第23話
男の言った通り、それが私たちと男の今生の別になることはなく、その後も交流は続きました。
シエルは男が教会からいなくなってからひどく落ち込んで、しばらくは食事も喉を通らない様子でした。
他の子供達も、遊びに付き合ってくれる男がいなくなり寂しそうにしています。
幸いなことに男が務めることになったギルドと教会の距離はそう離れていなかったので、私は定期的にシエルと共に男に弁当を届けに行くようになりました。
シエルは、男に食べてもらうために一生懸命料理を作ります。
まだ未完成なシエルの弁当を、男はいつも美味しそうに食べて、シエルはとても喜んでおりました。
「うけつけじょーさんとくっついちゃダメ……シエルすぐに大きくなるから……そうなったらシエルと一緒になるの」
「はっはっはっ。そうかそうか。楽しみにしてるぞ」
シエルはどうやら男がギルドの受付嬢さんたちと仲良くしているのを見たらしく、幼いながら嫉妬の炎を燃やしておりました。
シエルは必死に男に受付嬢さんの前でデレデレしては行けないと伝え、将来は男の伴侶になるつもりだとまだ回り切らない舌で必死に訴えていました。
男はそれを聞いて微笑ましそうにニコニコ笑って聞いています。
本気にはしていないのでしょう。
けれどシエルの方は本気で男のことが好きなので、頬を膨らませて不満げな様子をアピールします。
私はそんな二人の様子が微笑ましくて思わず笑ってしまいました。
そのような感じで男と私たちの交流は続きました。
またギルド長は男との約束を守り、私たちの教会に多額の寄付をしてくださいました。
「ああ…神よ。あなたの施しに感謝します」
男のおかげで、教会には資金が貯まり、非常に潤いました。
おそらくシエルや他の子供達が大きくなるまでは、面倒を見てやれるだけのお金が蓄えられたと言えるでしょう。
一時は子供達のために身売りも考えたほど困窮していた教会が、ここまで持ち直したのはひとえに奇跡と言えるでしょう。
もしかしたらあの男は子供たちを救うために神様が送ってくれた遣いなのかもしれない。
私は男のことをそんなふうに考えるようになりました。
ですが、私たちと男の交流はある日突然途絶えてしまいました。
男が街から姿を消してしまったというのです。
最後に男の姿を見たものは、ギルドの受付嬢さんたちで、冒険者数人の怪我を治療するために連れられて行ったということでした。
もしかしたらそれが冒険者に扮した人攫いで、男はその強力な回復魔法に利用価値を見出され、どこかへ連れ去られてしまったのではという憶測が飛び交っていました。
男の回復魔法はギルドの冒険者たちにとって大変助けになっていたらしく、男の失踪は大騒ぎになり、冒険者さんたちやギルド職員さんたちによって街中の捜索が行われました。
しかし結局男が見つかることはありませんでした。
貧民街で姿を見たという情報もあったようですが、結局男は発見されることはありませんでした。
もうあの男はこの街にはおらず、別の街へと旅立ってしまった。
そんな見方が大勢になりました。
「ああ…神様。どうかあの方をお守りください…」
無力な私に出来るのは祈りを捧げることぐらいです。
子供達のためにいいことをしてくれたあの男を、きっと神様はお見捨てにならないでしょう。
私は男のために、毎日祈りを捧げました。
そして、私よりも一番男の失踪にショックを受けたのがシエルでした。
「シエル…?ちゃんとご飯を食べなきゃダメですよ…?」
「…」
シエルは男がギルドから消えてもう会えなくなってしまったことを知って、信じられないほど失望している様子でした。
口を閉ざし、食事もろくに取らなくなりました。
開きかけていた周囲との扉を完全に閉ざし、誰が話しかけても決して返事をしません。
私や子供たちと遊ぶこともなく、いつも一人で過ごすようになりました。
夜、子供達の部屋から聞こえる啜り泣きの声はおそらくシエルのものでしょう。
「どうしましょう…」
このままではシエルが衰弱する一方です。
私はシエルのためにも男の無事と帰還を祈りましたが、男が私たちの教会に姿を見せることはありませんでした。
「シエル…?」
そんなある日のことでした。
「どこにいるのですか…?シエル…?」
朝、子供たちを起こしに部屋を訪れた私は、その数が一人少ないことに気づきます。
シエルの姿がどこにも見当たりません。
他の子供達も心当たりはないと言います。
「まさか…」
嫌な予感が頭をよぎりました。
夜のうちにシエルが教会を抜け出した。
それはきっとあの男を探すため。
「シエル…!ああ、シエル…!どこにいるの…!?」
私は教会を出てシエルの名前を大声で呼びましたが、応える者はなく、私の声は虚しく空気に溶けて消えていきました。
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