第106話
Sランク昇格試験の討伐対象だったストーンドラゴンを無事に倒した俺は、ストーンドラゴンから討伐証明のための素材を剥ぎ取り、石山から街へと戻ってきた。
「おいあれ…」
「すげぇな…」
「ドラゴンか…?」
「なんのモンスターの素材だろうな…」
「見たことない冒険者だな……ランクは幾つなんだ…?」
「あいつあれじゃねぇか?最近売り出し中の半年でAランクまで到達したっていう…」
巨大なドラゴンの爪と鱗を持って歩いていると、街の人たちが俺のことを見てヒソヒソと噂をする。
俺は気にすることなく夕刻のカナンの街をギルドに向かって歩き、中へと入っていった。
「おぉ…」
「あいつ…!」
「もう帰ってきたのか!?」
「見ろよあれ…」
「おい、Sランク昇格試験に出てったやつがもう帰ってきたぞ…」
「あいつが噂の…」
「嘘だろ!?マジでドラゴン一人で狩ってきたのか…!?」
「あれ…どう見てもドラゴンの素材だよな…嘘だろ?」
「信じられねぇ……生きて帰って来れたら御の字だって話をしてたとこなのによ…」
俺がギルドの中に入ると、冒険者たちの視線が一斉に俺に集まった。
俺がドラゴンの素材を担いているのを見て、どよめきが広がる。
どうやら俺のことがかなり噂になっているらしい。
Sランク昇格試験を受ける冒険者が現れるなんてそうそうないことだし、噂になって当然か。
皆ヒソヒソと噂をしながら、俺のことを見てきている。
俺が受付へ向かおうとすると、冒険者たちは自然と傍に退いて道を譲った。
俺は彼らの開けた道を通り、受付へと向かう。
冒険者たちが背後からついてくる気配がしたが、気にせずに受付まで歩いた。
「お、おい…」
「うお…!?」
「お、俺は後でいいぜ…」
「ど、どうぞ…」
俺が受付へ着くと、作業の途中だった冒険者たちが驚いた表情で傍に退いた。
お先にどうぞと俺に手で示してくる。
俺は別に譲ってもらわなくてもいいのにと思いつつ、受付カウンターへドラゴンの素材を乗せた。
ゴトっと重々しい音がする。
「…っ」
「鑑定してくれるか?」
受付カウンターのクロエは、俺が持ってきたドラゴンの素材を見て呆然としている。
俺が声をかけると我に帰ったように俺を見て、それからこくこくと二度頷いた。
「わ、わかりました……少々お待ちください…」
クロエが奥へと退き、間も無くギルド長のエレノアと共に戻ってきた。
エレノアがカウンターに乗せられたドラゴンの素材と俺を見て、目を見開く。
「も、もう倒してきたのか…?」
「はい」
俺が頷くと、エレノアが信じられないと言った表情でまじまじと俺を見た。
まるでどこかに怪我がないか確認するかのように俺の全身を上から下まで観察する。
俺の装備は、ところどころ石山の岩に擦って傷がついていたが、しかし大きく損壊しているわけではなかった。
あちこちにできていたなんでもないような擦り傷もすでに回復魔法で修復済みである。
要するにほぼ無傷と言っていい俺の体は、エレノアは長いこと見つめていた。
「あの……素材の鑑定は…?」
俺がエレノアにそういうと、エレノアが思い出したかのように動き出す。
「そ、そうだな…素材の鑑定……いや、その前に……」
エレノアが正面から俺をまじまじと見た。
「ほ、本当に一人で倒してきたのか…?」
「はい」
「一日で、か…?」
「そうですね」
「ストーンドラゴンを?」
「ええ」
「ど、どこかに怪我は…?危険な目に遭わなかったのか?」
「危ないと思った時は何度かありましたが、生きて帰って来れました…」
「そうか…」
エレノアは何かを考えるように顎に手を当てがり、心ここに在らずといった感じながらこういった。
「信じられないが……しかし認めるより他にあるまい……この素材は間違いなくストーンドラゴンのものだ……ということは、お前がSランク昇格試験に合格したということだ」
「「「「おお!!」」」」
周りの冒険者たちのボルテージが一気に上がる。
エレノアはもう一度、自分でもその事実を確認するかのように俺に対していった。
「この試験の合格を持ってお前を冒険者最高ランクSの冒険者に認定する。本当におめでとう」
「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」」」」」
俺よりも先に周りの冒険者たちが喜びの声を上げた。
冒険者ギルド全体が歓声に包まれ、拍手が送られる。
俺はまさかこんなにたくさんの冒険者に祝ってもらえるなんて思えずに、照れ笑いを浮かべる。
「すげぇよ」
「おめでとう!!」
「マジかよ…Sランクが生まれる瞬間を見られるなんて…」
「俺はあいつならやるんじゃないかと思ってたんだ…!」
「俺は最初っからわかってたね」
「まさか一年ちょっと前にここにきたやつがSランクにあがっちまうなんて…」
「すごすぎてもはや嫉妬すら起きんな…」
「マジで何者なんだよあいつ……伝説の勇者の末裔か何かなのか…?」
いろんな言葉で俺のSランク昇格を祝福してくれる冒険者たちに俺は手をあげて答える。
ギルドからは俺のSランクを証明するための冒険者カードが配布された。
俺はそれを大事に革袋の中にしまう。
「ほ、本当におめでとうございます」
ギルド嬢のクロエも俺のことを祝福してくれる。
「無事に帰ってきてくれて安心しました……Sランク昇格、本当におめでとうございます」
「ありがとう。クロエさんや他のギルドの人たちのサポートがあったおかげです」
俺がクロエを正面から見ながらそういうと、クロエが赤くなって俯いた。
ヒューヒューと周りから茶化す声が届く。
「あの…わ、私、実は…あなたが…」
「なぁ!!一体どうやってドラゴンを一人で倒したんだよ!?俺たちに聞かせてくれよ!!」
クロエが顔をあげて何かを言いかけたところで、横からお調子者っぽい冒険者が突然乱入してきて俺の肩を組んできた。
そして俺を当たり前のように酒場の方へ誘いながら、武勇伝を聞かせろとせがんでくる。
「聞かせろよ!!どうやってドラゴンを討伐したのか!!みんなお前の武勇伝が聞きたいんだ!!まさかこのまま帰るってことはないよな!?今日はお祝いに朝まで飲み明かそうぜ!」
「「「うおおおおおお!!」」」
「「「ひゃっほう!!」」」
もう完全にお祭り騒ぎ状態になっている冒険者たちにガッチリと両脇を固められ、逃げられそうにない。
俺は観念して、馬鹿騒ぎに付き合う覚悟を決める。
冒険者たちが何を俺に望んでいるのかはわかっている。
俺は革袋から金貨数枚を取り出し、カウンターに置いて、彼らが俺に言って欲しいセリフを言った。
「今日は俺の奢りだぁああああああああああああああああ!!!」
「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」」」
ギルドの活気は最高潮に達し、俺がこの街に来て何度目になるかわからない飲んで食べてのお祭り騒ぎが始まったのだった。
〜あとがき〜
近況ノートにて3話先行で公開中です。
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