第107話
「やれやれ……本当に疲れた…」
冒険者たちのどんちゃん騒ぎからなんとか抜け出してきた俺は、ため息を吐きながら家路についていた。
ただでさえストーンドラゴンとの戦闘でそれなりに体力を消耗していたのに、冒険者たちの騒ぎに付き合わされ、さらに疲労を蓄積させてしまった。
いくら加護の力があるとはいえ、さすがに応えた。
早く帰って体を休めようと思いながら、俺は夜道を歩く。
「おかえりなさいませ、ご主人様」
「おかえり……今日は、遅かった…」
マイハウスの玄関の扉を開けると、いつものようにシエルとルリィが出迎えてくれた。
今日はいつもよりも帰宅時間が遅れてしまったのだが、二人は俺の帰りを律儀に待っていたようだ。
「出迎えありがとう。先に寝ててもよかったの
に」
俺は健気な二人の頭を撫でる。
二人は気持ちよさそうに目を細めた。
「そういうわけにはいきません。ご主人様を出迎えないとぐっすり眠れません」
「ん……帰りが遅いから…心配だった……何してたの?」
「すまん。今日はちょっと色々あってな。冒険者たちに酒や食事に付き合わされていたんだ。なんとか抜け出して今帰ってきたよ」
俺がそういうと、シエルとルリィが顔を見合わせてほっと胸を撫で下ろした。
「よかった。ご主人様の帰りが遅かったので何かあったのかと心配しました」
「うん…本当によかった……何かあったのかと思って……ちょっと心配した…」
「悪かった。特に二人が心配するようなことは何もなかったよ」
どうやら二人は俺の帰りが遅いので心配してくれていたようだ。
俺は二人にただクエストをこなして冒険者たちと酒を飲んでいただけだと説明すると、二人は安心したような表情を見せた。
「よかったね、シエル……あの女に私たちのご主人様奪われちゃったのかと思ったね…」
「うん……本当に安心した……もしかしてあの女とそういうことをしてるのかと……ちょっと考えてしまったから……」
「…?二人とも?何か言ったか?」
「なんでもありませんよご主人様」
「別に……何も…」
「…?」
何か二人でボソボソと言い合っているシエルとルリィ。
俺がなんの話をしているのか尋ねても、二人は首を振るだけで教えてはくれなかった。
「それよりご主人様。今日はずいぶんお疲れの様子ですから早く中に入って休んでください」
「そう……ご飯の準備もできているし……お風呂も沸かしてある……どっちでも好きな方を選んで…」
「お、おう…いつもありがとうな」
二人の会話の内容が気にはなったのだが、とにかくその時は疲れていたため、俺は二人に言われるがままに体を清め、腹を満たし、就寝したのだった。
「ん…ご主人様…いい寝顔です」
真夜中。
こっそりと自らの主人のベッドに忍び込んだルリィは安らかな寝顔を堪能する。
いまだけは自分だけがこの寝顔を独占できる。
そう考えるとルリィは思わずニンマリと頬を歪めてしまう。
「ルリィ……何してるの……」
「…!?しえ」
「しー……大声出さないで」
「…っ」
突然背後から名前を呼ばれてシエルは驚く。
いつの間にかご主人様の寝室にシエルもやってきていた。
こっそりとベッドの中に潜り込んでいたルリィを
見て、ジトッとした視線を送ってきている。
「べ、別に私は何も……ご、ご主人様の様子をちょっと見にきただけで…」
「嘘ばっかり……大体何を考えているかは想像できる……ルリィ、油断ならない子。シエルが見張っておかないと…」
そう言ってシエルもルリィ同様ご主人様のベッドに潜り込んでくる。
二人は布団の中でモゾモゾと動きながら、ご主人様の安らかな寝顔を観察する。
「よく寝てる……そうとう疲れてる…みたい」
「そうだね。ご主人様、こんなに疲れているの珍しい。何があったんだと思う?」
「さあ……でも、危険な目にあったわけじゃないみたい……あと……あの女と会っていたわけでもなくてよかった……」
「シエル、心配してたもんね。可愛い。あのギルド嬢に大好きな人が取られないか心配だったんだね」
「む……ルリィもシエル以上に心配してたくせに……」
「…っ!?わ、私はそんなこと……」
「隠したって……無駄…ルリィのことは大体……わかるから」
「…ど、どうかしらね」
「私に隠れて……夜な夜なこの部屋に忍び込んでるの……シエル、知ってるから」
「…っ」
「ほら…きて。今日は、休ませてあげないと…」
「わ、わかったよ」
シエルに連れられてルリィは仕方なくご主人様の部屋を出た。
二人は、二人のベッドがある部屋まで戻ってきて、それからいつも以上に疲れていた様子のご主人様に何があったのかをあれこれ小声で話し合った。
それから数日後、自らの主人がSランク昇格試験に合格し、最高ランクの冒険者の称号を手に入れていたことを知った二人は、心底驚くことになるのだった。
〜あとがき〜
近況ノートにて3話先行で公開中です。
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