第38話


「おっ、きたな、坊主。最近景気いいみたいじゃねーか」


「ラーズさん、おはようございます」


早朝。


俺がギルドを訪れると、ラーズさんが俺の姿を認めて近づいてきた。


俺を隣の席に座るよう促し、ニヤニヤしながら肩を叩いてくる。


「聞いたぜ?冒険者ランクがBに上がったんだって?」


「はい…一応」


「やるじゃねーか。こんだけ短期間のうちに中級冒険者にまでなり仰たやつを、俺は今までにしらねぇ」


「まぁ、なんとか…」


「そんでぇ?おめえが中級冒険者になれたのは誰のおかげよ?」


「もちろんラーズさんのおかげですよ、ははは。お酒にします?料理にします?」


「はっはっはっ、相変わらず話が早いな。酒をもらおうか!」


俺はラーズさんに酒を奢り、ラーズさんは朝から酒で顔を赤くする。


「いやあ、俺は小僧が最初っからこうなるって分かってたんだぜ?俺は見る目があるからなぁ。はっはっはっ」


「ありがとうございます、ラーズさん。どうぞ飲んでください、食べてください」


「はっはっはっ」


あの日から、俺の姿を見るとラーズさんはこんな感じで絡んでくるようになった。


そして毎回俺に飯と酒を奢らせてくる。


ちょっと恩着せがましいところはあるラーズさんだが、俺は感謝している。


彼の情報のおかげで俺の冒険者ランクが上がったのは事実だからな。


これぐらいの出費は許容範囲だ。


「お、あんた」


「またラーズに絡まれてるな」


「おい、ラーズさん。いい加減そいつに絡むのは勘弁してやれよ」


俺がラーズさんに酒と料理を奢り、機嫌を取っていると、後ろから声をかけられた。


「あなたたちは……えっと確か、蒼の聖獣の…」


「よお、治癒魔法使い。この間はお世話になったな」


そこに立っていたのは、筋肉質の三人の美女だちだった。


蒼の聖獣という名前の上級冒険者パーティーで、構成メンバー三人が全員異種族のハーフだ。


リーダーのアリッサは獣人のハーフ。


弓使いのイリスはエルフのハーフ。


そして盾持ちのヴィオネッサは巨人族のハーフで、身長は三メートルを超えている。


彼女らと俺は、少し前に臨時パーティーを組んだ。


彼女たちがこの街にあるダンジョンと呼ばれている地下迷宮の下層に挑むというので、俺は回復役として彼女たちの冒険に同行した。


そしてそこで彼女たちに回復役としての力量を評価され、かなりの報酬も受け取った。


普通臨時パーティーメンバーの報酬は、他の正規のメンバーのそれよりも低くなるのだが、彼女たちは俺に同じ額の報酬を払ってくれた気前のいい人たちなのだ。


「この間はどうも」


俺は蒼の聖獣の三人に会釈をする。


リーダーのアリッサが歩み寄ってきて、料理に夢中になっているラーズさんの背中をポンと小突いた。


「おい、ラーズ。お前またこいつに絡んでんのか?いい加減にしろよ」


「あぁん?なんだ雌猫お前か!!功労者に向かってなんだその言い草は!!!」


「いつまで過去の栄光に縋ってんだ。いい加減ギルドに入り浸るのやめろよ!こいつにも絡むんじゃねぇ。困ってんだろうが!」


「うるさいぞ雌猫!それになぁ!俺は情報提供の正当な対価として振る舞いを受けているんだ!たかってるんじゃないぞ!!!」


「そうなのか?」


アリッサが俺の方を見る。


俺は頭をかきながら頷いた。


「ははは…まぁ、そうですね。ラーズさんにはいろいろお世話になったので…」


「そうか。まぁお前がそういうのなら…」


「ふん」


ラーズさんは拗ねたように顔を背け、料理に集中する。


「今日は何か用ですか?」


俺は周りを囲んできた蒼の聖獣の三人に、そう尋ねた。


「おう、またあんたと組みたいと思ってな」


「私らダンジョンに行くんだ」


「あんたがいれば、安心して無茶できるからな。どうだ?報酬もたっぷり出すぞ?」


「そういうことなら、もちろんいいですよ」


俺は快く彼女たちの依頼を引き受けた。


上級冒険者パーティーである彼女たちと行動を共にすれば、ギルドの評価も上がる。


それに彼女たちは金払いもいい。


臨時メンバーとして入るのにこれほどいいパーティーはなかった。


「よし、決まりだな!


「よろしく頼むぜ!」


「ありがてぇ。あんたは人気だから捕まってよかったぜ」


三人がパシッとハイタッチする。


「それじゃあ、さっそく行こうぜ?こっちはクエストの準備は整っている。あんたは?」


「えーっと……今すぐに行くのは構わないんですが、ちょっと頼み事があって…」


「おう、なんだ?私らにできることならなんでも言ってくれ?」


アリッサが言ってみろと顎でしゃくる。


俺は彼女たちに思い切って昨日から考えていたことを伝えた。


「出来れば……その、少しでいいので俺を戦闘に参加させてもらえませんか?」


「え?」


「あんたを戦闘に?」


「そりゃまたどういうことだ?」


「というのはですね…」


俺は彼女たちに、自分の戦闘技術を向上させたいこと。


ソロでのクエストをいきなり受けるのは不安があること。


自分は、治癒魔法は得意だが、戦闘の方はからきしなので、誰かに戦い方の基礎を教わりたいことなどを伝えた。


真剣な表情で俺の話を聞いていた三人は、互いに顔を見合わせあって頷いた。


「そういうことなら問題ないぜ」


「流石に下層での戦闘は危険だから参加させられないが、上層の雑魚ども相手なら問題ないだろ」


「あんたははっきり言ってそっちの見込みもあると思うぜ。私らの冒険について来れるぐらいだからな。鍛えたらそれなりのものになるだろう。そういうことなら引き受けるぜ」


「ありがとうございます」


俺は快く俺の望みを受け入れてくれた彼女たちに感謝する。


「よっしゃ。そうと決まれば早く行こうぜ」


「お前に戦いのイロハを教えてやるよ!」


「安心しろ。危なくなったら私らが守ってやるからな」


「はい、お願いします」


こうして俺は上級冒険者パーティー、蒼の聖獣に戦闘を教えてもらうことになった。


「それじゃあ、ラーズさん。代金は払っておきますので、俺はもう行きま……」


立ち上がった俺がラーズさんにそう言い残して立ち去ろうとすると…


「うーん……むにゃむにゃ…」


ラーズさんはさっそく酔い潰れて机に突っ伏していた。

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