何か言ってやりたくなったが、やめておいた。


謝罪させるなんてみっともない。


過ちは誰にでもあることだ。


きっと三人は今日のことを糧にこれから成長していくことだろう。


俺は何やら態度を変えてパーティーがどうだの、ここであったのも何かの縁だのとわけのわからないことを言ってくる三人を無視して、これからの冒険者生活に思いを馳せるのだった。

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